テスト対策
7月。夏の暑さで頭がやられかけていたが、なんとか人間として超えてはいけない一線は超えてはいない。
俺はアリスと遊びに行った日以降アリスとは会っていない。まあ親衛隊がいるし、学校で関わったら終わるしな。
俺はこの6月から今にかけて何をしていたかというと、神田の依頼をこなしていた。俺が強く言えない立場
を利用し、様々な依頼を出してきた。授業をとっていない教授のレポートをやってこいだの、アイドルの
ライブチケットをとってこいだの、大変なことから雑用までやらされた。
散々ではあったが、あいつの依頼料はうまい。10日間にも満たない労働で15万ぐらい稼げた。夏休みが楽しみでしょうがない。まあ友達はいねーし、趣味もないから金使う時ないんだけどな。
「おいすげーよ幻の6人目!あの難しいと言われているミクロのレポートでs評価だってよ。」
「この間、欲しかったやつ、幻の6人目に依頼したら簡単に手に入ったぞ。」
周りが幻の6人目というやつで盛り上がっている。周りのやつの話を聞くに(周りの人たちが話している声が聞こえてきただけ)オカルト研究会に所属するメンバーの一人で、本来オカルト研究会にはメンバーは5人しかいなかった。そこに新しく入ってきた6人目のメンバーでそいつがかなりの凄腕らしい。
成績優秀、運動神経抜群でどんなこともできる。そいつに任せれば、難しいとされる教授のレポートをs評価で取れたり、普段手に入らないプレミアの勝ちがつくようなものも手に入れてきてくれるらしい。そんな完璧超人である。
ただ、実際にそいつの正体を見たことがあるやつは誰一人おらず、そして名前すら知っているやつもいない。
いることはわかっているが存在を知ってる奴がいないことから”幻の6人目”と呼ばれている。
あまりの完璧超人ぶりに人間ではない存在、最強の人工知能、宇宙人などの噂もあった。
俺も前に神田にこのことを聞いたが、それは教えられないと言われたことがある。まあ知ったところで
ぼっちの俺にはわからないだろうし関係ないと思って詮索はしなかった。
キーンコーンカーンコーン。そんなことを考えているうちに昼休みのチャイムがなった。俺は今日も神田に
依頼をたのまれているため、彼女の元へ向かった。
「やあ、春樹くん。」大学近くのファミレスで神田と会う。前はオカ研の部室だったが、幻の6人目の存在によりたくさんの人が出入りするようになってしまって依頼の話どころではなくなった。
それで今はファミレスで話をすることになった。ファミレスで会うときは普段の黒ローブはしておらず、
その辺にいそうな女子大生の格好?に見える。
「なんか失礼なことを考えていないかい?まあいいや。今日の依頼だが・・・まあその前に好きなものを頼むと良い」
依頼をするという立場であるからか、毎回ご馳走してくれる。女の子に奢ってもらうのは申し訳ないが、まあこれからのことを考えるとつい甘えてしまう。
俺はこの店で一番安いミートソースパスタを頼んだ。
「で、今日の依頼はなんだ。」俺はすぐに切り出す。どうせその話で集まるわけだから、無駄な会話はしない。
その方が昼休みの時間も有効に使えるし、あとは仕事人みたいでちょっとカッコいい。
「ああ、いつもすまないね。早速なんだが、君も知っての通り今月末は前期のテストがある。
1年生で必須のミクロの授業はもちろん取っているね?今回の依頼はミクロの教授のテスト問題に何が出るか探ってきてほしいんだ。」おい、探れって一生徒が教授のテスト問題が何かなんてわかるはずがないだろ。
「いつも依頼は断れないし、やってきたつもりだが今回の依頼は不可能だろう。それがわかったら勉強しないし。本来勉強をするために大学に入ってきてるんだ。その依頼はもう少しなんとかなんねーか?」
「僕もそうは思う。本来は義務教育ではないし、勉強をするために大学に入っているんだ。その考えはわかる。
だけど、誰もがみんな君のような考えを持っているとは限らない。ウチの大学にはスポーツ推薦枠だってあるし。
そういう人のために多少でも負担を減らせればということさ。それに何も教授のテスト問題を完璧に見てこいというわけじゃない。
きちんと授業を受けている君なりにテストの出題範囲を絞ってみてほしい。報酬も多く払う。今回は5でどうだ?」
「わかった。出題範囲を絞ればいいんだな?任せろ。」俺はさっきまで言っていたことをまるでなかったかのように言った。女の子の頼みを聞かない男がいるか?別にお金につられたわけじゃないからね。
