後編
読んでくださった方々がいらっしゃったようで、ありがとうございます!しかも早々に評価をつけてくださった方まで!!!いつも優しいなろうの皆さま、ありがとうございます。
いや、おかしい。おかしすぎる…。あれから帰って家族に報告をしても、婚約のことを当然のように知っていた。婚約発表されるのだから、とかなり気合いの入ったドレスも用意されていたし…何より…。
「ラスティアさま、今日はようやく婚約発表されるそうですわね。おめでとうございます」
おおお…ただでさえ美しいロザリアさまのお顔が満面の笑みを浮かべていらっしゃる。
渋々今日のパーティーに参加してみれば、チラホラと祝福の言葉をいただく始末。…なんでみんな知ってるんですかね…。
「いやですわ、ラスティアさま。正式な婚約発表こそ、ようやくですけれど…もう何年も前から内定されていたことではありませんか」
「…………は?」
聞いたことありませんけれど!?思わず目を見開くわたしに、さすがにロザリアさまもおかしいと思われたらしい。
「まさか、ご存知なかった…なんてこと…」
「初耳です…」
「まあ、そうですの?」
家族からも聞いたことないし、そうだ!ルティだって『婚約してほしい』って昨日初めて言っていた。どういうことだろう。
「ラスティアさまは幼き頃より王家の守護聖獣さまのお姿を見ることができると伺ってますわ」
「守護聖獣さま?いえ、それも覚えがないのですが…」
王家の守護聖獣───普段は直系の王族にしか姿を見せることがないと言われている。認められればその王族の伴侶にも姿を見ることができるらしく、逆に言えば聖獣さまに認められなければお妃になることは難しいとされている。
だから、いくらルティにお願いされてもわたしは結婚どころか婚約すらできないと思っているし…そう、守護聖獣さまにお会いしたことなんてないのに、どういうことだろう。
〔ラス~!〕
あ、頭に響くこの声は!今日はウェールスが来ているんだ。思わず嬉しくなって振り向くと、真っ白くて小さな、まるでポメラニアンのようなふわふわで丸いフォルム…そして深い蒼色をした目を持つウェールスとルティがいた。
ウェールスは王家で飼われているらしく、王宮に来るときの楽しみの一つだ。初めて会った時は話しかけられたことに驚いたと同時に言葉に表せないほど嬉しく思ったのを憶えている。
だって!動物と会話するのは前世の時から夢だったんだよね!ホントにいい世界に生まれてきたと感動したものだ。
「わあ、ウェールス!久しぶり~」
思わず身をかがめて抱き上げようとするところをルティに止められた。モフモフを堪能できずにあからさまに不満な顔を向けると、ルティは拗ねた声を出している。
「婚約者はこっちだよ?」
「だって、ウェールスに会うの久しぶりなのに」
〔そうだよ、ルティのケチ!〕
ロザリアさまにもウェールスを紹介しようと振り返ると、キレイなカーテシーを披露して立ち去られようとしている。慌てて引き止めようとしたのにルティに腕を掴まれた。
「あ、ロザリアさまが」
「さ、もう時間だよ。僕の隣にいてね」
「え~…」
ウェールスを抱きしめることもできず、ロザリアさまとあまり話もできず……わたしはしょんぼりとルティの隣に立ったのだった。
───ああ、自分よりも遥かにかわいい男性の隣に立たねばならない悲しさよ…。
「今宵はよく集まってくれた」
国王陛下の挨拶が始まる。長いだろうか?むしろ、そのまま永遠に続けてほしいと願うぐらい身体が震えている。なぜなら、ルティとともに国王陛下のすぐ後ろにいるからだ。
「我が息子のルティリオが17歳の誕生日を迎え…るのは、まあ…そこそこめでたいのだが」
……ん?何だか挨拶がおかしくないですか。
「ようやく!ラスティア嬢をルティリオの婚約者として発表できることになった!!!」
その瞬間、会場が沸いた。『おめでとうございます、陛下に殿下!』や、『長い道のりでしたね…』と涙ながらに労っている方やら……何コレ?な盛り上がりっぷりです。あ、びっくりしすぎて身体の震えが止まった。
「仕方ないでしょう。早々に婚約を決めたことが知られたら、ラスティア嬢は確実に逃げたでしょうから…ね?ラス」
にっこり笑うルティがわたしを見つめる。何だかいつもと違って大人っぽい微笑みにドキッとした。
まあ、言っていることは合っているけどね…。確かに本当の婚約発表だとわかっていたら、昨夜のうちに逃げていたと思う。
「さすが、我が息子!7年前からブレないな」
「当然です。婚儀は一年後ですよね?ああ、待ち遠しい」
7年って……訳がわからず、絶賛混乱中であることをいいことにルティがわたしを抱き寄せようとした時、一人の少女の声が響きわたった。
「こんなの、おかしいわ!」
愛らしい容姿をした少女はズカズカと前に出てくると、なおも叫ぶように続けた。……見た目はすごくかわいいのに、所作が残念過ぎる…。
「殿下の運命の相手はアタシなの!アタシがヒロインなのよ!?今日が出逢いのイベントのはずなのに、なんで婚約発表なんてしてるのよ!!!」
え、この人がヒロインなの?思わずルティを見上げると…冷たい眼差しをした表情が目に入った。こんな顔、見たことがない。
