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第1話 最悪の忘年会

「いいか、よく聞け牛上うしがみ! これから日本は、少子高齢化が進んで経済が縮小するんだ。これまでみたいに普通に働くだけじゃダメだ。投資で積極的にリスクを取ってく時代なんだ!」


 年末の忘年会、悪酔いして絡んできた先輩社員の栗栖くりすさんが、ろれつの回らない口調で熱弁する。

 ちなみに、この話を聞かされるのはこれが5回目だ。酔っぱらって同じ話を繰り返す人は他にもいるけど、栗栖さんは特にひどい。


 またその話ですか! いい加減にしてくださいよ! と言いたい気持ちを、グッとこらえる。


「僕も投資に興味はあるんですけど、よくわからなくて……。ところで知ってます? この芋焼酎、最近人気らしいですよ」

 機嫌を損ねないように気をつけながら、手元の酒に話題を移してみる。投資の話はもうウンザリだ。


「ああ、これ人気なのか。たしかにうまいな。人気と言えばな、これ見てみろ!」

 自慢気にワイシャツのそでがまくられる。栗栖さんの左手首には金色の時計が巻かれていた。デザインはかなりゴツい。

「おお、カッコイイですね! すごい存在感です!!」

 職場につけてくるには派手すぎるだろ……。と思いつつ、大げさにほめる。


「だろ? いいだろ? 100万したんだぜこの時計! ずっと欲しかったんだよ。でな、どうして買えたと思う?」

「えっと、どうしてですか?」

「投資だよ。投資で稼いで買ったんだ。それに、この時計も将来は値上がり確実だからな。これもある意味投資だ。いいか牛上。これからは投資の時代なんだよ。なぜかと言えばな、これから日本はな――」


 また始まった。もう勘弁してくれよ……。ため息を隠しながら、グラスを手に取り芋焼酎を口にすると、栗栖さんの機嫌が悪くなった。


「おい! ちゃんと聞いてるのか。牛上!」

「はい! 聞いています! これからは投資が大事なんですよね?」

「そうだ。なぜかと言えば、日本は少子高齢化でな、経済はこれから――」


 その後も来栖さんは、壊れたオモチャのように同じ話を繰り返す。控えめに言って最悪の忘年会だ。

「――いいか牛上。お前も入社して5年目、少しは貯金もあるだろ? だったらリスクを取るんだ! 投資をしなきゃダメなんだ!!」



 やれやれ、ひどい目にあった。忘年会が思ったより早くお開きになったのはよかったが、同じ話を何度も聞かされたせいで頭がガンガンする。

 腕時計を見ると、時刻は午後9時30分だった。終電までにはまだ余裕がある。明日は休みだし、少し飲み直すかな……。


 そのまま俺は、行きつけの小さな居酒屋がある日本橋の歌舞斗町かぶとちょうへ向かった。

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