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灰色の空間に一人、少女?

…いや、少年がうずくまっていた。

なんだこれ。頭が重い。

目の前の彼を認識しようとすると息が苦しくなる。

俺は、俺がそこに居るのかも分からなかったが、彼に何らかの接触を試みようとした。

その時だ。

少年の灰色の目が『何か』を捉えた。

彼の口が動く。


『あの人は俺のことを…………なんて言ったが、うわべだけの気持ちだったんだろう。そう思った。俺はあの人を憎んだ。傷付け、貶めようとした。

それが過ちである事に気付くのは、ずっと……の話で

また……!笑いあいたいそれだけなんだ取り戻すまで戻すにはどれ程の時間がかかる諦めるつもりは…ひぃい今度はもっと早くああああはっははは

もっと早く早く!早く!早く!早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く…ふはははぁ早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早くはは早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早はあああああはやく早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く』


知っている言語の筈だったが、何故か意味が全く分からなかった。

だが、少年が正気ではないことは分かる。

焦るように彼は『何か』に向かって延々と呟き続ける。

俺は凪いだ精神で思考した。

ああ…そう言えば過去の依頼でも、こんな風に壊れたように話し続ける奴がいた。

その『怨念』が俺の夢に影響したということだろうか?

誰かから向けられた怨念があまりに大きい場合、もしくは多くの怨念が一人に集中した場合、怨念は対象に影響すると聞く。

今まで数えきれないほど殺してきた俺だ。

正体を知られていないにしても、それが起こる事はおかしいとも思えない。

しかし、夢の中でここまで明瞭な思考をしているなんて…不思議だ。




「キラ!」



「」

ストン、と空から落ちたような感覚に身を跳ねる。

思考にかかった靄は消え去っていた。

…誰かが俺の体を揺すっている。

いや、誰かっつっても予想くらいつく。


「起きろって!!いい加減!!」


…ラギアだ。


「っ…起きてますよ!」


くそ、寝起きに耳元での大声はキッツい。頭いてぇ。

何勝手に入ってきてんだよこいつ。扉にもっと鍵をかけておくべきだったか。

侵入者をジト目で見つめると、当人は首をかしげた。


「ん?何かお前、死んだ魚みたいな目してるけど…どうした?体調悪いのか?」


お前のせいだよ。


裏表の無い純粋な心配だというのが分かるだけに余計殺意が湧くが。


「いや別に…あと何か用件があるにしても無断で部屋に入るのやめてください」


さっさとその用件とやらを聞いて解放させてもらおうとした時、ふと床に散らばる大きめの木片に目が行く。

何でこんなところに…


「あ、扉壊してごめんなー?…何回呼んでも返事無かったから無理矢理入っちまった」


扉を壊し…?

入り口を見やると、バキバキに粉砕された扉の残骸が床に散らばっていた。

俺が扉を破壊されてここまでこいつに近付かれたって事実と自分の甘さに腹が立ったがそれ以前に…


こいつ何してんだ?本気で。


「それで用件なんだけど…一緒にギルドのDランク昇格試験、受けに行こうぜ!!暇だろ?」


満面の笑みでサムズアップするラギアの顔を見て、俺は片手で頭を押さえた。

扉の件をさもどうでもいい事のように扱いやがって。Dランク試験?一人で行ってろ。

だが、無意味に断ってもこの馬鹿は「何で?」を連呼するだけだろう。


「すみません、昇格試験とか興味無いので」


「えー…何で?Cランク以上に上がればギルドから毎月金貰えるし、ランクが上がっても下のランクの依頼は受けられるし。薬草以外の植物の依頼も上のランクにあるから稼ぎも良いのに?」


「いや、そもそもですね?僕はDランクの実力すら持ち合わせていませんから」


ここぞとばかりに利点を上げてくれたが、Dランクの平均的な実力は、一般人以上訓練された騎士以下と言ったところ。

案外下から三番目のランクになるにも、一般人にはそれなりの修練が必要なのだ。


「大丈夫だって!お前の実力は俺が保証する!だから、な!」


「その根拠のないはどこから湧いてくるんですか…?ああそうだ、今日は仕事があるので」


「Eランクの仕事は前日募集されるけどお前昨日ギルド行ってすぐ帰っただろ。知ってるぞ」


「……趣味という名の仕事があったので」


「試験は今日しか出来ないけど趣味なら明日も出来るだろ」


引けよ。

普段は平気で暴論ばかりかましてくるコイツが事実で反論をするということはかなり本気で連れにきてるということ。

今までの経験から、こうなったラギアは一日中ゴネ続ける。

それでも無視を決めこむと、その後数日は不貞腐れた態度でねちねち絡まれる。

何で俺をそこまで執拗に誘いたがる?なんて聞くと、次は意味の無い返答が返ってくるんだろう。


…はぁ。詰み。



「…分かりましたよ」

「おお!サンキュー、キラ!」

輝くような笑みを浮かべるラギアは、俺の声音に含まれる明らかな不満にも、俺のひきつりまくった表情にも気付かない。

なんて幸せな奴だ!

「じゃキラの分も含めて俺が登録してきてやるよ。試験は十時からだから!じゃーな!!」

「はい」

ラギアは扉の残骸を踏みつけて部屋をバタハバタと出ていった。

やれやれ、自分でも驚くほど低い声が出たな。


数度深呼吸して気持ちを整える。


…後で扉の弁償させねえとだ。

ようやく11話までの微微微修正が終わりました。

超短いですが久々の投稿です。


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