王妃の憂鬱(王妃陛下視点)
王妃陛下と王妃殿下……どちらにしようか迷いましたが、どちらでも良いようなので『王妃陛下』を使うことにしました。
私は王妃である。名前は…一応ある。……うん、日本の某文学作品を真似てみたけど、様にならないわー。
まあ、『日本』が出るあたりお分かりだろうけど、私は転生者だ。この世界は大のお気に入りだった、とある乙女ゲームの世界観にとても似ている。それに気づいた時は興奮した。ものすごく興奮した。でも、それは一瞬だった。
私は一応貴族の生まれで、高位貴族の方々にはおよばないだろうけれど成長するにつれ、それなりに厳しく育てられた。
それが喜びに水を差す原因だ。
椅子の背もたれを使っちゃいけないって、何ソレ!?何のために存在しているの、背もたれ!などと…淑女教育に文句をつけるあたり、貴族になることに向いてない。
独身の頃は某○塚よろしく、男装してはモテまくったものだ。───もちろん、女性陣に。
だってドレスより動きやすいんだから、仕方ないじゃない!とほぼドレスを着ることなく動き回って、自然とダンスは女性パートより男性パートを覚えて踊る機会が増えた頃、当時は王太子さまで今の国王陛下に目をつけられ…今に至る。人生って何が起きるか分からないものだよねぇ。
そうして王妃として生きていくことウン年……ようやく10歳になる息子にお妃候補決めの話が出た。早すぎじゃないの?と思ったが、どうやら父であるダンナがなかなか伴侶が決まらなかったことが原因のようだ。
この男には親子揃って迷惑をかけられ……私たちってかわいそうだわとダンナを睨みつけたくなるのを堪え、それならば、と側近候補も呼べと男の子も混ざるようにした。息子には後でドヤ顔して感謝してもらおう。
しかし、お妃や側近候補を集めたお茶会が終わったあと、私は衝撃的なことを聞くことになる。
「……婚約者が決まった?」
「はい、母上。内々にではありますが」
にこにこと笑顔を浮かべる我が息子に、驚きのあまり扇子を取り落とした。この息子が早々と婚約者を決めたのが信じられない。
「ああ、落としましたよ」
「あ、つい。ありがと」
優雅に扇子を拾ってくれるルティリオは正直に言って、愛らしい少女にしか見えない。化粧を施さずともドレスにさえ着替えれば完璧な美少女だ。いや、ドレスに着替えずとも……。
「母上、どうでもいいですけど王妃の仮面が剥がれてますよ」
「あんた相手に取り繕う必要はないでしょ」
「こういうことは普段から」
「そんなことはいいって」
私は深々と溜息をついた。まったく、小姑…いや、小舅みたいだわ。
私は前世の頃のことがあって、上品とは言えない言葉遣いが未だに抜けず、癖もいつまでも抜けない。ルティリオの前でぐらい素でいさせてもらってもいいだろうに。
「相手は承知のうえなわけ?」
ん?ルティリオの笑顔が一瞬固まったような。
「あの子、面倒見が良さそうなんですよね。そこにつけこもうかと…甘えたりしたら、見捨てられなくてそばにいてくれそう」
「あんたね……」
その言葉の内容からルティリオが選んだ令嬢が優しい少女だと分かる。
「つけこむって何?私は女の子には優しくと育てたはずよ」
「わかっています」
いや、もうこれは……内々と言いつつ確定したようなものではないのか。ルティリオの目がイキイキとしているのがいい証拠だ。
そんな息子を見て、容姿は似ても似つかないのに夫の姿が重なる。
「……あんた、ますますヤツに似てきてない!?」
「姉ちゃん、いい加減にしないとホントにボロが出るよ」
「うっさい!かわいい天使のような子を産んでハッピーと思っていたら、まさかの弟の生まれ変わり!!!そしてなぜか(中身が)夫に似てくる!私の人生は終わったの!」
そう、私と…そしてルティリオには前世の記憶がある。地球の日本で暮らしていたという前世が…。前世では姉弟だったのに、今世では親子!ま、まあ……弟の生まれ変わりと知った時は本当はちょっぴり嬉しかったけどね。
「はぁ……昔やった乙女ゲームに似た世界観だったし、同じ国名だし…期待してイチオシの『ルティリオ』の名前をせっかくつけたのに、フタを開けてみたら美少女中の美少女の顔の王太子っておかしくない?」
「だーかーらー、八つ当たりすんのやめてくれない?」
もう少し男らしく成長することを姉ちゃんは…いや、今は母だ。母は願うわ…美少女顔をまじまじと見ながら溜息を吐いた。
「……相手の子は優しい子なんでしょ?大事にするのよ」
「大事にするよ、誰よりも」
「大事にするというのは、相手の気持ちをってとこだからね!?」
いま目を逸らした!ああ、かわいそうに。私は絶対にその子の味方になってやるんだから、覚悟しろよ!?我が弟───いや、息子よ。
王妃さまもちゃんと国王さまに愛情があるので、ご心配なく!