第4話 誰も彼女を見ていない
いきなり視界に飛びこんできた黒ずくめの少女は、俺の好奇心をくすぐった。
黒い布に覆われた小さな机と、その中心に置かれた水晶玉。その妖しげなきらめきを静かに見つめながら、彼女は黒いパイプイスに腰かけている。
見た感じ流しの占い師だ。そして、かなりかわいい。
俺は占いにまったく興味はなかったが、少女が持つ不思議な存在感に自然とひきつけられる。
せっかくだから、投資について占ってもらおうかな……。なにかに誘われるように、俺は彼女に近づいていった。
次の瞬間、頭の中でサイレンがけたたましく鳴り響き警告する声が聞こえた。
「止まれ! あの子に近づくな!!」
我に返った俺は、一呼吸おいて考えてみる。そういえば、このあたりは露店の営業が禁止されているはず……。
それにあの女の子、ひょっとして未成年じゃないか?
パトロール中の二人組の警察官が姿を見せたのは、ちょうどその時だった。
危なかった……。心の中で呟いてホッと胸をなでおろす。
深夜の繁華街で、違法な露店をひらく未成年らしき少女。それを警察官が見逃すとは思えない。うっかり彼女に声をかけていたら、俺まで疑われていろいろ面倒なことになっただろう。
やっぱり今日は飲み過ぎた。気をつけないとな。深呼吸して緩んだ気持ちを引き締める。目と鼻の先では、これから職務質問が始まるはずだった。
しかし、二人組の警察官は、少女の前をチラリとも見ずに通り過ぎる。そして彼らは、そのまま何事もなかったかのように歌舞斗町の雑踏へと消えていった。
え? なんで? 違法営業だよ? たぶん未成年だよ? 答えを探すように周囲を見渡した俺は、すぐにひとつの違和感に気づいた。
あれ? 誰もあの子を見てなくないか?
ってそんなわけないよな。街角にたたずむ黒ずくめの占い師。おまけに美少女。こんな目立つ存在を、大勢の人が気にかけないなんておかしい。
視界に入ればチラ見するだろうし、普通に占ってもらおうとする人だっているだろう。好奇心から声をかけようとする酔っ払いだっているよな。俺みたいに。
そう自分に言い聞かせながら、今度はもっとじっくりと行き交う人々を観察する。けれど、見れば見るほど違和感は確信に変わっていく。
警察官だけじゃない。俺意外、誰も彼女を見ていない……。