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リアル・デモンズ  作者: 滝沢龍我
1.魔界顕現編
2/4

2話 対抗



AM10:00


景光は、ただ愕然としていた。走らせていた軽トラックを路肩に止め、フロントガラスに映る地獄を信じたくは無かった。


(近所の優しいお婆さんがいる古民家、昔森で迷子になった時、探しに来てくれて、手を繋ぎながら、家まで連れてきてくれた。都会から越してきたばかりの、中年夫婦の家。来月、孫ができると、母さんと話していたな。子供の頃、よく遊んでいた辰巳兄ちゃんの家。今は、新潟市内で務めていると聞いていた。元気かな。)


そんな、何気ない日常の中で、目にしていた人々の住まう家、帰る家が、燃える。


畑も、神社も、森も。全てが、今赤く確かに消えていく。その様を見ながら思い出達が甦る。

黒い煙が数多に立ち上り、空を暗黒に染め上げる。日中だが光を感じず、まるで真夜中のようだ。


「母さん・・・母さんが!」


父が生きているかも分からない状態の中、あの林を過ぎれば実家がある。眼前は火の海。だが、まだ自分の家には、帰りを待っている母がいる。


すぐさま車を飛ばす。到着までの僅かな時間が、この時の景光には、とても長く感じた。

燃える家々を駆け抜ける中、おぞましい声が聞こえてくる。いつ飛び出してくるんだと。


手に汗が滲む。


林を抜ければ、我が家がある。はずだった。


そこには、木っ端微塵に吹き飛んだような木材と、じりじりと燃える地面。

景光は、驚きを抑えつけるように強く、下唇を噛む。家に続く緩やかな登り坂を全力で走る。立ち止まらないよう、拳を握りしめて。


「ハア、ハア、母さーん!!どこだよ!おい!」


全力で叫ぶ。だが足元には確かに我が家のものであっただろう、箪笥、テーブル等の家具が、欠けながら、割れながら、燃えながら散らばっている。


「母さーん!、か・・・」

ドサッ


景光はテレビの下敷きになっているそれに気付いた。反射で身じろぎ、砕けるように尻餅をつく。

それをここで毎日見ていた、年を重ねながらも、強く優しく自分を育ててくれた手。


そう。手だけだった。


「うっ・・・うあああああああああああ!!!」


叫び泣く。震える。嗚咽する。


「誰、だ・・・返せ・・・返せええ!!」


『おい、そこのお前。』


突然、女の声がする。ビクッと警戒しながら振り返ると、そこに金色の髪、緑の眼と、尖った耳の女が居た。背中には、身の丈程ある弓が見える。

景光はとっさに立ち上がり、身を守るように構える。


「お、お前か!ここを、村を焼いたのは!」

『違う、私ではない。これらは私が知る限り、ゴブリンとそれ以上の力を持つ魔物達がやったことだ。』


女は、口を動かしていない。まるで頭に直接音声が流れているようだった。


「なんだこれはっ!お、お前なのか・・・?」

『そうだ。・・・その、手は?』


その声に驚きはしたが、この悲惨な現状を超えることは無く、疑問を抱く余裕さえも無い。


「たぶん、母さんだ。」


悲しみの感情がまた流れてくる。


『・・・すまない。私は奴らを追跡していたが、前触れもなくこの周囲が爆破された。その際女性の叫びが聞こえ、急ぎここへ来たのだが・・・かなり広範囲に人がいないか探したんだ。だがその・・・それと同じようなものが飛び散っている。・・・すまない。』


女が指さす方へとはっと息を呑み、駆け出した。

原型が確認できない程損傷した、母の顔のようなものが落ちていた。


堪らず激しく嘔吐する。辛い、酷い、様々な気持ちが混ざる。

女は、嗚咽が少し落ち着いた景光の肩を持ち立ち上がらせる。


『肉親を亡くし、非常に辛いのは分かる。だがお前には使命がある。』


「と、うさんが・・・まだ父さんがいる・・・」

『!!そうなのか、どこだ?』


「車の、荷台に・・・」


女は今にも崩れ落ちそうな片方の肩を担ぎながら、車に向かう。

荷台に女が上がり、眉間にしわを寄せながら、父の傷口に手を当てる。

すると、一体、何の言語か分からない、だが、流れるように言葉を発し、

女の手元が明るく輝きだす。きらきらと光るダイヤモンドダストのような光は、次第に収まり、再び赤と黒の世界に戻った。


『・・・治癒の魔法だ。だが、全く効果を示さない。生者にしか効果は発揮されない。』

「うそ・・・」


景光は薄々そう思っていた。あのゴブリンの惨劇時、父が意識を失った瞬間に。

膝を抱え、項垂れる景光。


「・・・これから、どうすれば・・・」

『言っただろう。お前には使命がある。』

「俺にこれ以上、何しろってんだよ!家も!家族も!村も全部無くした!この俺に!」


女は、荷台に立ち景光を見て力を込めて伝えた。


『お前はまだ、奴らを滅ぼす、使命がある。』


その姿は美しく、可憐でありながら、一人の戦士のように見えた。



PM14:00


ー俺は、お前達を全員殺す。絶対に許すものか。全てを、奪ったのだから。ー


その輝く剣は、足元から異空間からなのか、ゆっくりと現れる。柄は水色の龍が翼を広げたようなデザイン。刀身は細めだが、鋭く光を纏う直剣。その剣を引き抜き、剣先を正面に向けて構える。まるで鏡のように周囲を映す刀身に敵と敵。辺りは完全に囲まれている。