****************
****************
とは言ったものの範囲か。ミクロの授業は範囲が広い。ぶっちゃけ単元ごとになんとなく当たりはつけている。
きちんと授業をとっていたので、何が重要かということは抑えてある。そしてレポートもこの授業はあった。
レポートのところはまずテストには出ないだろう。そしてそれを除いた単元で重要だと言っていたところを
まとめると・・・
とりあえず出そうなところは10個まで絞れた。範囲が広いことを考えると広く浅くというパターンの可能性が高い。そうなるとこの10個を押さえておけばまず大丈夫なんじゃねと思う。が、きっとこれではダメだと言われるだろう。
これでは5万円はきっともらえない。きちんとやっているやつであればここまであたりをつけるのは造作のないこと。
つまり、この5万円はもう少し核心に触れる部分が欲しいということ。過去にこの授業を取っていた先輩からの過去問の回収が重要になってくる。全く同じ問題は出ないと思うが、教授の好きな問題の形式やパターンがわかる。
そこから、今回のテスト問題の範囲を見つける糸口が見つかる可能性が高い。だが、このぼっちの俺に先輩の当てなど当然あるわけがない。じゃあどうする?秘密兵器の登場だ。
「ヤッホー、春きゅん。今日は突然どうしたの?」
そう、学年一のアイドル山本アリスに来ていただいた。
もちろん学校で会うと親衛隊の奴らに消される。だから休みの日にわざわざ来ていただいた。
「悪いな、休みの日に。」「ぜーんぜん!むしろ呼んでくれて嬉しい。」アリスは満面の笑みでそう言ってくる。
まじでこの子が女の子で俺の知らない人物であったら即告白してる。まあちょっと男の娘も悪くないかな。
「その、もうすぐテストだろ?なんかミクロのテストが難しいらしくて。ほら、アリス知り合い多いだろ?
知り合いの先輩でミクロの過去問持ってる人知らないかなーと思って・・・」
「そんなこと?多分いると思うよ。聞いてみるね!そんなことより今日はどこ行こっか?」アリスが目を輝かせて言ってくる。
「そうだな・・・」これでテスト問題回収はほぼ確実となった。後はアリスと遊ぶだけ。完璧すぎる俺。
そしてこの後、俺らはむちゃくちゃ卓球した。
****************
****************
後日。トゥルルン。普段ほぼならない俺の携帯が鳴った。アリスからだった。
”ハロー、春きゅん。 欲しがってたミクロのテスト範囲3年分だよー。きちんと見てね❤️”
まじか?去年の分だけでなく、3年分かよ。超助かる。つかハートマークはやめて。変に意識しちゃうよ?
これであとは形式の確認するだけだ。大問は3問だけ。毎年範囲はかわらないらしいから俺が予想していた10個の中から出ると思ったがその中でもさらに絞られている。毎年、問題の順番は違うが、出る問題はこの3問だけ。
なるほど。この情報はでかい。あとはこれに対して数字を変えたり、言い回しを変えたりしたら・・・
これでs取れなかったらやばいレベルで俺は丁寧な対策問題集を作った。
****************
****************
「ほらよ。」「随分分厚いね。こんなに問題あるのか・・・」神田が落ち込んでいるように見えた。
「いや、テスト範囲とそれに基づく俺が作った問題集だ。」「おおー!」神田が一気に喜んだ。こいつ、
前に勉強ができない奴のためにとかなんとか言ってたけど、それってこいつようなんじゃ・・・
「流石、春樹くんだね。ここまでの完成度とは・・・ほら、これは今回の報酬だ。受け取ってくれ。」
俺は中身を確認する。うひゃー。まじで金貯まったぞ。何に使おっかなー。とウキウキになっている俺を見て,
「春樹くん、随分お金が溜まったんじゃないか?」
「ああ、おかげさまでな。つかお前はこんなお金出して大丈夫なのか?バイトもしてるわけじゃないんだろ?」
「気にするな。君に感謝してるし当然のことだ。」神田・・・
なんていいやつなんだと俺は感動する。まあ思えば俺の自業自得なんだけどね。「ああ、そうだ。これを
渡すのを忘れていたよ。」神田は俺に1枚の紙を差し出す。
「なんだこれ?」「オカ研の合宿案内。部員だから当然だろ?合宿は強制参加だからな、幻の6人目。」
え?は?ええええええええ。
さっきまでの俺の感動返せ!そして幻の6人目、俺かよおおおおおおおおお。
こうして俺の貯めた20万は夏の彼方に消えていくのであった。