合宿前夜は鬱模様
やあ、みんな。俺だ。この夏はいかがお過ごしかな?ん?俺かい?俺は憂鬱な夏休みを過ごしているよ。
みんなも暑さには気をつけてね。お兄さんとの約束だよ。
ミーンミーン。うだるような昼下がりの陽気。
テストも終わり、本格的な夏休みが始まった。バイトもしているわけでなく、ぼっちの俺は引きこもるぐらいしかやることがない、はずだった。だが、そんな俺の夏休みに勝手にオカルト研究会とか言う得体の知れないサークルに強制加入させられた挙句、噂の人物、幻の6人目の正体が俺であると知らせれ、無理矢理に夏合宿に参加させられることになった。
夏合宿ってなにやるんだよ。それにメンバーとの面識も神田以外にはいない。何度かオカ研の部室には
行ったことがあるが、部員の人とは会ったことがない。初対面な上に何せオカ研に入るような連中だ。
馴染めるわけがない。俺は死ぬほど憂鬱な気分だった。行きたくないよー。
そしてその合宿の日にちまであと1週間。気分が乗らない。俺はいかにしてバックれるかという計画を立て
ざるをえなかった。
プルルルル。普段鳴ることのない俺の携帯が鳴った。携帯を開くと、神田からだった。
絶対合宿のことだよなー。出るかどうか迷っていたら、電話が鳴り止んだ。ふう。俺はどこかホッとした。
テレレレン。次はメールが届いた。
”こんにちは、春樹くん。元気かな?夏バテしていないかな?このメールを見たらすぐに連絡してほしい。”内容はこうだった。連絡したくない。だが、緊急をようしてる様だし仕方なく連絡を返すことにした。
プルルルル。「もしもし。」繋がった。
「なんか連絡しろって来たからかけたけど、何の用?」
「ああ、大した用事はないんだ。夏休みでボッチの君が寂しすぎて死んでるんじゃないかと思ってね。生きてるかの安否確認かな。」そんな嫌味言う為にわざわざ急用っぽい感じで連絡するな。俺だって傷つくときは傷つくからな?
「何も用事ないなら切るぞ。」「まあそう焦るなよ。君にとっては朗報かもしれないぞ。」
「どういうことだ?」つか何のこと?俺がリア充にでもなれる朗報なの?
「君の頑張りは当然オカ研の先輩たちも知っている。そして君のおかげで部員が・・・んんっ、なんでもない」おい、何を言いかけた?「まあ君の頑張りをみんなが称賛してくれていてね。今回の君の合宿費は全部オカ研の部費から出すことになったんだ。」「まじ?」超ラッキー。20万浮いたやっふー。
「ただし・・・」と彼女が続ける。俺は嫌な予感がした。
「ただしなんだよ。」「君にある人の素性を探ってほしい。」「ある人?」「そう、オカ研の3年生で部長の田辺先輩だ。」
「わかった。で何を探ればいいんだ?」「おお・・・潔すぎるね」「当たり前だろ?」部費は出してもらってるし、どうせ断れないのもわかってるからな。それにわざわざ俺よりもよく知っているであろう人を探って欲しいというのだ。よっぽどの事情に違いない。
「田辺先輩は良い人でね。ぼくらに対してもすごく優しい。ただ、先輩は山本アリス親衛隊の可能性があるんだ。」「いや、それの何が問題なんだよ。別にサークルだって来てるんだろ?今回の合宿だって参加するんだし。」アリスの親衛隊なんてゴロゴロいるし、今更驚くような話じゃない。
「君はことの重大さがわかっていないようだね。」「何?」「いいかい?うちの大学では今や3大勢力と
呼ばれるほど勢いのある団体が存在する。一つ目は体育会系ナンバーワン、バレーボールサークル。二つ目は文科系のトップ、美術サークル。そして最後は今年に入って急激に伸びてきた新興勢力、アリス親衛隊だ。」
うちの大学そんなんあるんだ、と感心していると彼女は「今やアリス親衛隊の組織力は上位2団体と引けを取らないと言えるほどだ。これがどういうことかわかるかい?」
「いや、さっぱり。」はあー、と神田がため息を漏らす。「つまり、情報は筒抜けになるということだ。
それはいい情報とは限らない。隠したい情報もある。そしてオカ研にとってもっとも隠したい情報、それすらもバレる可能性があるということだ。幻の6人目君。」
そういうことか。俺が幻の6人目だということを知っている人物はこのオカ研に所属するメンバーだけ。
この大学でもっとも男子学生から嫌われている人物が俺。そんな俺が幻の6人目だとバレればオカ研の評価はどうなるかわからない。そして影響力がある組織であれば噂が広まるのは早い。でもオカ研に所属する先輩がオカ研が不利になるようなことをいうだろうか?