「スキル、<エッジ・スラッシュ>!」


そう発しながら、剣と身体を一周振るう。光と衝撃が生まれた。それは彼にとって、残された道標のようだった。



PM11:30


『私はアリシア。この世界の住人では無い。向こうの世界でエルフ族の王国、ヴァレンシア王国の王直属偵察部隊の兵士だ。』


アリシアは車の荷台から降り、まっすぐ彼を見て話しだした。


「・・・俺は景光。尾田景光だ。ここで暮らしてた・・・ただいつも通りに・・・」


父がもう生きていないことを確信し、母の残酷な姿を目の当たりにした景光は、頭をぐしゃぐしゃとかき乱した。さっきまでいつもと変わらなかった風景が、あっとゆう間に消え去った。その現実は彼を混乱を超え、たやすく壊してしまうのに十分だった。


『景光。君の今の気持ちを、理解しきれる自信は無い。だが、このままでは、この地域に限らず、世界までも、あの魔物達は喰らうぞ。』


「だからなんだよ。どうせこのまま、俺もあんたも、化け物に食われるんだろ?ああ、食われる前に粉々になるのかもな・・・」


頭が上がらない。力が入らない。精気を失った瞳は地べたを眺めるしかできない。

アリシアは景光に近寄り、髪を鷲頭かんでくいっと顔を上げる。


近い。景光は目の前にある澄んだ大きな翡翠のような瞳と、雪のように白い肌の顔を見る。


『景光。さっきも言ったが、君なら奴らを殺せる。仇を打てるかもしれないんだ。この世界に来てから、実は様々な情報を今まで知っていたかのように得ている。その中に、奴らに対抗できる手段があるんだ。』


相変わらず口は動かさないが、強い眼差しでこちらを見ている。


「一体、どうやって?人を一瞬で消す程の力があるんだろ!?それに俺が対抗できるわけ・・・」

『いや、あるんだ。あの奥を見ろ。』


そう言うと立ち上がり、実家の後方にある森を指さす。


「光って、る?」


木々の隙間から青白い光が漏れ出している。あそこには、大きな池がある。景光はふと思い出す。幼い頃、近所のお婆さんにそこに伝わる伝奇を聞いたことがある。


(あの池にはねぇ、龍神様を祭ってあるんだよ。大昔、水不足で大飢饉があった時、突然もの凄い水柱が森に立って、人々が近寄ってみると、大きな龍が池を作り、すぐにその池に潜ってしまったそうな。その池の水を使うとたちまち作物が育ち、飢饉を免れたんだよ。それ以来、ここに住む人は、あの龍を龍神様と呼び、毎日お供え物をしてるんじゃよ・・・)


「あそこは、池があって命洗池って呼ばれてる。なんでも、龍神様を祭っているとか・・・」


その話を聞くと、アリシアは動揺した。


『その伝説が本物なら・・・いけるかもしれない・・・!』


アリシアは座る景光の腕を掴むと、走り出す。大の男を引っ張りながら、当たり前のように駆けることができる程の力を持っていた。突然の強い力になす術も無く、引き連れられて、生きる気力さえ無かった彼も、勝手に脚が回りだす。


「おおおい!いきなりなんだよ!痛い痛い!」


そんな言葉も耳にしないまま走り進む。掴まれた腕は強く握られ、うっ血する手前だった。


『いいかよく聞け!あそこにはおそらく本当に龍がいる!そしてその龍ならこの世界のお前にも、あの力を宿せるはずだ!だが、いたとしても、その龍も長くこの世界に留まれないんだ!」

「はあ!?何言って・・・おおおおおおお!!」


森に入る手前まで走ると、景光を抱え、跳躍する。だがその跳躍は高く聳える木に衝突する瞬間、木を蹴り、また別の木を蹴り進む。まるで忍者のような飛び方をするのであった。

そのまま森を抜けると、アリシアは景光を降ろした。人では考えられない速度と跳躍を体感し、額から汗が流れ、心拍数が上がり呼吸を荒げる。


「ハア、ハア、ハア・・・急ぐったって、やり方ってもんがあるだろ・・・えっ・・・!」


目のを疑った。そこには、自分の知っている命洗池と様子が違い、まるで日の出のような光量で青白く池が光っている。そしてアリシアが、父に魔法を唱えた時と同じように、

きらきらと、薄く掛かった霧が輝いていた。

なんだよこれ・・・すごいな。」

『関心している場合ではない。来るぞ!』


ドッシャーン!


