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2話 ~新しい自分へ?~

食事を済ませるとオルヴィアとソウマが二階に上がる。

「もうすぐ日が暮れますので、詳しい話は明日にしましょう」

「え、もう寝るのか?」

「いえ、今すぐってわけじゃないですけど、ソウマさんもお疲れでしょうし」

オルヴィア視点ではソウマは帝国に捕まっている状態だった。

ソウマ自身もどれぐらいの時間捕らわれていたのか、何処で捕まったのか知る術はない。

「それではおやすみなさい」

オルヴィアが扉を閉める。

ソウマもこれ以上やることがないので休むことにする。

窓の付いた、至って何の変哲もない質素な部屋。

木材を土台にしたベッドに薄い皮を巻いたようなものを敷いてある。

中身は綿か?羊みたいな生き物でも放牧しているのだろうか…

窓から外に視線を移す…牧場のような敷地にモコモコとした四足の生き物がわらわらしている。

先程の肉が何なのかと考える前にあの生き物の肉なのかと確信を持つ。

なんてのんびりとした事が頭に浮かんでいると不思議と眠気に襲われる。

転生する前の環境では決してあり得なかった状況に思わず落ち着いてしまったのか…捕まっていたとか以前に前の日々の暮らしがどっと押し寄せてきた方の疲れか。

横になるとあっさりと意識が沈んでいく…


ふんわりとした感覚… 夢の中なのか、意識がはっきりと保てない。

(…夢…か…そういや最近夢を見た事なかったなぁ…)

夢を見る暇がなかったか見れない程に深い眠りに落ちていたか、どちらにせよこんな感覚も久しぶりだ。

「あーようやく来られましたか」

と、視界がはっきりしていく最中にぼんやりと黒い影が浮かび上がる。

何処かで、それもつい最近聞いたことのある声だ…誰だったか…

「・ ・ ・ …あっっ!お前は!」

異世界に来る前に一方的に話しかけていきなり切り上げた爬虫類もどき!

「いやーご無事でしたか、よかったよかった」

「この野郎!いきなり捕まってる状態から始めるなんて無茶振りやりやがって!転生してすぐ死ぬかと思ったぞ!」

「すいませんね、こちらも予定に間に合わないかと思いまして。でも捕まってもらわないといけなかったんですよ」

「…どういう事だ?」

一旦冷静になって竜人の話を聞くことにする。

「最初から右も左もわからない状態で一人でいるというのも難儀でしょう。敢えて無力な一般人という事を利用して救出してもらう流れが出来るように… なったらいいなと思っていましたから」

「思っていましたからって…完全に運頼みかよ!アンタ神様とかじゃないのかよ!?」

「そんな大層なものではありませんよ。…まぁ細かいことは言えませんがあなたを監視しているとだけ言っておきましょうか」

「監視…?」

「あ、監視と言っても牢獄的な世界ではございません。あなたにもしもの事があると主に私が困るので…」

「・・・・・・・それを伝えるためにわざわざ人の夢の中に出てきたってわけか」

「そんな辛気臭そうな顔しないでくださいよ。流石にこんな状態では後々面倒事しかおきないでしょうから、お詫びとしてあなたのご要望を可能な限り叶えてあげますよ」

「え、マジで!?」

掌を返すように竜人に視線を向ける。

「あまり豪勢な要望にはお答えできませんのでそこら辺はご了承…」

「そ、それじゃ俺の体の年齢とか身体能力とか見た目とか変えれるか?」

「…具体的にどのような感じで?」

「18歳ぐらいで身長は180ぐらい、体重は70あればいいかな。どうせファンタジー世界なら素手でゴーレムとかオーガとかぶっ倒せるぐらいに…」

「見た目は可能ですけど生身の人間がそこまで強すぎるのもどうかと」

「あっそ、じゃあ普通に強い剣士ぐらいでいいや」

「今ものすごい落胆しましたよね」

「あとこの世界じゃ使われてないような古代文明の遺産とかある?あるならそれを使えるようにしたいんだけど」

「…ふむ、いいでしょう。私が手伝えることもこれぐらいですからその程度なら構いませんよ」

一通り注文を付けたところで自身の外見を確認する。

何も変わっていないように見えるが…

「目が覚めれば変わっていますよ。ここはあなたの意識の海ですから、他に何もなければここで失礼致しますが」

「うーん…他には…身なりを整えたいんだけどいいかな?」

ボロ布一枚とか衛生面もこれからの行動にも支障が出そうだし、オルヴィアにも迷惑だろうし。

「わかりました。あんまり違和感がないような一般的な服装を…」

「こんなもんかな。…本当に目が覚めれば今言った通りになってるんだろうな?」

「実際にご覧になっていただければ。それでは失礼しますよ…御武運を」

竜人が背を向けると同時に視界が真っ白に…なると同時に目を覚ます。

体が軽い…気分が良く、整った衣服を身に纏い、ボロ布の時の黴臭さが残っていない。

仕事帰りの気だるさや疲労が微塵も感じられない。

(本当に言ったとおりになったのか)