「仮に先輩が親衛隊だとしてもオカ研のことを考えたら、不利になるようなこと言うか?」はあー、
とまたもや彼女がため息を吐く。なんかごめんなさい。「そんなのわからないだろ?親衛隊に寝返る可能性だってある。だから可能性が少しでもあるなら減らしておきたい。君とオカ研の為にもね。」
はあー、と俺もため息が出る。まあもしバレた場合、俺だけでなくこいつらにも迷惑がかかる。ってあれ?
俺は勝手に幻の6人目に仕立て上げられただけじゃ?巻き込まれた挙句に勝手にオカ研の今後も握ってんの?辛すぎるんだけど。
「まあ乗りかかった船だしな。やるしかないよな。」本当にそれに尽きる。「ありがとう、僕もできることは精一杯頑張るよ。」ーーーー
ーーーー 夏合宿前日の夜。俺はある人物に連絡を入れた。つっても二人しか連絡先知らないから勘のいい読者さんならバレバレではあると思うが・・・
そうアリスである。正解。ぶっちゃけアリスに連絡すれば、合宿で初めましての先輩にわざわざ聞く必要もないと思ったからだ(まあアリスが知っていればだけど)。今回のミッションは楽勝だな(まあアリスがry)。
プルルルルル。ガチャ。「もしもし?」でた。ワンコールで出るとかどんだけレスポンス早いんだよ。
「もしもし、アリス?今大丈夫か?」「もちろん大丈夫だよ!どしたの?」嬉しそうにアリスが聞いてくる。
「いや、お前のファンクラブのメンバーについて聞きたいんだけどさ、3年の田辺先輩って知ってる?」
「田辺え?ちょっとわかんないかな。つかいちいちあの人達のこと覚えてらんないよ。多いし。」
そんなもんなんだ。一生懸命彼女のことを想い続けても当事者からするとその程度の認識しかしてもらえないんだな。ファンって辛いのな。
「わかった。ありがとな。」「どうしたの?何かその人と会ったの?」そりゃそうだよな。聞いてくるよな。なんて言うのが最適なのか?
「オカ研の知り合いに誘われて、オカ研の夏合宿に参加するんだよ。それでオカ研の部長がアリスのファンクラブらしくてな。どんな人なのか聞こうと思って。」
「え?サークル入ったの?それなら私にも言ってよ!オカ研に知り合いなんて居たとか聞いてないよ!」アリスが少し怒ったように言ってくる。あれ?言わなかったっけ?
「つかそのオカ研の人にその先輩のこと聞いたほうがいいんじゃない?」アリスがごもっともなことを言ってくる。そりゃそうよね。
「いや、そいつはあまり先輩と関わったことがないらしくよくわかんないんだって。
だからどっちもよくわからないんだよな。でも合宿だと部長と関わる機会あるだろ?そしたら多少でもどんな人か知れたらなーと思って。」「ふーん、そうなんだ。まあ合宿で知るしかないね。」「そうだね。」
どうやら先輩との関わりは避けられなさそうだ。
「ねえ。合宿行ったらどんなんだったか教えてね。あとお土産よろしくね。」「おう!」俺はアリスとの
電話を切った。
まあそう上手くはいかないよな。
俺は布団に横たわり、明日から始まる合宿のことを考えた。はあー行きたくないよー。早く寝よ。
明日が来ないことを祈って俺は眠りについた。