最後の夏休み
通知書。大学から成績の通知書が来た。これを見て秋の授業を決めるのが、大学での習わしである。俺はドキドキ
しながら、通知書の封を切る。ハアハア・・・息が苦しい。心臓が早い。なんてバカなことは置いといてさっさと
開ける。
中には2通の手紙が入っていた。GPA(大学の成績通知のこと)4.0(4段階での評価だよ。
それを科目数で割った値が平均で出るよ)とか・・・(つまりこの場合、全部の科目で4だったってことだね。)
どんだけ優秀なんだよ俺・・・
バイトもサークルもせず、いや、サークルは入ってはいるか。バイトもしてないし、友達もいないから
勉強ぐらいしかやることがなかったにしても、全部「優」って・・・確実にリア充街道からシフトチェンジし、ボッチ街道、いや、ボッチ王への道を歩みつつある。
思えば、大学に入る前はこんなはずではなかった。いつもいる男女4人組で、「今日どこ行こっか?」
「新しくできたカフェがあるじゃん?あそこ行こうよ。」「いいね、決まり。」みたいなやり取りをして、
授業をサボってみんなで遊びに行ったり、サークルに入ってサークル仲間ときゃっきゃ、ウフフしたかったのに何故だ?
この中で達成してることなんてサークルに入ってるぐらいだぞ?それもほぼ活動ないし、勝手に入会させられてるし。この間は先輩にアイス奢る羽目になるし。まあアイスだけなら良かった。気づいたら、飯から飲み物までおごらされたし。何がお礼だよおおおおお。お礼したいじゃなくてされてるからあああああ。
俺が思い描いていた大学生活とは一体なんだったのか?世間一般の人はこんなもんなんだろうか?
そんなことを考えていたら、普段ならない俺の携帯が鳴った。プルルルルルル。うるせええええええ。
どうせ神田かアリスだろ。センチメンタルな気分になっている俺は電話に出る気にはなれなかった。そんな午後昼下がりのうちのこと。
プルルルルルル。おい、何コーラスめだよ?早く切れよ。もうでないの分かるだろ?プツッ。ようやく切れた。ふう、これで一安心だ。テレレレレン。次はメールが届いた。もう俺は嫌な予感しかしなかった。このパターンは前にもあった。そう、合宿前の神田からの連絡だ。
どうせまた面倒ごとに参加させられる。俺は無視することにしたが、一応メールを確認することにした。
神田かと思ったら、アリスからのメールだった。
”春きゅん、大変!神田さんが・・・見たらすぐ連絡して!”
それだけが書かれた急を要するメール内容だった。
ぶっちゃけ罠だな。なぜそう思うかって?まず、神田が本当に大変なら、何が大変なのか記載するはずだ。
アリスの性格上、嘘をつけるようなやつじゃない。これは神田と今一緒にいて、神田から支持されて連絡したに違いない。それに本当に神田の身に何かあったなら、再度掛け直してくるはずだ。
俺はそう推理し、居留守を決め込むことにした。あーあ、ゆっくりするって最高だよな。チラッと俺は携帯に目をやる。いやいや、あの神田に限って何かあるはずがない。考えすぎだ。どうせ罠に決まってる。暇だからとか、あとはめんどくさい依頼を受けさせるかのどちらかに決まっている。よーし無視だ。寝るぞ。俺は寝るぞ。
俺は再度、携帯に目をやる。でも万が一ってこともあるかもしれない。わかった。これはあくまで確認だ。
確認のためだからな。罠だとわかったら速攻で切ろう。うん、そうだ。
俺はアリスに電話をかけ直した。プルルルルル、ガチャ。「もしもし、アリスです。春きゅん、大変なの!
