第60話 前 職人
そんなのいや! そうだ! カイル兄さんに聞けばいいじゃない? あ、でも、これ、契約違反にならない? 代償をどり戻そうとしてるようなことをして。
『ならない。けれど、本当にいいの? またカイルに疑われるよ。そうでなくとも大事な思い出を忘れたことで好感度が下がると推測するのでおすすめできない』
確かに。疑われてまた召喚獣のこと気づかれたら、全てが台無しになる。しかも幼馴染みという私の唯一の属性でさえ失いかねない。過去より未来よ。
そうだ。今は召喚獣のことを気づかせない方法を考えるべきだ。まずはなんと言ってもこの右手だ。髪は多分言わないとバレない。両親のことも。左手で食べるのはやめよう。とは言っても、そう簡単にできれば苦労はしない……。
いや、ちょっと待って! 私、一体いつから右手が使えないと錯覚したの? 使えないのは親指と人差し指と薬指だよ。中指と小指で食べれば……できるのかな? できるできないじゃない! やるしかないのよ! えいえいおー……。
いやー、やればできるもんだね。中指と小指を曲げると薬指も曲がるし、人差し指もちょっとだけ曲げる。親指は動いてくれないけど、動く指と親指の付け根で挟めばフォークを持ち上がれる。左手でさりげなく一差し指を直せばバレないはず。あとは、魔法の弓ね。流石に指2本じゃ弓は引けない。あ、そうだ! 右腕に付けるクロスボウにしよう。元々そんなに大きくないし、重くない! そうと決まれば、早速職人さんに加工してもらおう!
「あの、これを、クロスボウに、できますか」
「小娘なめてんのか? えー! おい!」
「え? な、何?」
怖い!でも今日中に改造して貰わないと明日のクエストに間に合わない。
「あ、あの、な、な、……」
怖い……。
「なめてません」
「あん?」
「おやっさん落ち着け。その子、怯えてるじゃないか」
「ちっ……あのな、お嬢ちゃん。ここは木工職人の店だ、他に当たれ」
「あの、本当に、できないん、ですか」
「杖をクロスボウに?」
「あ、えーと、これ、魔法の、弓、なんです?」
「弓? これが?」
「はい。見てて、ください」
魔力を注入して弦を出現させた。
「それは……分かった。そういうことなら。ていうか、これ、弓のスキル乗るかい?」
「乗らない、です」
このあとも散々質問攻めされた。コミュ障は辛い。はっきりわかる。
隣の革職人の助けもあって、黒いロンググローブの上に固定された小型クロスボウが出来上がった。これでまた戦える! あ〜! 今ならどんな魔物でも倒せる気がする。
その時の私は全く考えていなかった。みんなの召喚獣に関する記憶を消すことがどんな影響を及ぼすのかを。




