別人格の彼女
こんばんは。
このところまた、一日一章をやってしまっている。
仕事を終えたひととき、色々とやりたいことはあるけれど、やっぱり書くことがしっくりくるみたい。
明日は、ドローン飛ばしてテニスして。
書けるかなと思うと、今日は思う存分書こうとか思う。
結局好きなんだなぁ。
※
アルス大陸中部で、サナレスがこれからの行動指針を模索している頃、ラーディオヌ一族にいるアセスは、諮問委員会にかけられると言う不名誉な総帥になっていた。
アルス家直系の王族でありながら魔道士に落ちたと言われ、その名を失墜しきっていたけれど、サナレスとリンフィーナがアセスの窮地を救ってくれた。
魔道士に落ちたのは真実だったので、複雑な心境だ。
最も処刑される存在になっており、未だ諮問委員会にかけられるだけマシで、首の皮一枚で繋がったとしか言いようがなかった。
ラーディオヌ一族アルス邸にすら戻ることを許されず、白磁の塔の一室に幽閉された。
なぜか地下牢よりマシな待遇になったが、王族としての扱いを受けているわけではない。
不思議と手当てされており、そこで死ねと言われているわけではないらしい。
アセスは自らの四肢に巻かれた薬と布を見て状況を判断していく。
「あなた起きたんなら、サナレスの行方を探しなさいよ!」
自分が今生において守らなければならないと誓った姫は、リンフィーナ・アルス・ラーディアだった。見れば彼女の衣服はそこらじゅう破けていた。そして自分の四肢に手当てされている布だと判じ、手当てしてくれたのはリンフィーナであるらしいことを知る。
衣服を破り、薬を調合し、手当てしてくれたのはきっと彼女だ。
「あの……」
謝辞を述べようとしたけれど、今リンフィーナはリンフィーナでなくなっていることに、アセスは戸惑って言葉を失った。抱きしめたいと思っても、別人相手では手を出せない。
「あんたって本当、鈍いし、無口だし、何考えてるのかわからないんだけど!! ちょっとはこっちの言うことに即時反応してみなさいよ!」
誰だ?
無口とは言われたことはあった。それに何を考えているかわからないとも言われたこともあった。ここまでは自らの特性に自覚がある。
けれど、鈍いって言うのは完全に酷評だ。
それがリンフィーナではないけれど、彼女の口からつむがれた時、違和感が拭い去れず、ただ唖然とした。
「リンフィーナ……、ではないんですか?」
「違うって言ってるでしょ!! この朴念仁!! あんたサナレスのおかげで死ななかったんだから、さっさとサナレスを探しなさいよ!」
リンフィーナから飛び出してきた別人格は、相当ヒステリックになっていて、アセスは表情をこわばらせた。
「もう!! 相変わらず何なのよ、あんた。ちょっとはさ、反応してくれない!? 最低の王族貴族制度で生まれたゾンビみたいな人、もう世も末よね……」
ゾンビって外来語は、死者って意味だったかな……。
ひどい言われようだ。
内心では相当動揺していたのだけれど、自分の容姿は感情表現が苦手すぎて、そして饒舌ではなく、さらに少女の怒りを買っているらしい。
目の前の少女は、顔を真っ赤にして怒り続けている。
女は苦手だった。
リンフィーナはアセスにとって特別な人だ。
それなのにリンフィーナだけれど、彼女ではない。
誰だろう?
女の部類に入れていいのかどうかさえわからない相手だった。
どう間向かえばいいのかわからず、アセスは少しうつむいて、心して顔を上げた。
朴念仁だとか、ゾンビだとか……。
言われている言葉は、地味に自分の心をえぐってくる。それがリンフィーナの口から発せられているのは事実で、時折呼吸するのさえ忘れてしまう。
「あの……、あなたがリンフィーナではないのなら、自己紹介から始めていただけませんか? 私とあなたは初対面なわけですし」
「はぁ!?」
彼女にとってはとぼけた提案だったのだろうが、少しだけ彼女の怒りに歯止めがかかった。
「もう一度言います。私はあなたを存じ上げないので、自己紹介していただけるとありがたいのですが」
「私はソフィア! リンフィーナは私のラバースで、私が本体。私はサナレスを探したいの」
我儘な少女のようだった。
ソフィアという名にアセスは引っ掛かりを覚えた。
そして。
ああ、これかーーと納得する。
ソフィアの名は、アルス家に置いて有名人で、魔女として火炙りに処された少女の名だった。この歴史がなければ、アルス家は呪術を疎ん(うとん)じたりせず、ラーディアとラーディオヌ一族に二分されることもなかったのだ。
サナレスが自分に隠したかったのは、リンフィーナの中に、こんな別人格が眠っていた事だ。自分が伴侶にしようとしたリンフィーナは、彼女を内在させているから、常に命が危険だった。
いつ消えるかもしれないと言うのに、彼女を紹介したサナレスは、自分に対していつも後ろめたさを感じていた。彼女を正当に奪い合おうと言いながら、ずっと私に遠慮してきたのはサナレスだった。
けれどリンフィーナはリンフィーナだった。喜怒哀楽が激しい彼女の生命力は、誰かのラバースなんてものではない。サナレスとてわかっているはずだ。
「あんたね! あんたのラーディオヌ一族での処刑は、サナレスが悪者になることで免れたんでしょ?」
「そうですね」
「今はもう、ラーディオヌ一族総帥の立場を追われることはないんでしょ!?」
「それは不確定です」
目の前の少女はリンフィーナとは性格を異にしていて、今にも自分に掴みかかってきそうなほど激しい。
「ソフィアと言ったか? リンフィーナは? 彼女はどうしている?」
リンフィーナの人格の行方だけが気になってしまい、彼女の質問には心ここにあらずで答えていると、アセスの問いにソフィアは容赦なく言ってきた。
「リンフィーナ、リンフィーナってうるさい!! この娘は優柔不断なんだ。おまえに気持ちを残しながら、サナレスが居なくなっては不安定らしい。あんたが無事だとわかったら、あっさり意識を手放した。気持ちは一緒。あんた一回リンフィーナに見限られてるんだから、ここは譲れよ。てか、絶対サナレスの方がーー」
優れている?
いい男?
それとも、好きだとでも言うのだろうか?
ソフィアは言葉を飲んでしまったので、先を聞くことはできなかった。
伝説の魔女の名前がソフィア。
ソフィア・レニスという滅びた星の名前を持つ彼女がもし本物の魔女の再来だった時、リンフィーナがどうなるのかだけが気掛かりだ。
「サナレスは約束を違えない」
アセスはぼそっとサナレスに対しての信用を口にした。
「私と最後に会った時、彼はアルス大陸を整えると言っていた」
「整える?」
「つまり私とは違う方向性で動くと言った。それは裏を返せば、私にも別に望みたいことがあったと言うことだ」
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偽りの神々シリーズ紹介
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「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
「歌声がつむぐ選択肢」
シリーズの10作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
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