第2話 ウェイウェイ
12月の第二金曜日、アジア最大の歓楽街と呼ばれる歌舞斗町は、大勢の人でごった返していた。忘年会シーズンだけあって、今日は一段と騒々しい。まるでお祭りみたいだ。
そんな人ごみをすり抜けながら、なじみの居酒屋へと向かう。大通りにさしかかると信号機が点滅していた。
ダッシュして渡ろうと思ったが、やっぱりやめた。年の瀬に転んでケガでもしたら大変だ。ここは安全に行こう。
大通りの歩道は、信号を待つ人でどんどん埋まっていき、あちこちから酔っ払いたちの楽し気な会話が聞こえてくる。
週末の歌舞斗町ならではの光景。しかしその中に、ひときわ目立つ集団がいた。
「熊尾井先輩マジかっけーッス! 俺、一生ついていくッス!!」
「先輩マジ天才! マジ、リスペクト!!」
ガラの悪そうな若い男たちがウェイウェイ騒いでる。
「先輩、次はなにに投資しちゃうんスか? なにでガッツリ稼いじゃうんスか?」
また投資の話か。今日はやたらと縁があるな……。
忘年会での苦行を思い出してウンザリしながら、騒がしい集団を横目で見てみる。その中心にいたのは、純白のスーツと毛皮のコートに身を包んだ金髪の男だった。
歌舞斗町には独特のファッションセンスをもった人がたくさんいるけど、あそこまでド派手なのは珍しい。
「オウ! とりあえず仮想通貨はいったんやめだ。これからは株とかFXとかで稼ぐからよ! おまえら今日も俺のオゴリだ。朝まで飲みまくるぞ!」
金髪の男が、威勢よく声を上げる。
「ウェーイ! 先輩マジリスペクトっす! 先輩は自分の憧れッス!」
「ウェーイ! どこまでも先輩についていくッス!」
後輩たちも大はしゃぎだ。
バブル景気ってのは、あんな感じだったのかな……。
ふと頭をよぎったのは、いつか歴史の授業で聞いた言葉だった。あの時代は、日本中があの集団のようにウェイウェイ騒いで盛り上がっていたのかもしれない。
まあ、俺みたいなこの時代のしがないサラリーマンには、関係ない話か……。
振り返ると、信号がタイミングよく青になった。