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前編







「お願いだよ、ラスティア!僕と結婚して!!!」


 明日、御年17歳になられる王太子殿下からの急な呼び出しに何事かと駆けつけてみれば、第一声がとんでもないものだった。


「え、お断りします?」

「即答ヒドイ!」


 王太子───ルティリオ殿下の宝石のようなキレイな瞳がみるみる潤み始める。性別間違えたのではないかと思うほどの麗しい(かんばせ)にキラキラと涙がこぼれた日には老若男女が惑わされること間違いなしだ。


「ああ、もう分かったから。急にどうしたの?何があったの?」


 わたしの目には子犬がすがってくるように思えて、つい背伸びしてでもルティリオ殿下───ルティの頭を撫でてしまう。

 これでも2つ年上なのだが、扱いは弟も同然になっていて……かわいすぎるのも罪だな、なんて毎度感心していた。


「ラス……落ち着いて聞いてね?」


 ルティの顔は真っ青になっているが、わたしは当然落ち着いているので頷く。結婚と何か関係があるのだろうか。


「僕たちが生まれ変わっているこの世界…乙女ゲームの世界によく似ていることを思い出したんだ…」

「乙女ゲーム?」


 今では聞きなれない名称に思わず復唱したが、それが何を指すか理解した途端に懐かしい思いにかられた。


「あったね、そんなの!うわ~、懐かしい~」


 わたしも結構楽しんでた。最初こそはすべての乙女ゲームを揃えられるほどに本数が少なかったが、次第に増えて一つのジャンルとして確立されてからは、気になるものしか購入できなくなったものだ。


 ああ、今の会話からお分かりだと思うが、わたしたちには日本人として生きていた前世の記憶がある。これがキッカケでルティとは仲良くなったのだ。


「僕には姉がいたと言ったよね?その姉さんがよくプレイしていて、僕も隣でそれを見ていたんだよ。自分の名前はもちろん、人の名前とかやけに聞いたことある気がしていたんだけど……」

「え~、知らないなあ…ということは、わたしはプレイしていないってことか。……でも乙女ゲームの世界だとしても普通に生きていけばいいよね?」


 ルティの顔が途端に恨めしげになる。わたしより背が高いのに上目遣いやめてー。かわいすぎるから!


「僕……攻略対象の一人なんだけど…」

「あ、そうよね!王太子さまだもんね。ヒロインってすごくかわいいのかな~」


 元々の乙女ゲーム好きとしてはワクワクする。え、これって乙女ゲームをナマで見るチャンス?どうせなら自分のプレイしたゲームで見たかったけど仕方ない。ルティにどんな内容か教えてもらおう!


「なんで嬉しそうなの!こっちは困ってるのに…」

「あ、そうだった。貴族令嬢になるとはいえ、お妃教育どころか最近になって淑女教育を受けてるだろうから……ヒロインが王太子妃は難しいよね、現実は」

「違ーう!そうじゃなくて、僕はラスが好きなの!」

「あ、うん。わたしも好きだよ?」


 改めて口にすると照れるなあ。もはや、ルティはわたしにとって大切な存在だ。大好きだし、守りたい。


「……ほんっと、分かってないんだよな…」


 ん?今、ルティの声が一瞬低く変わったような。


「え?なんて言ったの?」

「何でもない。とにかく、僕はヒロインに興味はないよ。だけど、ヒロイン中心の世界だとしたなら惑わされる可能性もあると思う。それを抑制する意味で婚約しておきたいんだ。できれば結婚もしておきたいけど間に合わないし」


 ふむふむ。あの泣き虫のルティもとうとう結婚の話をする年齢になったのよね。感慨深いな。


「お姉ちゃんは寂しいっ」

「イヤ、僕のほうが年上だよね?」


 だって、かわいいんだもん。


「あのね…ルティにふさわしいのは面倒見が良くて、お妃としてしっかり支えてくれる年上がいいと思うな」

「年上じゃなくても、そのタイプは目の前にいるよ?」


 にっこりと眩しい笑顔がとんでもないことを言い出した。


「だから、僕と結婚…はまだムリだけど婚約してほしいな」

「……ルティと婚約?」

「うん」

「……結婚して王太子妃?」

「うん」

「……いずれ王妃?」

「うん」


 今度はわたしが青ざめる番だ。


「イヤイヤ、ないない。ムリムリ」

「そこまで全力で拒否しなくても……」


 ん?いま現在、ルティには婚約者がいないけど本当はいたのではないだろうか。ライバル令嬢ってだいたいいるよね?


「ゲーム上では、ルティの婚約者って誰だったか聞いてもいい?」

「ロザリア嬢だよ」

「ロザリアさま!?完璧じゃない!…って、ああ!しまった!!!もう婚約されてるじゃない…」


 つい先頃、ロザリアさまは騎士団長さまのご子息と婚約したばかりだった。それを思い出して思わず肩を落とす。


「僕もちょっと意外だなと思ってたんだけど、その様子だとひょっとしてラスが関わってる?」

「うっ……だって、ロザリアさまがあんな素敵なおじ…騎士団長さまを苦手だって言うんだもの」

「え?いま『素敵なおじさま』って言おうとした?」


 あれ…?かわいいルティから冷気を感じる気がするのは気のせいかな。


「な、何でもない。とにかく、ロザリアさまはたくましすぎる男性が苦手とか言っててね?熱く語ったの。あの太い腕!あの厚い胸板!抱きしめられた時を想像してみてくださいって。それはもうこのうえない幸福感と安堵感を味わえること間違いなしって力説したの」


 あの時のロザリアさまったら真っ赤になってしまって、愛らしかったなー。そして、いつのまにかご婚約も決まってしまって…

 思い出しながらニマニマしていると、冷気が強まった気がした。


「あの、ルティ?」


 おそるおそる声をかけると、とびっきりの笑顔で恐ろしいことを宣った。


「明日、僕の誕生日に婚約発表するからね。これはもう決定だから」

「え…それは偽装婚約だよね?ね?」

「……それじゃ、また明日ね」


 ルティは答えることなく、わたしの額に口づけると踵を返した。

 ───その表情はわたしの知るかわいい弟などではなく───。


「えー?」


 思わず額に触れ、わたしは呆然としていた。






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