無知です
彼はこの素材達について誤った知識を持っているらしい。
そこでギルドマスターの持つ知識の全容を聞くことにした。
曰く、
時たま魔力の濃い場所に出現する【冥界門】と呼ばれる空間から出現する、
魔界のモンスターから稀に採取される、というものだった。
たったそれだけ。
「えーと…僕からすれば高ランクの魔物から採取するという方法の方が驚きですが」
「…一般にリカビスは、Aランク上位以上の魔物であるキリングエイプやマウスディバウダーなどの体内から稀に産出されると知られている。
魔石のような魔力の塊とか言われているが…適当は言ってはいないんだな?」
なんだそれ。
今も言ったが俺は魔物のドロップ入手法の方が適当な話に思えるんだが。
詐欺師にでも誑かされてんのか?
…待て?
今挙げられた魔物は雑食だ。
よくよく考えればあいつらがリカビスやプロミネを食って、討伐された時にたまたま…つうか『キリングエイプ』がAランク上位?
Aランク並の冒険者で相手になるとは…
俺が考える必要無いか。
「嘘をつく利点なんてありませんよ。実質魔界には飽きるほど咲いてます。流石に情報が回らないなんて…」
「気になったんだが、お前その言い方だと魔界に行ったことあるのか?」
そうだ、魔界には人間界で化け物と恐れられるSランクやAランクの魔物が蔓延る上に、魔族の住処なので、魔力の濃度が高く体が蝕まれる。
それが『普通』の人間なら。
自身を濃い魔力から守る技術を持っていれば、魔界に立ち入ることが出来る。
先天的な能力で身体を保護する者も少数いるが、概ね修練によって【魔力膜】という技術を使う。
魔法センスと一般的な上級魔術師の平均程の魔力がないと身につけられないが、身体能力強化、魔力回復増進等の効果もある。
あと、神話の存在になりつつある『勇者』や『予言者』、聖属性を持つ奴は特別なことをせずとも魔界に入れるな。
それはさておき。
聖属性を持っていると言っても良かったが、聖属性は貴重であるため面倒事に関わらされるリスクも無くはないな…こんな勉強じゃ。
ギルマス相手でも信用出来ないし。
そもそも、普通のEランク冒険者が単独で魔界に行きでもしてみろ。魔物に瞬殺されるわ。
つまり同行者がいないと不自然な訳だ。
誰かを守りながら魔界の魔物を撃破出来る冒険者に知り合いもいない。
「とある旅人が魔界から帰ってきたとき記憶を見せてもらいました。魔法道具の記録水晶ってやつです」
結局は、かなり無難な言葉で欺くわけだが。
怪訝な顔をしていたギルマスだが、直ぐに真面目な顔に戻る。
「……か。なるほど。急に呼び出してすまなかった。情報提供感謝する。また話を聞くかもしれないが」
「はい」
クロナさんが既に扉の外で手招きをしている。
では、と言い、席を立とうとした。
「あと一つ」
そこで、ギルマスが呟いた。
再び腰を下ろす。
「まだ調査中だが、最近ここらには出現しない筈の魔物、『スターラビット』が、西の平原を彷徨いているらしい。まだ告知していないが一応な。この町には高ランク冒険者はBランクの【レガット】一人だが彼は…。お前は普段からそこにいるだろう。気をつけな」
へぇ。
情報の礼という意味もあるだろうが、本当に単なるEランク冒険者を気にかけるなんてな…と、口角が上がりそうになるのを堪える。
レガット…そう言えば、たまに町の住民が噂しているな。
よく『怠け者』というワードが入っているが、町に居ついているのかな、と予想。
あ。ふーん。
ギルマスに短く礼を言い、漸く俺は部屋を出た。
階段を降りる際に、クロナさんに問うた。
「ギルドマスターは、昔冒険者だった…んでしょうか?」
すると、クロナさんは、不思議そうに答えてくれた。
「うちのギルドマスターは、元Aランクの冒険者でしたが…ギルドマスターは、通例引退した、優秀な冒険者が務めるというのは周知の事実では?」
くぅ、知らん。こういうのが困るんだよな。
一般常識とか『周知の事実』とかがまだ分かっていない。
「世間に疎くて」
苦笑する。価値観だけでなく、『当たり前』まで違う。
少し行き詰まる度に思案しているな。
まあ、きっとそのうち馴染んでいく筈だろう。
携帯がお釈迦になってしまった。