序章
こんばんは。
「脱冥府しても、また冥府」を書き上げても、まだまだ書き足りない。
エンドレス続けていける日記のような小説は、次の章になってもタラっと続けていきます。
お付き合いいただいている方、読んでもらいました方、ありがとうございます。
孤独だったとしても書き続けるんですけどね。
書きたいから書いているんで。
でも反応は嬉しいものです。
今日は京都に行ってきました。
多趣味な私の趣味の一つは、石でして、ミネラルショーに行きたくて。
昔は無料だったのに、最近チケット制になりまして、入場制限あるみたい。ただどんな入場制限かって思うほど、すごい行列だったので、コロナもらわないといいけどなぁと内心思う。
いや、コロナもらったら、小説書き放題!?
どっちでもいいやと思ってしまった。
※
子育てというのは難しい。
幼馴染として育った親友ルカとレイトリージェの間に誕生した子供を認知したサナレスは、その子が苦労なく育つよう、後見人を引き受けた。
ロイ・フェリシア・ラーディア。
王族の自分が貢献人になり、公爵家は安泰。幼かった赤子は、フェリシア公爵家の跡取りとして、何不自由なく育てられたはずだった。
それなのに一年前、あろうことかレイトリージェは自害した。
リンフィーナの婚約話や、ハガ国で人の子の争いが起こった件でバタバタしている最中だったが、彼女が自害した知らせを聞いてサナレスは全ての動作が止まり、思考が真っ白になってしまった。
誰よりも気丈で、生命力に溢れ、溌剌と笑っている彼女の姿しか思い起こすことができず、そんな彼女が自殺したなんて、サナレスには想像もしなかったことだ。
彼女の姉であるムーブルージェが病気で他界し、子供の父親であるルカが死んでしまった後は気落ちした様子だったが、それでもロイを子育てしている期間、彼女は誰よりも逞し(たくまし)かった。
ラーディア一族は女性を蔑視していた。
けれどフェリシア公爵家の跡取りとして毅然と振る舞い続けた彼女が、ーーいったいどうして?
彼女の葬儀に参列したサナレスは、その理由に合点がいかなくて、またしても自分だけ過去から切り捨てられたような気持ちになった。
その頃になると彼女の息子ロイは、サナレスと疎遠になっており、神官長として立派になっていた。
そして今目の前にいるロイは、革命軍を率い、私にその総長になって欲しいなどと言ってくる。
無理だから。
のっけから断らせてもらったけれど、頭のいいロイが算段して結束した革命軍は、この世界の不条理を払拭するほど理にかなっていた。
「私は貴方が私と共に新世界を築いてくれることを夢見ていたのですよ」
「ーー残念ながら私は、この世界の未来に夢を見ない」
なんとしてもルカは自分を革命軍に引き入れたいようだった。
けれどルカが集めた革命軍は、サナレスが想像していたよりもかなり陽気で、団結力が強かった。
「ホホホほーい♪」
築いた鉄道が立ち寄る拠点地下深くに、彼らのアジトが存在したが、そこでは賑やかな音楽がかかっていた。
「ヨホホホーイ♪ ホホホホーーイ♪」
楽器を奏でる、バーのある酒場だった。
寄せ集めのテーブルの横には、酒樽が置かれ、彼らはそこに腰をかけて上機嫌だ。
見るからに柄の悪そうな者もいるが、明らかに神子の王族貴族、そして人の子の王族まで集っていて、サナレスが顔を見せると、歌を歌って集った者達の注目が一心にこちらに向いてきて、途端にその場の空気が一瞬変わってしまう。
注目されたロイは、サナレスを彼らに紹介する。
「すまないがサナレス様には総長にはなっていただけなかったぁ!」
集まった者達の間で、嘘はつけないと、ロイは単刀直入にそう言って自分を紹介した。
「だが私たちはサナレス様とこの先しばしの時間、一緒にいることを約束していただいた!」
「おーー!」
「やったなロイ!!」
不快に思われるのかと思い気や、なぜか盛り上がって酒を酌んだジョッキで乾杯している。
「私は……、仲間になるとは言っていないぞ……」
誤解されてはいないかという圧倒的なお祭り騒ぎに、サナレスはロイにボソと呟いたが、ロイは「皆わかっていますよ」と説明してきた。
「ここにいる革命軍の皆は、貴方に憧れて集まった連中だから、つかの間でも一緒にいられることは光栄だと思っているんです」
なんとまぁ。
