進行
階段を下り、一階の受付まで戻る。
すると、酒場の方の視線が一気にこちらに…クロナさんに集まった。
俺への視線は羨望と殺意。怖いな…恋慕ってのは。
やはりクロナさんは人気者である。
「あ、キラさん、ジライ草の査定と清算が終わりました!ジライ草396本で合計54200シルです!」
いい笑顔だ。
男共の俺への殺意を数倍は増加させそうなくらい、いい笑顔だ。
って、ん?報酬の金額がおかしな気がする。
ジライ草三本で三百シル…つか一本百シルなんだろ?
「あ、報酬が通常より高額なのは、キラさんの持ってきたジライ草に品質の良いものが多かったからですね」
品質?によっては買い取り値段が変わるのか。
初耳だが、質というのがなにを示すかは不明。
訊いてみると、ジライ草の質の良さは葉の色の濃さで判別するそう。
じゃあ今度は質のいい薬草オンリーで採ってくるとしよう。
「…普通の薬草もちゃんと採ってきて下さいね?」
ど、読心術…は使われれば分かる。
ただの勘か。洞察力高ぇな。
銀貨と銅貨の入った袋を受け取る。
因みに、
10シル=鉄貨
鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨、翡翠貨。
鉄貨が一番価値が低く、翡翠貨の側に向けて価値が上がり、同じ貨幣十枚毎に一つ上の貨幣と交換できる。
翡翠貨は、国同士や富豪なんかの大規模な取引に使われる程度。
平民や辺境の貴族は大金貨さえ見ずに生きる。
つっても俺は翡翠貨やら白金貨も持ってんだけど使う場面が無くて邪魔なんだよなー。
金貨にしたいが
王都でも白金貨一枚でさえ両替には時間が要るっていうのにこんな辺境じゃ崩せないよな。
「キラさん?どうかしました?」
「ああ、どうしてギルマスがわざわざ俺なんかの話を聞こうとしたのかな!と」
考えている最中に話しかけられ、若干驚きながら心の片隅に置いておいた疑問を口にする。
良かった。翡翠貨の方を言わなくて。
「あ、まあ私もはっきりとは分かりませんが、そのリカビスと…プロミネ?というのは、ギルドマスターの半身の方の病気を治す薬の材料になるらしいんですよ。」
ふーん。
確か、プロミネはアレルギー症状を抑えるとかの効能だ。
リカビスは花弁に疲労回復効果があるのは『あいつ』に聞いたが、果実は知らない。
リカビスは体の巡りを良くして薬剤の効能を大きくするから、それをプロミネに適用させると言った理屈かもな。
…双方を同時に服用すると魔力が相反して毒になる筈だけど。
まぁ、どうにかするんだろうな。
「それにしても…何故そこら辺に転がってそうな、どこの馬の骨かも分からないEランクの俺を?」
クロナさんに微妙に本意と微妙にずれた回答をされたため、やんわりと当初の疑問を口にした。
知ろうとすれば分かるんだが、一々調べるのも面倒だ。
「ああ。ギルドマスター、かなり急いでいるみたいなんですよ。植物関連の知識がありそうな人は全て部屋に通せ、と言われていましたので…ですが、キラさんのお陰で進展がありそうで。私からも感謝します」
ギルマスの半身。
急いでいる。
へぇ、かなり切羽詰まっているんだな。少し納得だ。
ところで何故クロナさんは俺を少し呆れたような目で見ているんだろう?
「話は変わりますが、この前の薬草採取では、ほかの雑草との見分けが殆どつかないリリア草まで一本の違いなく…これもまた大量に採ってきましたし。
僅かな魔力を察知しないと他の草見分けのつかない薬草の依頼というのは、能動的に受ける人がいないので助かりますけどね…前職があったんですか?」
あ、そう言えば町にきたばかりの頃にそんな依頼も受けた。
リリア草という薬草の採取依頼の時にも俺は、魔法の恩恵に授かり200本ほど集めたが、本当はかなり見つけづらい薬草だったらしい。
報酬が高いのに何故皆受けようとしないんだ?とは思っていたが…そうか。
探知魔法が使えるとも言えない。
なんせあれは『上級魔法』だ。
「俺は魔力に敏感なので」
実際の話、面倒だから魔法を使ったものの感覚でも区別はついた。
嘘は言ってない。
それだけ言って、受付を離れる。
宿に戻るか。
「よおキラ!!」
「は」
…宿に入ろうとすると、扉が勝手に開いた。
そこにいたのは…。
何 故 お 前 が こ こ に い る ?
「いやー!昨日まで泊まってた所追い出されたんだ!今日からここに泊まるからな、よろしく!」
…ラギア。
追い出されたって、一体何をしたんだ?
ここは宿代も安く飯も旨い、文句の付け所もない程良質なところだったんだ…(遠い目)