そろそろ朝が死ぬ
それから三十分程。
笑顔で黒兎の死骸を並べるラギアがいた。
拳の強度どうなってんだ?と、再び考えてしまう。
「随分狩りましたね」
「へへへ、効率の良い方法見つけてな!」
反応してやると、楽しそうにその効率の良い方法とやらを解説し始める。
兎のゆく方向へ先回りしてタイミング良く蹴りを放つ、という一般人にはとても真似できない力業だった。
常人は魔力強化を施しても足の速さでは、レッグラビットには追いつけないのだ。
馬鹿なうえに色の判別がつかないので、捕まえる時には落とし穴を利用するのが定石らしいんだが。
しかも…
ラギアの並べた兎を一瞥する。
十匹はいるよなぁ…
レッグラビットは確かに見つけやすいが、魔法を使わず三十分でこれか。
「キラは薬草どうだ…って、おう。この時間でそんだけ採れるか…」
「まぁ」
ラギア、お前が引くんじゃない。俺だってお前に呆れてるんだからな。
此方はいつも通り、探知して短時間の間にも大量だ。今回受けたのはリネン草の採取だ。
ざっと120本。
この薬草は、暗く湿った場所に二三本は生えているので、薬草の位置が分かっていれば集めやすい部類だった。
【ディテクション】……探知魔法を使えず地道に薬草を見つけている冒険者が泣くな。
「んじゃ、そろそろ朝飯の時間終わりそうだし急ぐか!」
…それは大変だ。
自分で朝食を作るという手もあるが、何しろあそこの飯は美味い。
する事が特にない生活の中での楽しみは、食事と趣味の研究だけだ。
「はい、急ぎましょう」
そう答えて薬草を皮袋に入れ、ラギアの方をみた。
…あれ。
「兎はどこに?」
「あ、俺【マジックボックス】っていうスキル持ちだから」
はぁ…。
【マジックボックス】ってのは無属性『上級』魔法って事、知ってんのか?
まぁ、突っ込まないが。
「うお!うめえええ、んぐ、うめぇなこれ!キラ、うめえなぁ!」
「知ってます」
きたねえ!食いながら話すな。
今日の朝餉はレッグラビットのステーキと、野菜と茸の入ったスープだ。
宿代は安いのに、何気無しにここらで一番食事が豪華かつ美味い。
【レッグラビット】は、臭みが少なく肉が引き締まっていて美味いが、【グレーウルフ】というDランクの魔物の方がも少々質は落ちるが安いのにと考えてしまう。
スープも塩だけではない細かい味付けをされている上に具が多い。
俺としては嬉しいけど、そのうち潰れたりしないよなここ。
「えーもうおかわりできねーの?足りねえよ!」
お前七回くらいおかわりしてなかったか?
食事を終えて、再度宿から出る。
ラギアは今回の依頼でDランクの昇格試験を受けられるからとギルドに向かった。
一方の俺は、趣味に使う物を買い揃えに街の売店に向かうつもりだ。
今までとは違って色々漁りたいから、今までの報酬で足りなければ、最初に持っていた金を使うかな。
楽しみだ。