ただの夢ではなく、本当にあの竜人がやってきた…

そう、夢ではない… 本当に異世界に転生したのだ。

まだ日が沈んでいない時刻に就寝したというのに朝陽が昇り始めてきたようだ。

窓から日差しが差し込む。

ベッドから降りてドアの隣に掛けてある布を取って桶に溜まっている水に浸して顔を拭う。

鏡はないため、桶の水で自分の顔を確認する。

水面には飽きる程見返したやつれた顔ではなく、若く健康的で張りのある顔。

一回り近く若くなったというのに身体的な弊害は一切ない。

(すげぇ…今ならなんだって出来る気がする…)

以前では考えられなかった気力が体の奥底から溢れる。

今ならあの時の鎖ぐらいなら引き千切れるという確信が持てる。

顔を拭いながら部屋から出る。

同時にオルヴィアが隣の部屋から出てくる。

「おはようございま…あ、顔色が良くなりましたね。昨日はもっとやつれたご様子でしたから少し不安でしたけれど」

「ん…そうかな」

無精ひげ一つない顎を擦りながら返答する。

「十分に休めたみたいですし、朝食にしましょう」

こちらの変化に言及することなく、昨日と同じ調子で下に降りていく。

(まぁ夢の中で変わったなんて言っても変に思われるだろうけど)

ソウマも下に降りて昨日と同じようにオルヴィアとテーブルを囲い椅子に座り、昨日と同じメニューの食事がテーブルの上に置かれる。

「ごゆっくり~」

昨日と同じ猫人がにまーっと笑顔で対応し、とてとてと小走りで離れていく。

ソウマは食器を手に取る前にオルヴィアの方に視線を向ける。

昨日と同じく目を瞑り、合唱しながら静かに呟く… 内容も昨日と全く同じだ。

ソウマも同じように両手を合わせて目を瞑る。

「…いただきます」

呟き終わると同時に瞼を上げ、食器を手に取り肉を少し細かめに分けて口に運ぶ。

オルヴィアはキョトンとした様子でこちらを見つめている。

「ん?食べないのか?」

「……あ、いえ…少し、意外でしたから…」

昨日の構わず食べ始めた印象が強かったのか、まさか昨日の今日で自分と同じ動作をする事に驚いたのか。

「…俺ってそんなに節操なかったかな」

「い、いえ!そんなことは…ただ、私が面倒くさい性格だから迷惑だったかなぁって…」

謝る理由がよくわからないが、これぐらいで申し訳なくなるのも困る。

「とにかく食事は済ませようよ。この後はもうここを出るのか?」

「そ、そうですね。予定は決めておかないと…」

マイペースと思ったら変なところで困惑する…確かに面倒な性格のようだ。


食事を済ませ、宿を出る。まだ朝日が昇り始めたばかり…

「次の目的地は…」

オルヴィアが大きめの紙を開く。

「それって地図?」

「前に旅をしている方を助けた時にお礼にと…世界地図とまではいきませんけど港街までの道は記されていますよ」

海があるのかすらわからないのに港町までと言われてもちんぷんかんぷんである。

「今いるのがここで…太陽の昇る方角が…この辺りに…」

次の目的までの道のりを確認するオルヴィア。

ソウマとしては折角生まれ変わった体がどれ程のものなのか試してみたいところだが。

「よし、今日中には次の街に着けるはずです。出発しましょう」

地図を畳んでこれから向かう方向を指差し歩き出す。

余程計画性に執着しているのか、予定通りいかないと気が済まないタイプなのか…

村から離れ、再び森の中へ… 昨日とは違って少し暗い雰囲気が漂う。

(いよいよ俺の第2の人生が始まるのか…今まで何一つ浮かばれることのなかった、そんな俺にやってきたチャンス…!)

今すぐにでも生まれ変わった自分の力を振るいたいソウマ。

そんな心情を知る由もなくオルヴィアは頭の上に♪が見えるぐらいに陽気に進む。

と、急にソウマの方に振り向いて、

「あ、ソウマさんの服、新調したんですか?」

「・・・・・・・・」

何で最初に突っ込むべき内容を今更…


機嫌が良いのか鼻歌を歌いながら森の中を歩くオルヴィア。

そんなテンションに付いて行けずに渋々と歩くソウマ。

中々対照的な二人は特に何かに出会うわけでもなく進んでいく…と、そこへ、

『きゃああああああ!』

静かに風が吹き抜ける中で一際響く悲鳴が…!

「女性の悲鳴です!」

「そんなに遠くなさそうだな」

ようやくこの展開が来たかと待ちわびていたソウマは悲鳴が聞こえた方向へ走り出す。

オルヴィアも遅れまいとソウマの後へ続く。

(体が軽い…どれだけ走っても息切れしない。前みたいに苦しくもないし痛みもない。これが俺の体か…これが…今の俺なのか!)

吹き抜ける風…体の芯から溢れ出る闘争心… もっと、もっと速く!