ずいぶん自分は神格化されたものだと、サナレスは苦笑する。
その横でロイが念を押してきた。
「貴方が、王族だからじゃないですよ。ラーディアだとか王族だとか、そんなの私達には関係ない」
ロイは皆の熱気に応えながら、ジョッキを片手にこちらに酒を差し出してきた。
「ビールは?」
「ーーいただこう」
懐かしかった。ビールを初めて飲んだ相手は、ロイの父であるルカとだった。ルカと訪れた記憶のあるラーディオヌ一族の夜市は賑やかで、勝手に盛り上がっているこの場所と似ていて、思わず手を伸ばして受け取っていた。
「貴方が銀髪の姫君をラーディオヌに嫁がせようとした時、それからアルス大陸内外の王族貴族を処刑し始めた時、我々はあなたを同志だと思った」
私欲以外の何者でもない行動だったので、サナレスは頭を抱えた。
「いいんですよ」
自分が言いたいことを察したロイは、言葉を遮る。
「何が理由だったとしても、貴方の一挙一動はここに集まっている者に希望を与えた。それは確かです」
「だったらそれはお前達の真実で、私が否定するものではないな……」
「ええ。いい判断です」
自分は虚像でも、あった方がいいのだと理解した。
「それでどうする?」
「とりあえず乾杯しましょう」
サナレスは吐息をついて笑ってしまった。
「ここからなのですよ」
そう言ってロイはサナレスに座るように合図した。
「さて私達が仲間にしたかったサナレス様に席についていただきましたよ」
「ここはやっぱり、歌姫の出番だよなぁ」
酔っ払った男が大きな声で口笛を吹く。
「リクエストだよ、我らが歌姫!!」
「ルビィ! ルビィ!!」
何が始まるのかと思った。
そこは地下の酒飲み場で、舞台なんてたいそうなものはなかった。
「ルビィ!」
「ルビィ!!」
囃し立てる声は歌姫を呼ぶためのものだと想像がついた。
サナレスはビールを喉元に流し込みながら、成り行きを楽しもうと足を組んでいた。
「ルビィ!!」
異国に来たようだと思った。
ルカと一緒に、初めてラーディオヌ一族の夜市に出掛けていったあの日が蘇っていた。
ビールが不味くてびっくりし、2人で舌を出して顔を見合わせた夜を鮮やかに思い出せた。
『苦い!』
笑い合った。
この喧騒は懐かしく、それでいて寂しい気分にさせてくる。
それなのに、声が聞こえた。
声を聞いて、サナレスはその歌声に全神経を持っていかれる。
聞こえた声は、音。
歌声というよりも音波だった。
天使の歌声ーー。
これが人の声帯を使って紡がれる音なのかと驚愕するその歌声は、過去に聞いたことがあった。
天使の歌声だ。
思わず、つぶやいた。
「ムーブルージェ……」
誰にも聞き取れぬほどの声で、サナレスは100年経っても忘れられない女の名を口にした。
「サナレス、私より幼いですが、私の叔母です。母レイトリージェは公爵家を継ぎましたが、その後祖父と祖母の間に幼い姫が誕生し、私が養育してきた娘です」
ムーブルージェ、彼女に面差しが似ているはずだと思った。同じ血を引いている。つまり、ムーブルージェとレイトリージェとは姉妹だということになる。
「いい声だ……」
褒め言葉を言う口とは裏腹な感情で、どうして今この声を再び聞くことになったのかと、サナレスは考えてしまった。
どうして、なんてこと考えても仕方がない。
これは成り行きで、運命なのだ。
「彼女も革命軍に?」
「ええ。どうにも私にばかりなついてしまって……。彼女は祖父の血を濃く引いていて、見事な金髪なんで、革命軍に入らずとも何不自由なく貴族として暮らしたのでしょうが……、私の計画がバレてしまったので。仕方なくついてくることを認めてしまったら、仲間達の人気者になってしまいましてね」
「ルビィ?」
「いえ、正式な王族名はルージェ・フェリシア・ラーディアなのですよ。母レイトリージェ、叔母ムーブルージェからその名を継承したのだと、祖父から聞いております」
「ルージェ?」
「あいつもサナレス様がここにいらっしゃったこと、心底喜んでいるんで、歌が終わったら紹介させて下さい」
「いくつになるのだ?」
「皇女リンフィーナ様と同じ歳です。サナレス様の妹姫の生誕祭で貴方を見かけたと、本当にうるさくてーー」
サナレスは歌っているルージェを見た。
天は、どうしてこのような悪戯を現実にしてしまうのだろう?
