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「せんぱ~い!今度はこのペンキについて、ひとつお願いします!」
ヴィダル王の威光も眩しいこのピジニリシュ国立研究所に再び証拠品が届けられたのは、陽も落ちてからの話であった。
「またあ?もう、とりあえずそこのテーブルにでも置いておいてよ。」
華美なドレスと釣り合わない口調でそう言って振り返ったのは、豊かなプラチナブロンドをがしがしと掻き毟る
侯爵家の令嬢、エミリー・トーロフ。彼女の手には異臭を放つビーカーが握られていた。
---15分後--------
ひとまず散らばる書類を机の脇に寄せ、後輩のゼラを横に座らせたエミリーは
目の前にある赤色の物体に目をやった。
「それで?今回も王子がらみなのかしら?」
「そうですね。第三王子の婚約者であらせられるカトレア様が、元庶子であるマリア様をいじめたと、
そしてこのペンキはその為に用意されたものだと、そういう話しになってますね~。」
「ペンキをかけられたってこと?あれは思ってるより健康被害が生じるものだけれど、マリアさんは大丈夫なのかしら。」
「実際にかけられたわけではないみたいです。中庭から図書室に向かう通路のに面した建物の2階が美術室等々になっているんですけど、
庭で別れたマリア様の背中を見送っていた王子が、たまたま美術室の窓際に置いてあったペンキの缶の落下するのに気づいて
ことなきを得たと聞いています。」
「うええ、こういう話ってめんどうなのよね。」
だって、誰も悪者にせずに収束させたいっていう学園からの圧があるから。そして、王子は例の性格だから。
「面倒をかけるけど、また協力を仰げないかしら、ねえクレア?」
「そうですね、いつものようにクレアにずばっと解決してもらえれば、ありがたいな~。どうかな~。」
だって先輩は当てにならないし、とでも言いたげな声音だけど、後で覚えていなさいよ。