神田さんが・・・神田さんが・・・」そういったアリスの声は震え、泣いていた。
「何があった?いや、つか今どこにいる。」「うちの大学病院にいる。」「わかった。すぐ向かう。」
俺はそれだけ言うと、走って病院に向かった。
********
「やあ。春樹くん。お見舞いに来てくれたんだね。」神田がニヤニヤした口調で話してくる。こいつ・・・
「自転車に乗ってたら、トラックと戦っちゃってね。奇跡的になんともなかったんだが、検査入院ということで今日1日は病院に泊まることになったんだ。」まさかまじで事故ってやがった。元気そうだから良かったけど、罠でもなんでもなかった。
「神田さんが無事でよかったよーーー」アリスはまだ泣いている。「山本さんには心配かけたね。」
「大丈夫なのか?」「なに?心配してくれてるのかい?」神田はまたもやニヤニヤしながら言ってくる。
こいつ意外と余裕あるな。つか勘違いしないでよね。べ、別に、あ、あんたのことなんて心配したりしてないんだからね。
「見ての通りなんともないよ。僕の守護霊が助けてくれたのかな。」久しぶりのオカルトジョークを聞いて、俺はホッとする。全く問題ないな。
「つか、なんでアリスがいるんだ?アリスから連絡があったからきたわけなんだけど。」「ああ、僕が自転車に乗っていたら彼女に気づいてね。彼女に声をかけようとよそ見してたら、トラックが横からちょんとね。ナンパなんて慣れないことはするもんじゃないね。」一瞬、俺らの会話は切れた。え?めっちゃダサいやん。
神田もその空気を察したのかこちらに目を合わせようとしない。俺らも目をそらす。普段は落ち着いていて
クールな印象だがたまにバカをやらかすよなこいつ。
「まあ、なにはともあれ無事でよかったよ。私びっくりしちゃって。」ようやく少し落ち着いたアリスが話す。
「山本さんには心配をかけたね。春樹くんもありがとう。」「気にするな。アリスも言っていたが、無事でよかったよ。」
俺は恥ずかしかったため、ごまかすのに頭を触りながら言った。その様子を見て神田は笑った。
「ふふっ。本当にありがとう。君たちには今度お礼をしないとね。」「いや、そんな礼なんて気にするなよ。焼肉が食べたいぐらいだし。」「いや、春きゅんがっつりお礼もらおうとしてるじゃん!」アリスが間髪入れずにツッコミを入れてくる。親衛隊の奴らが聞いていたら多分俺は生きていなかっただろう。
「君はさすがだな。しょうがない。休みが明けたら考えておくよ。今後も色々とお世話になるだろうからね。」意味深に言わないでくれる?秋学期がいつまでも来ないでいいと思ってしまった。
「それってどういう意味なのかな?」アリスが少し怒ったように言ってくる。「いや、こいつに良い様に
使われているだけだよ。実際パシリにされてるだけ。」俺は事実を述べる。神田が一瞬睨んできたような気がしたが、俺は目を合わせない。お決まりのパターンだ。
「へー。二人って前から仲良いよね。全然知らないうちに同じサークルにもいるし。」アリスが畳み掛けてくる。がしかし、アリスちゃん、俺らに何もあるわけがない。なぜなら俺は、神田さんに脅され使われているにすぎない。何かあるどころか何かないように努めてきている。
「山本さん、前にも言ってけど本当に彼とは何もないよ。仲良く見えるのは同じサークルで唯一の同年代だからね。ただそれだけだよ。」神田がフォローを入れてくれる。
「まあまじでそれだけだよ。だから気にすんなって。」「まあそこまで言うなら・・・」なんとか納得はしてもらえたようだな。さてそろそろ帰るか。
「じゃあ、神田も大丈夫そうだし俺は帰るわ。アリスはまだいるの?」「うーん・・・」アリスは神田の方をチラッと見る。神田がそれに対し、うなずく。
「私も帰ろっかな。じゃあお大事にね、神田さん。」「ああ、二人ともありがとう。」神田にバイバイをし、俺とアリスは病室を後にした。
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「まさか本当に神田が事故に遭うとは・・・」俺はいまだに真実を受け入れられないでいた。「だから大変だって言ったでしょ?」
「ああ。正直、神田から俺を誘き出すための罠だと疑ってたよ。」「何それ。」アリスは笑いながらそう言った。
「でも本当に何もなくてよかったよね。」アリスは緊張していた糸が切れたかのようにほっとした表情になる。
「本当にな。よかったよ。」俺がそう言ってからしばらく二人の間で間ができた。何話せばいいんだっけ?
そんなことを考えているとアリスが「ねえ。もし神田さんじゃなくて私が事故にあったら、春きゅんは来てくれた?」と突如そんなことを言い出した。
そんな・・・「当たり前だろ?高校からの一番の親友だぜ?」アリスは満足そうに笑った。その笑顔は
いつもよりももっと輝いていた。
「
絶対だよ?約束。」そう言うとアリスは前を向いて、少し小走りに歩き出す。まるでスキップでもしているかのようにルンルンだった。
「
春きゅん早くー。」ったくー。飛ばしたのはお前だろ?俺はアリスの元へ少し小走りで向かった。いつもよりも跳ねるようなそんな感じがした。