歌声はムーブルージェそのもので、容姿すら似て見えてくる。
「本当に彼女も革命軍に入っているというのか?」
「違います、と言いたいのですがーー」
ロイがこの世界の何を変えたいのか、サナレスは知っていた。
「彼女も銀髪を迫害してきたラーディア一族を許せなかった?」
「ーー私が銀髪であったがゆえ、苦労してきた姿を彼女に見せてしまいましたから。それに……母が父のことで……」
サナレスはうなづいた。
「私は革命軍なんてたいそうなものを背負うことはしない。ーーけれどロイ、見た目による差別を無くすことについては、私はお前に協力する」
「父う……。サナレス様! 貴方にそのようなお声がけを頂くことが出来ました私は、これまで生きてきた甲斐があったというものです」
「はぁ?」
声色が凄んでしまった。
「死ななくてよかった」と胸を撫で下ろすロイに対してサナレスは一喝した。
「馬鹿か!?」
命を絶とうとした経験は、サナレスとて日常的にあった。
だから言えることもある。
「死にたければ死んでしまえ。私は止めない」
それが人として選ぶことのできる、1等級の権限ではないか。
だからレイトリージェ、彼女がそれをしたときに何か腹が立って仕方なかったが、これだけは言っておきたかった。死なないでくれと思っている人の気持ちも考えろ!
「誰がどうしたからとか、人を巻き込んで自分の命の火の消火ポイントを決めるなよ」
人との関係を理由にするなんて、あり得なかった。
「死にたければ死ねって、私はいつでも言えるけれどな。その理由を他人のせいにしたら、もうそれ、死んでもいいぞっていう以前に、生まれてくるなって言いたい。少なくとも生まれてきた以上、生存競争で生き残って、生まれてくるための戦いに勝ってきているわけだからな。記憶がなくとも、本能でそれを思い出してほしいもんだ」
人が本当に死にたい時は、何よりも大切な人を失った時なんだ。
取り返しがつかないぐらい大切な命を失った時、死にたいというより、生きている意味を見失う。
サナレスがロイにゴチていると、彼の叔母だけれども妹分が寄ってきた。
「サナレスって本物? 本当に貴方なの? うん、レイトリージェ姉様に聞いていたとおりだわ」
馴れ馴れしい態度だ。失礼だぞと戒めるロイに反して、ルージェはとても奔放だった。
「ねぇ私の歌、どうだった?」
「いい声だった」
サナレスが答えるとルージェは「お世辞だね」と軽く笑った。
「私、わかるの。貴方が新たに感動してくれていないこと、わかっちゃうの。貴方は多分……、もっとすごい歌を聞いたことがあるんだよね?」
遠慮なく距離を詰めてくる彼女に、サナレスはニコリと微笑む演技をした。
「いえ、とても素晴らしい歌声だったよ」
「嘘ばっかり!!」
ルージェはサナレスの劇団ひまわりを見破ってぷいと横を向くと、革命軍という仲間の喧騒の中に消えていった。
「すみませんサナレス様。ーーあいつは少し変わったところがあって……」
サナレスは吹き出した。
その後ツボに入ってケタケタと笑ってしまった。
兄という存在は、いつも妹に振り回されるものだと共感する。
「元気があって可愛いじゃないか」
サナレスはリンフィーナを思いながら酒による酔いを受け入れた。
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