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第53話 前 雲 

ここは? どれくらい走ったんでしょ? 寒い。あ、雨降ってるからか。風邪確定ね。まあ、こんなのもうどうだっていい。

 私、今まで何のために生きていたのか。冒険者になったことも、強くなったことも、お父さんとお母さんを死なせたことも、意味はなかった。カイル兄さんのせいではない。私が勝手にやったこと。見返りが欲しくてやったわけではない。でも……。

 もういいの……。もう終わったことだから。今更私がどう頑張っても何も変わらない。あの2人の間に入ることは出来ない。そもそも、幼馴染だから恋人になれるものならとっくになっていた。カイル兄さんから妹扱いされた時点で希望はなかった。でも、他に選択肢はなかった。昔の私にとって、あの村が私の世界の全部。カイル兄さんが私のすべてだった。私からカイル兄さんへの想いを取り除くと、一体何かが残るって言うの?

 もうカイル兄さんの側に居ることは出来ない。だって、2人は関係を明かした。ラプラプな2人を見て、私は耐えるでしょか。でも、家に帰っても親はいない。そっか、この世界のどこにも私の居場所がないんだ。

 「あはっ、あは、あははははっ! はぁー」

 あーあ、疲れた。もうどうだっていい。でも、痛いのはいやだ。そうだ、ミセリアに頼んで……。いや、いっそのこと私の命を代償に全てを消し去るって頼んでみるか。ううん、他人を巻き込むべきではない。いなくなるのは私1人だけでいい。

 『解せぬ。あのメアリーという人間を消せば済むことではないか?』

 そんなことをしたところでカイル兄さんは振り向いて貰えない。むしろカイル兄さんに嫌われる。

 『記憶を改竄すればいい話じゃないか。主様、本当にそれでいいのか?』

 

 空が綺麗。灰色の空。青空よりこっちの方が好き。夜じゃないのに、空が暗い。見てて心が落ち着く。この空の下で、そう、よくよく考えてみれば、このまま、このベンチで眠りにつけば、きっとあの雲の上までいける。あ、でもここじゃ誰かに見つかってしまう。そうね、裏路地に行こう。

 そう、これを飲めば、雨の中でもすやすや眠れる。前にもこんなことがあったような……。あったわ。でも、今回カイル兄さんは来てくれない。ううん、来て欲しくない。

 ごめんなさい、お父さん、お母さん。今そっちに行くから。カイル兄さん、メアリーさん、お幸せに。


 「ちょっとケイリ! 死んでんじゃないわよっ!」

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