「これは…ずいぶん素晴らしい教育をなさったようですね?男爵」
「も、申し訳…」
少女の父親らしき中年男性が慌てて出てきた。あまりのことに驚きすぎて反応が遅れ、固まっていたようだ。
「はなして、お父様!」
「バカなことはやめるんだ、リリコ!」
「あの女はタダのお助けキャラのはずなのに、なんで殿下の隣に立ってんのよ!」
お助けキャラ?わたしのこと?何にしろ、この人も前世の記憶がある人なんだな、なんて感心しているとルティがこっそり説明してくれた。
「ゲームの設定ではラスは公爵令嬢なのに、なぜかヒロインの親友でサポートキャラなんだよ。ヒロインに攻略対象の情報を教えたりね」
「何そのおいしすぎるポジション」
「言うと思った…」
そこへ、少女…リリコさんの叫びがまた響く。
「そうだわ!王家の守護聖獣さまに会わせてください!アタシには姿が見えるはずですから。それが証拠に」
「初めから来ているぞ?」
国王陛下がリリコさんの言葉を遮って不機嫌そうに答えた。
ええっ!?来ているんだ、守護聖獣さま!わたしも見たい。きっと人よりも大きくモフモフで、凛々しいお姿に違いない。
「ずっとラスティア嬢のそばにいるが」
いやいや、そばにいませんよ!?思わず辺りを見回すけれど、まったく姿は見えない。やっぱりわたしには見えないではないかとガックリしていると、いつのまにか傍にいたらしいウェールスがピョンっと飛び上がってきた。反射的に受け止めると嬉しそうにしている……というか、ここにいて大丈夫なのだろうか?
〔ちょっと待っててね、ラス〕
ウェールスは深呼吸をすると、上に顔を向けた。
〔我は王家を守護する者なり〕
その声はいつもの愛らしいウェールスのものではなかった。まるで地に響くような低音ボイスが上から降ってくるように聞こえて……思わずうっとりと聞き惚れそうになる。姿はいつものウェールスだけど。
「我々にはお姿は見えないが、守護聖獣さまのお声か!?」
「守護聖獣さまのお声を聞けるなんて、感激ですわ」
ざわめく声にハッとした。そうだ…素敵な低音ボイスに聞き逃しそうになっていたけど、ウェールスは確かに『王家を守護する者』と言った。
「ル、ルティ?」
「なに?」
ルティはおもしろそうに事の成り行きを見守っているようだ。
「いま、ウェールスがカッコイイ…じゃなくて、低音ボイスで『王家を守護する者』って言ってたけど」
「うん、守護聖獣だからね。ゲームと違って、すごくかわいい姿だけど」
おお、ゲームではやっぱり大きいんだ。じゃなくて感心してる場合じゃない!
〔王太子であるルティリオの妃には、ラスティア以外は認めぬ〕
やーめーてー!あまりの内容に思わずウェールスの口を塞いだが、時すでに遅し。
「そ、そのお声は間違いなくイケボの守護聖獣さま…」
リリコさんがガックリと床に膝をついた。
その落ち込んで大人しくなった様子に男爵がようやく安堵したようだ。深々と頭を下げると娘の腕を掴み、引きずるように立ち去った。
「さあ、ここにいる全ての者が証人だ。ラスティア嬢が守護聖獣が認めるルティリオの妃であると!」
違ーう!まだ婚約段階ですよね!?ああ、ウェールスがあんなこと言うから!
〔これでずっと一緒にいられるね!ラス〕
うん、かわいい。かわいいよ、ウェールス。でもね、わたしはお妃さまなんて大変なお仕事できる自信ないよ。いろいろ勉強したからこそ、言える。
と、いうわけで!今からでも逃げる準備をするしかない。ウェールスを下ろすと、盛り上がっている今がチャンスとばかりに踵を返そう…とした。
「…どこに行くの?」
「ひっ!?お、驚かさないでよ~」
なんだ、ルティかと安堵の息をつくとガッシリ腰に腕を回されてしまっている。
「まさか、逃げようとしてないよね?まあ、そうだとしてもウェールスがすぐに見つけるからムダだけど」
「で、でもお妃なんてムリ」
「それ誰が信じると思っているわけ?数年前から妃教育を受けてくれたよね?教師陣も『ラスティアさまは素晴らしいお妃になられるでしょう』と太鼓判を押してたよ」
「はあ?そんなの受けて……」
そんな記憶がないので、これまでのことを思い返してみる。
ルティと仲良くなってから、わたしは王宮に呼ばれることが多くなった。ある日予定どおりの時間に会えないことがあり、王太子殿下だから多忙で仕方ないのだろうと思って帰ろうとすると声がかかった。
『お時間があるなら、ひとつ知識をいれてみませんか』と。相手が優しそうなおじいさんであることと、この世界に関しての知識をさらに学べるということでアッサリ頷いた。それがキッカケで王宮に向かうことは学びに行くことも理由のひとつになっていたのだけれど。
「まさか……あれ、お妃教育だったの!?」
「うん」
「騙されたー!」
「僕は嬉しいよ。だって、ずっと一人の女の子としてラスのことが好きだったから」
ルティの手が頬に添えられ、額に軽くキスをされた。突然の告白に、わたしは身体中の熱が顔に集まったのではないかという事態に陥ったのだった。
気が向いたら、番外編も書いていきたいと思います♪