夏合宿 後編
2日目の朝。朝6時、俺はというと朝食の仕度をしている。神田と。
本当はみんなでやるはずだったのだが、作戦会議をするために先輩たちに休んでもらうという名目で朝食の準備を
率先してやることにした。なんだが・・・
「春樹くん、昨日はなぜあのチャンスがあって聞かなかったのか聞かせてもらおうか。」神田様は大変ご立腹でいらっしゃいます。
「ごめん、だから忘れてたんだって。」「君は本当に・・・」先から話し合いどころか一方的に言葉の暴力を受け続けているわけです。ほんとごめんって。
「はあー。ラスト1日は帰るだけだからチャンスはないとして、実質今日だけでなんとか聞けそうかい?」
「まあいけるだろ。つか聞かなくてもあの人は違うと思う。親衛隊メンバーなら、俺のことも聞いてるはずだし。そしたら合宿中にあんな話しかけたりしてくれないと思うし。」
「それは思ってる。だが、裏が取れてるわけではないからそうだと断定はできない。」まあ聞いたわけじゃないしな。
「つかお前が聞いちゃダメなの?先輩と仲悪いわけではないだろ?」ミッションを受けた時には合宿費がタダになることで触れなかったが、冷静に考えてみれば彼女が聞いた方が楽に決まってる。俺が田辺先輩と関わったのは今回が初めてだが、彼女は今年からの付き合いといえど、俺よりは長く先輩と関わっている。聞きやすさの
観点を取っても、聞くチャンスの多さからしてもそれがベストだと思うが。
「悪くはないよ。でも根も葉も無い噂のことで先輩との関係がこじれたら嫌だからね。君はそれほど関わることはないかもしれないが、僕は違うからね。」おい、その理由で行くと俺なら先輩に嫌われてもいいってことになるんだけど。
「まあ春樹くん、朝食は僕がメインで作るからさ。」可愛く言ってきたが何だろう。人にイラっと
することなんて普段ないが、メッチャイラっとする。
まあ気持ちとしてはわからないこともない。仲良い人だからこそ言えないこともある。
「わかった。美味しい朝食頼むぞ。」
「任せてくれよ。料理は得意なんだ。」そう言うと彼女は不吉に舌を出し調理に取り掛かった。
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「神田ちゃん、これ美味しい。料理上手なんだね。」小山先輩が喜んでいる。
他の先輩たちも絶賛だ。
第1印象では料理うまいと思ったが、完全にさっきのセリフは死亡フラグだと思った。いい意味で期待を
裏切られた。
「でさあ、田辺さん、今日は何やるの?」「ん?今日か?今日はなあ・・・」田辺先輩がニヤッと笑う。
何をするか全く想像はできなかったが、嫌な予感がした。
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「はいできたよー。1番テーブル持って行って!」「春樹くん、任せた!」「はいっ!」
俺たちは山にあるレストランでバイトをしていた。あの後、俺たちは3時間かけて合宿所から山に登り、
その頂上にある山のレストランでアルバイトをした。毎年、合宿の活動として、地域のお手伝いなどの活動をするらしい。もうオカルト研究会辞めて、ボランティアサークルとかに変えたほうが良いと思う。
「ある程度、人もいなくなったし交代で休憩まわしていいぞ。」「わかりました。まずは1年いってこい。」
やっと休憩か。この時間をどれほど待ち望んだことか。俺は力のない返事で休憩所まで向かおうとした。
「いや、僕はまだ大丈夫ですので田辺先輩先に行ってください。ずっと働きっぱなしですし。」「そうか?じゃあ由美行ってきたら?」「いえ、先輩が先の方がいいですよー。ここは私たちで頑張るのでゆっくりしてください。」
他の先輩たちも頷く。
「そうか?じゃ、じゃあお言葉に甘えて。」田辺先輩が休憩所に向かおうとする。神田がチラッと俺を見た。環境は整えてやった。あとは仕事しろと言わんばかりに。
わかってるよ。ちゃ、ちゃんとやるからさ。その目はやめて。今度は忘れないよ。
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「先輩、お疲れ様です。」「お疲れ。君はオムライスにしたのか!そっちでもよかったな・・・」休憩に入り、
俺と先輩の二人っきり。これは否応無しでも会話するチャンスはある。ここで聞かなきゃ、神田に何されるかわからない。
「先輩」「ん?どうした?」きのこパスタを口いっぱいに頬張りながら、答えてくれる。リスみたいで可愛い。
「いや、その・・・」なんて聞くか考えてなかった。先輩ってアリスの親衛隊何ですか?直接聞くのもなんだかな。
「どうしたよ急に。聞きにくいことなのかなー」いや、まあそういうわけではないいですがね。
「先輩って1年のアリスって知ってますか?」ああー。聞いちゃったよ。
「アリス?アリスって山本アリスちゃん?もちろん知ってるよ。」知ってはいるんだな。
「実はアリスと俺、同じ高校出身なんですよ。」何いいってんだ俺。これ言ったら何言ってんだって思われるか、先輩がアリス親衛隊って知ってる前提じゃねーか。
「えーーー、そうなのか?わ、私、アリスちゃんのファンなんだよね。じゃ、じゃあ高校時代のアリスちゃんのしゃ、写真とかあるの?」急に先輩の態度が急変した。あ、これ黒だ。
「そ、そんなに仲良かったわけではなかったので写真とかは持ってないですね。ははは。」
「なんだー。残念。そっか。」大きなため息をついてらっしゃる。そんなに好きなんだ。
「先輩アリスのファンだったんですね。」
「まあね。可愛いは正義だよな。あの吸い込まれるような大きな瞳。綺麗な黒髪。美少女とはまさに彼女のためにある言葉だよな。」先輩が語ってくる。あ、これは確実ですね。
「でも好きなんだけど、親衛隊にはちょっとな。応援はしたいんだけど、親衛隊は怖くて入れん。」なあああああ。まさかのここにきて親衛隊ではないですとおおおおお。
「そんなに親衛隊の人は怖いんですか?」「ああ。これは聞いた話なんだがな。うちの大学にアリスちゃんと仲良くしていた1年生の男子がいたんだがな。なんとサークル見学にアリスちゃんときていたところ、アリスちゃんともめてアリスちゃんを泣かせてしまったそうだ。そしたらサークルの連中全員の怒りを買ってしまい、男子一丸となってそいつの除名運動を行ったそうだ。まあ流石に学校がそれを飲むわけなかったが、今でも相当恨まれているらしい。アリスちゃんを泣かせたのは許せないが、そこまで来ると流石にな。」
「へ、へえ。それはひどい話ですね。」そんな大ごとになってたのかよ。俺そんなやばかったの?聞くんじゃなかった。
「ああ。今ではその子はどうしているのかはわからないがもう辞めたのかもしれないな。かわいそうに。
どうした?目が真っ赤だぞ!」
「いや、別に。目にゴミが入りました。」
「そ、そっか。おっとそろそろ時間だな。戻るか。」「そうですね」俺はさっきよりも力がない返事で
言った。