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似た者親子(国王陛下視点)






 ───ようやく王太子妃の発表ができ、私は心底安堵した。何しろ、ラスティア嬢の存在は前代未聞だった。本当であれば、すぐにでも発表したかったのだが。そう、あれは7年前のことだ───




「突然の召集にも関わらず、よく集まってくれた」


 会議席上を見回すと、各貴族当主が神妙な面持ちでこちらに視線を向けている。そして、戸惑いも感じられる。それは当然だろう。まだ10歳の息子・ルティリオが私の隣にいるのだから。


「先日、王宮でお茶会が開かれたのは知っていることと思うが」


 お茶会の一言に貴族の面々に緊張が走る。そのお茶会はルティリオの年頃に近い貴族子息・令嬢が集められていた。王妃が息子に年の近しい者たちと交流させたいと願ってのお茶会ではあったが、あわよくば王太子妃候補が見つかればとも考えていた。それは貴族たちも分かっていたことだろう。


 そしていまルティリオがここにいることもあり、もしや早々に王太子妃が決まったのではと誰もが思ったようだ。それは確かに間違いではない。


「あのお茶会でひとりの令嬢に守護聖獣の姿が見えたらしいのだ」


 その場が静まり返った。無理もない。


「皆も知ってのとおり、守護聖獣の姿が見える者は限られている」


 一同は息を呑んで私を見つめた。そう、きっとかの令嬢は特別な存在に違いない。我が王家に迎えれば必ず国の繁栄を───。


「ま、まさか陛下にご落胤(らくいん)が」

「……は?」

「まさか、そんなはず!そういえば妻は昔、陛下に憧れていたと」

「ウチの妻もですよ!まさか、まさか陛下……」


 貴族たちからの視線が冷たいものになる。まさか、私の子だと疑われているのか!?


「ハハッ、父上は信用がないのですね」


 それまで大人しくしていたルティリオが声を発した。

 その存在を忘れていた貴族たちは焦り出す。子どもに聞かせる話ではないからだろうが…。


「父上に浮気はできませんよ。何しろ、母上以外の女性はそういう意味では目に入りませんからね」


 肩を竦めるルティリオに彼らもハッとしたように表情を緩める。


「そうでした…王妃さまとの婚約をこぎつけるのに苦労されているお姿を思い出します」

「王妃さまはなかなか首を縦に振りませんでしたからね」


 ……今度は面白ネタにされているのか?


「父上、何だかんだと皆さんに()でられ…慕われているんですね」


 ルティリオ、それは言いかえたとはいえ、完全に言ってしまっているぞ?その生温い視線はなんだ…父親に対するものではないぞ。


「こんな雄々しいお姿なのですがね」

「あの凛々しくお美しい王妃さまにだけは敵わなくて」


 やめてくれ!その微笑ましいと言わんばかりに私を見るのは。


「は、話が逸れているぞ!とにかく王族の直系ではない令嬢が守護聖獣からの承認なしに姿を見られるということは特別な存在に違いない」


 ようやく本題に入ることができ、内心安堵した私は威厳を持って話を進める。


「そのご令嬢とはどちらの…?」


 ルティリオと変わらない年頃の娘を持つ貴族たちの顔色が変わった。

 ……気のせいか?青ざめているような気もするが。


「レヴァント公爵令嬢だ」


 一瞬の静寂のあと、ワッと歓声があがった。


「我が娘でなくて良かった!」

「なるほど、レヴァント公爵令嬢であれば、誰もが納得しますな」

「確かに!ルティリオ殿下にはラスティア嬢ほどの美しいご令嬢でないと隣に立てませんし」


 …ああ、なるほど。ルティリオは王妃に良く似て美しい。娘自身が王太子妃の位を望んだとしても、父親たちはルティリオの隣に立つ娘を想像して不憫に思ったのだろう。

 かつて私の王太子時代には令嬢たちの争いに辟易していたものだが、これはこれで何というか……。


「……父上、そんな憐れむように僕を見るのはやめてくれませんか」

「美しすぎるのも罪だと思っただけだ」


 まあ、とりあえず。歓迎ムードに包まれ、これはもうレヴァント公爵令嬢であるラスティア嬢を王太子妃と決めても問題なさそうだと感じた。なぜ、かの令嬢に守護聖獣が見えたかはゆっくり調べることにしよう。


「では、レヴァント公爵令嬢を王太子妃として───」

「お待ちください!陛下」


 ところが、悲痛な声が響いた。声の主はまさにラスティア嬢の父親であるレヴァント公爵だった。


「我が娘にそのような大任…とても務まるとは思えません」


 青ざめたレヴァント公爵は本気でそう思っているようだ。私は首を傾げる。かの令嬢は淑女教育はもちろんのこと、勉学にも積極的で大変な努力家と耳にしているのだが。


「何をおっしゃいますか。ご令嬢をおいて他にルティリオ殿下に釣り合う方はいません」

「…いえ、娘は少々風変わりなところがありまして。とてもお妃の位を賜れるような子ではないのです」


 レヴァント公爵は頑なに拒んでいる。さて、どうしたものかとルティリオを見ると何やら思案しているようだ。

 何しろ、ルティリオも初めて興味を持った少女だ。引くわけにはいかないだろう。


「公爵、落ち着いてください。ご令嬢のことは内定ということでお願いできませんか?」

「内定、ですか?」


 ルティリオはにっこり笑った。


「僕も彼女も、まだ子どもです。そのうち添いたい相手が他に現れるかもしれませんが───今の僕はラスティア嬢のことを知りたいので、近しくありたい。決して無理強いはしませんから」


 ……ウソだな。皆が天使の笑顔に騙されても親の私には通じない。『無理強いはしない』の言葉にホッと安堵しているレヴァント公爵が気の毒になる。


「なるほど、守護聖獣さまの件があるからですね?でしたら協力します」


 レヴァント公爵はラスティア嬢と守護聖獣のつながりに興味があると解釈してくれたようだが…きっとルティリオにとってはそれは二の次だろう。ルティリオが関心を示したのはラスティア嬢自身に他ならない。


「そういうわけですので、このお話はこちらにいらっしゃる方々とその伴侶の方だけということにしましょう。よろしいですか?父上」

「まあ、そう…だな」


 正式な婚約者としての儀式はまだ行わないが、ルティリオは決してラスティア嬢を手放さないだろう。私は複雑な気持ちを抱きながら、閉会したのだった。




 ───あれから7年が経ち、レヴァント公爵もいつのまにかルティリオの熱意に絆されて正式な婚約を了承した。

 王妃似でまったく私と似ていない息子だと思っていたのだが、愛する者を必ず手にするとの奇妙な類似点に喜びを感じ……少しばかりラスティア嬢に同情を禁じ得なかった。






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