颯爽と森を駆け抜け、開けた崖際に出る。

女性二人が二匹のゴブリンに襲われようとしている。

見たところ若い女目当てで来たというところか… どこの世界もゴブリンというものは似たような性質らしい。

「た、助けて…!」

女性は武装をしていない。 対するゴブリンは棍棒。

武器を持っていないのはこちらも同じだが、負ける気はしない…一方的に捻じ伏せる事さえ可能だろう。

1m程度しかないゴブリンがこちらを見て棍棒を肩に担いで余裕振って近づいてくる。

素手の男一人に何が出来ると嘲っている。

(来いよ…その汚ぇ面を引ん剥いてやるぜ)

「やめてください!」

日頃溜まった鬱憤を晴らそうとしたソウマの前にオルヴィアが飛び出してくる。

ソウマもゴブリンも意表を突かれるも、ゴブリンは新たに女が来たことに舌なめずり。

オルヴィアはソウマとゴブリンの間を遮るように立つ。

「おい、危ないからどいてろ!」

「そうはいきません!無抵抗な旅人を襲うのも許せませんが、如何なる理由であろうとも争いが起きるのを黙って見過ごすわけにはいきません!」

ゴブリンはオルヴィアに近づいてくる。

「向こうに言葉が通じなかったらどうすんだよ!」

「例え言葉が通じなくとも、意思が伝わらなくとも、同族と共に暮らせる心があるのなら必ず理解出来るはずです!ゴブリンさんにだって心はあります!」

そんな事を言ってる間にもゴブリンがオルヴィアに近づいてくる。

ここは彼女を押し退けてでも早々に討伐した方が…

「本当に心のないものというのは例え同族…いえ、周囲に存在するもの全てに敵意すら向けることなく一方的な虐殺を繰り広げるものです。ですがあなた達は自分の同族をゴミのように殺してしまうほど非情な存在でしょうか!対立する種族と戦う時は必ず同族で手を取り合って生き延びようとするでしょう!そもそも命あるものを無差別に滅ぼすことは…」

なんか凄い熱唱してる…

あまりにもくどくどくどくど延々と語り続けているからなのか、ゴブリン達も段々意欲を削がれ、呆れ果てたのかとぼとぼと立ち去っていく。

「もし命というものへの干渉をなさるのであるならあなた達も…あれ?」

ゴブリンがいなくなった後も語り続けていたが、我に返ったのか周囲を見回す。

げんなりしたソウマと呆気に取られて立ち尽くしている旅人。

「……やりました!無事に争いが起きることなく収める事ができました!」

誰に向かって言ってるのか。

「あ、あの…助けていただいてありがとうございます…」

オルヴィアに対してちょっと引き気味にお礼を言う女性。

「いえいえ!困ってる人を助けるのは当然ですから!」

やたら張り切ってるオルヴィアに対して最初の腕試しの機会を奪われたソウマは溜息を吐きながら呼び掛ける。

「あー…もう大丈夫みたいだし、そろそろ行かないか?」

「え、連れて行かないんですか?」

見たところ女性二人旅のようだ。

少し大きめの荷物を背負い、何の目的でこんなところを旅しているのか…

「あの…私達、海の近くにある街に住んでいたんですが…数日前に帝国の武装兵がやってきて…」

「衛兵が止めようとしたんですが、帝国兵の魔術であっという間に全滅してしまったんです…多くの人が捕まってしまって…私達は何とか逃げ出せたんですが…」

片方の女性はその時の事を思い出したのか震えだして膝を着く。

「帝国が…」

先程までうきうきしていたオルヴィアの顔つきが少し険しくなる。

「…さっきのゴブリンの事もあるし、さっきの村に連れて行った方がいいんじゃないか?ここから次の街まで遠いんだろ?」

「…そうですね。そうなると今日中には目的地に到達することが出来ませんから、途中で野宿する必要がありますね」

流石に女性二人を護送しながらというのはこちらの負担もバカにならないだろう。

途中に渓谷に迷い込んだり盗賊の襲撃が起きたり問題が起きないはずがない。

一旦引き返して村の近くまで護送する事に…

(くっそぉ…折角力を試せる機会だったのに…)

一人ぶつぶつ愚痴りながらも何事もなく二人を先程の村まで送り届ける。

「私達よりも人数の多い旅団の方々に同行した方が安全でしょうから、しばらくはここで待っていた方がよろしいかと」

「はい、ありがとうございます…」

村に着いても表情が優れない。

余程帝国の襲撃がトラウマなのか、片方の女性は未だに震えている。

「・・・・・・・」

「あー…大丈夫か?」

「…彼女達は大丈夫でしょう。予定よりも大分遅れてしまいましたが…」

「いや、オルヴィアの方が大丈夫なのかって」

「……え」

帝国の話を聞いてから睨みつけるように表情が強張っていた。

まるで争う事そのものを嫌っているというよりも寧ろ憎んでいるように…

「……わ、私は大丈夫です…大丈夫です…平常心、平常心…」

心配したらしたでなんか訳わからん動きをするし、出会って間もない女性の過去を探るのはやめておいた方がいいだろう。

「はー、ふー…よし、それでは気を取り直して出発しましょう!」

「お、おう」

どうにも安定しないオルヴィアのテンションに引き気味になるが、彼女には彼女なりの気の持ち方がある…という解釈でいこうか。

 …続く

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