池から、あの伝奇のように、水柱が天高く立ち上った。水柱はゆっくり収まっていく。

そして、巨大な龍が現れた。その姿は、翼はないが、鋭い大鎌のような三又の爪を両手に持ち、アニメ、漫画、ゲームで見たことのある、体の割に大きな、ごつごつとした龍の顔に2本の角と鬣。掌程の鱗一つ一つが青い宝石のように光を乱反射させている。その龍が、池から生えるように存在していた。


≪≪貴様が、我を呼んだのか?≫≫


アリシアとは違う、低く重みを感じる声が頭に響く。と同時に強風でこちらがあおられているかと錯覚する程の威圧。倒れこみそうだった。


『景光、応えろ!』

「えぇ?あぁ、違います!この村に住む者で、化け物に襲われて・・・」


≪≪いや、貴様が我をこちらに引き寄せたのだ。お前、名を名乗れ。≫≫


「お、俺は景光です!」


そう名乗ると、勢いがあった圧は弱まった。


≪≪我が名はリヴァイアサン。この世のあらゆるものを激流にて沈め、埋め尽くす者。水を司りし清王である。≫≫


『清王リヴァイアサンだと!?王よ。貴殿は、我らの世界、アストラに君臨する王であろう!?なぜ、こちらの世界にいるのだ!』


≪≪小娘、名乗りもせず、許可なく我に質問をするな。≫≫


池の水が、まるで蛇のように何本もアリシアに向かって凄まじい速度で伸びて、水の玉となって、アリシアを飲み込んだ。


「アリシア!リヴァイアサン、止めてくれ!無礼をすまない!頼む!」


景光の必死の願いに、水の玉は零れるように解除された。

ゲハゲハと、水吐き出すアリシアはその場に座り込みながら、リヴァイアサンに問う。


『私の名は、アリシア。貴殿と同じ、アストラ世界からきた住人です。この青年は身内も、家も村全てが、我らの世界の魔物達に焼かれてしまいました。お願いします。リヴァイアサン。彼に、貴殿の持つ清らかな力で、ジョブとスキルを、どうか・・・お与えくださいませんか・・・?』


アリシアは頭を下げ、懇願する。

景光にはその状況が全く読めずにいた。


≪≪問おう、景光とやら。貴様、魔物共が憎いか?≫≫


「・・・はい。憎いです。何度も心の中で殺したくて堪らないでいます。父を殺ったゴブリンを、自分の手で殺した時、手を見て思ったんです。こんなやつが、まだ他にもいて、人を襲うなら、絶対に許しはしないと。」


龍の圧は弱まりつつも、人であれば臆してしまうが、景光は目を見開き、龍の眼を見つめた。


≪≪その意、しかと受け止め気に入った。ならば貴様に、力を与えよう。この力はいずれ、強靭な肉体を形成し、あらゆるものを打ち砕かんとするであろう。だが、清王としての忠告だ。決して、闇に呑まれるな。闇に捕らわれれば、自我を失い、人々を喰らう側になるぞ。≫≫


「それは・・・その力はあいつらを全てこの世界から消せますか?こんな酷いこと、させないために、人を守れますか?」


≪≪ああ、消せ。消せるだろうよ。そもそも我らの世界にも不要な存在だ。そして、お前がこの力で強くなれば、より多くの民を守れる盾となろう。≫≫


「分かりました!力を・・・守れる力をください!」


≪≪承知した!インストーラー起動!対象民を守りし者、景光。カテゴリーSSS、初期ステータス設定完了。インストールクラス、ウォーリアー。オリジンスキル、リヴァイアサン。

設定完了。対象接続、ダウンロード、開始。≫≫


景光の足元に、青く光る、紋章や幾何学的な何かが描かれた、魔法陣が生み出された。

景光の体に激痛が走る。雷を受けたような痛みは全身を駆け巡る。

があぁ!がはっ!」


だが倒れることはない。拳を握りしめ、踏みとどまる。アリシアもその姿を願うように目を逸らさなかった。


次第に景光は光を纏い、光は膨張して弾けた。


首より下の全身は、様々な装飾がされた漆黒のタイトスーツ、その上に膝下まである白いロングコート。左手には、白銀の龍の顔が描かれた小盾。そして右手には、龍の鱗のように光が乱反射する輝く直剣が握られていた。


『やったな。景光。』


「ああ。今ならわかる。この力がどれだけすごいのか。どう扱えばいいのか。それを理解するだけで、やつらを倒せる。勝てると思える。・・・行くぞ。俺は、抗ってやる。」


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