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歌声がつむぐ選択肢  作者: 一桃
13/66

第一優先、冥府へ戻る

こんばんは。

すっかり秋めいてきました。


私は趣味が多いのですが、秋はやっぱりスポーツとか芸術の季節で、毎週末が楽しみです。


今日は粘土を捏ね、来週はロードで走りに行き、平日夜はテニスと小説。

せっかくいただいた命なので楽しみます。


でも今日、車にイタズラされたんですよね。

私の可愛いローバーミニ(愛馬)ちゃんに、心無い人が何かで傷つけたようです。


いつもご機嫌なので、やっかまれることは仕方ないとは思うのです。

でも愛馬なんですよぉ。サナレスだったら根に持ちそうです。



        ※


 今すぐにでもサナレスを追いかけたい。

 けれど少しだけリンフィーナという娘がアセスに惹かれている気持ちを知りたいという興味本位で、ソフィアはアセスの側にいることにした。


「いったいこんな人形にどんな魅力があるって……!?」

「心の声がダダ漏れです。私の意欲を下げるので、心の中だけでとどめていただけるとありがたいのですが……」

 アセスは閉じ込められた白磁の塔の一室で、無造作に置かれた薬品の種類をひとつづつ調べていた。


 薬草は形でわかるらしく、瓶の中に入った液体の匂いを確認しているようだ。


「まだ痛むのか? リンフィーナも同じことをしてあんたの薬を調合してたみたいだけど……」

 ソフィアの言葉にアセスは少し目尻を下げた気がした。


「痛みませんよ。彼女の手当は完璧でした。けれど、私はもう一度安全に冥府に行く必要があるのです」

「安全にって……、冥府に行くってのは死ぬってことなんだけど……普通」

「そうですねぇ。でも直近で命をかけて冥府を行ったり来たりしてきたので、私はより安全に行き来できる方法を模索した。だからラーディオヌ一族の刑である血抜きってのは、まさに冥府への入り口だと思っていたんですが……、サナレスに却下されましたね。命の不確定さを否定されました」


 だから薬草を探し、いっときでも仮死状態にしてくれる薬物を手に入れようとしていらしいのだが、ソフィアはアセスの行動が間違っているように思えてならない。


「仮に、安全に冥府を行ったり来たりできたとして、おまえは何をしようとしているんだ? 私ならあんな場所に、二度と戻りたくはないが……」


「世界のほころび、この大陸で起こっている地震や災厄は、冥府の王の統治が弱まっているからだと私は考えているのです」

 的を得ていることがわかり、ソフィアは少し驚いた。どうしてこの男は最短で真実に気がついているのだろうかと思う。


「えっと……」

 おまえの考えは正しいと言ってやるほど、ソフィアも優しくはない。


「だったらおまえは何をするという? まさか冥府の王の身代わりになろうとしているのか?」

 そんなことを望む馬鹿はいないと思っていたので、ソフィアは率直に疑問に思った。


「まぁそのような先の話をする前に、私は冥府に行くための必要条件を揃えたいし、貴方も私といるのか、サナレスのところに行くのか考えればいいのではないですか? 貴方の力があれば、この閉じ込められた場所を一瞬で出られるのでしょう?」

 それはここに留まっているアセスも同じだと、自分を殺してもいいと脅された時に、その気配に圧倒されていた。


「おまえだっていつでもラーディオヌ一族を逃亡しようと思えば簡単だろう? ーーまさか本当に、冥府を背負おうとか思ってる……?」

「なくはないです。サナレスが背負おうとしているものより、冥府なんてイチ世界は多少根暗ですがしれたものです。ーーこのカビの生えかけたラーディオヌ一族と大差ないので」

 ソフィアは絶句した。


「で、サナレスはさらに何が大変だって!?」

「それは私が想像するだけなので、サナレスに聞いていただいた方がいいかと思います」


 サナレスとアセスは、本当に恋敵なのかと思うほど、互いのことを知り尽くしているようだった。

「おまえの考えは少しは理解したが、ヨアズに会うことは簡単じゃない。冥府を行き来したなら、冥府の番人に会わなかったか? 彼らがそう簡単に納得しないだろう」

「あ……」

 何かを思い出したかのように、アセスは動作を止める。


「冥府の番人って、三つ目の女のことだろうか?」

「それから彼女が従える死神、二人のことだ」

「ああ……」

 アセスはなぜか斜め下を向いて束の間沈黙した。


「あの二人は、冥府というかーー冥府とこの世界を安定させるのに、何か役割でもあるのでしょうか?」

「はぁ?」

 役割があるかないかなど、あまりにも愚問だった。


「彼らがいなければ、亡者は異世界にいくらでも道を開くし、そういった綻びは想像以上の災厄を産むだろうけど、……あの二人がどうにかなるなんてあり得ない」

 番人なのだから、と笑おうとするソフィアの前で、アセスは完全に動作を停止している。


 やっぱり人形だったのかと思うほど、その硬直具合は見て明らかで、ソフィアは彼が本当に生きている生命なのかどうかを確認したいほどだった。


 ちょっと頬でもつついてみようか……?


「何??」

 不可思議に思うソフィアの傍らで、アセスはぼそっとつぶやいら」

「すみません……」

 それは謝罪の言葉で、ソフィアはさらにわからなくなった。


「私があの二人を吹き飛ばしてしまいました。冥府の外へ」

「え?」

「いえ……、不可抗力です。自分の力を試してみようとしたら、自分の魂ごと彼らも吹き飛んでしまって……。まさかこの状況、ヨアズ様のお力以上にあの二人の不在が原因なのでしょうか?」


 聞かれた内容のめちゃくちゃさに、今度はソフィアが動作を止めた。まさかこのアセスという男……、冥府の番人を冥府から退けてしまったというのだろうかーー?


「ーーおまえ、とんでもないことをしたな」

「とりかえしはつきますか?」

 二人して顔を見合わせたが、この時ばかりは二人とも血相を変えていた。感情表現が苦手であったとしても、アセスの瞳が動揺していたことを、ソフィアも見逃さない。


「ーー一刻も早く、冥府に行った方が良さそうだ……」


感想、足跡、コメント、評価、ブクマが次の活力に。

何卒反応よろしくお願いします!


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

「歌声がつむぐ選択肢」

シリーズの10作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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