第二章第三話 リアル狼の皮を被ってみたアイツと夜襲
おはようございます。
頭の中にあるイメージを文字にするのは、格闘ですね。
人生初狼の皮を剥い遂げたアイツの後に付いて、お互い無言のまま村まで戻ることにした。
アイツの服が、血まみれになったから。
狼と戦闘した時が付いたものでも、狼を解体した時についたものでもなく、
「狼の皮、被ってみたぜ」と被ってたらついたものだった。
そんないきなりバカになったアイツに呆れて、歩きながら色々と考えてみた。
例えば、なんでこんなファンタジーな世界でハンターみたいなのになったアイツとか、
とりあえずアイツから感じ取れるのは違和感しかないとはどういうこととか、
これから実際どうしたら逃げられるとか。
逃げたいのはあたりまえだよね。
人助けとかは場合によってはそんなに面倒くさいではないかもしれないけど、
アイツといるのは嫌、いや、なんかやはり一人の方が楽というか。
普通にこのクシェという小さな村で、毎日薬草や薪でも拾って暮らしていくほうが、
あまり考え事しなくてすめるし、
もとの世界に戻るのは避けたいし、どうしても集めって言われたらできるだけのんびりして、気が遠くなるほどのさきまで伸ばしたい。せっかく思い切り遠くまでに連れてもらってるもん、もとの世界のこと、もう知らない。あああでも来月発売のゲーム、気になるなぁ…
「聞こえてるけど、いいのか?」いきなり立ち止まったアイツにぶつかりそうになった。
「乙女の独り言を盗み聴きするとは、変質者ですか?」びっくりしたけど、ここは冷静に対応したい。
「いいか。俺は早く帰りたい。この小さ過ぎる村じゃエネルギー溜まりにくいし、お前だってもう少しいいところで暮らしたいだろう。というわけである程度大きな街につく前に一緒にさせてもらう、逃げても無駄だ、その足じゃな。」と言いたいこと言えたようで、振り向いてまた歩き出した。なんだ変質者であるのは否定しないか。
べーーーー!
とその背中へ舌出して睨んでみた。
魔法使えたら、絶対呪ってたと思う。
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クシェ村長は、狼の皮に牙とお肉を見て、驚いた顔をあげた。
薪や薬草や果物などしか期待されていなかったらしい。
そりゃ私だって、昨日まで普通の高校生やっていたアイツがこんなの出来るとは思わなかった。死神は戦闘関係のスキル、まったく与えてくれなかった。なのに不器用ながら見事に一人で狼を倒し、適当であったけどそれなり役に立てそうな素材を剥ぎ取った。
なんでか気になるけど、聞く気はないからもう考えないようにしよう、そうしよう。
「これじゃ踏ん張ってもう少し報酬を増やそうかのう。」優しい笑顔。うん、やはりここに住みたいな。
「ありがとうございます。お世話になってる上によくしていただいて、本当はこれ以上は頂けないが、これからの未知なる旅のために、ありがたく頂きます。感謝してます。」とお辞儀したアイツにつれて私もそうした。
気持ちはありがたいけど、旅のための用意が、あまりできていなければ、ここにもう少しいたいと言い張れるのにな。
「では明日出発する前に、…」とアイツが延々と優等生っぽい言葉に聞く耳を持たず、ただ今夜の脱走計画を考えるようにした。
村長さんには失礼だけど、こちらとて人生そのものと生活に関わる大問題である。
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「なぁ、ちょっと変だよな。」
部屋のロウソクを消す前に、アイツが寄ってきて小さな声で話しかけてきた。
「変なのはそちらです。寄らないでください。」床に寝たまま抗議してみた。
もしかしてこちらの企みを見破ったとか言わないでよね。
「マジな話。黙って聞け。」もうすぐ真っ後ろにいて、アイツの息が髪に触れた気がする。そしてロウソクの光が消えた。
「変なことしたら絶対死ぬまで逃げるから!」と肘で攻撃してみた。
当たったけど、まるでダメージが0の無効攻撃のようで、アイツが何もなかったように続いた。
「この村、畑もなければ、商売できそうなものを生産してないけど。」
え。
「鶏は少しは飼ってるけど、その数だけでほかの村から必要なもの買い揃えなさそうだよな。建物からして貧乏そうなくせに服とか飾りとかが小綺麗だし。どう思う?」
思い当たるところがあった。
「一昨日いた倉庫にあった布の袋、なんか黒く染めたのが何個あったよね…」
まさか。
「そしてどう見ても明らかに違いすぎる服装な俺たち。」
「逃げられる自信がないよ…」
「おんぶしてやるよ。少し惜しいが、この部屋にあるものだけ持ってこっそり逃げよう。剣は頼んだぞ。」
「え、いや、おんぶは…」
「一人の女が悪党に捕まれたらどうなるか、どの世界もあまり変わらないと思うけど?」
反論できそうもない。不死身だけどそれだけで、感覚も感情も普通にある。どう考えてもアイツの背中にしばらくくっつく方がずっとマシ。
「み、見張りはいるかな?」仕方なく話を進めてみる。
「たぶんとなりの部屋にいる。お前は今少し休んでおけ。もう少し静かになったら起こすよ。」と首筋の下の空間から腕が生えてきた…じゃなくてアイツの腕が伸ばしてきた。
「おおぉい、や、やめて、ください。」危うく大きな声を出すところだった。
「腕まくらで少しは寝やすくなるじゃないのか?」うなじでアイツの吐息を感じた。やばい。なんのシチュだ。乙女らしいけどなんか時機的にちがうよ!
「こ、これぇ眠れにゃいお…」喋ってみたけどはっきりと発音できないほど動揺しているのは自覚してる。けど動けないし、振り向かうこともできない、抵抗する方法も思いつかない。
「しーっ。」ともう一本の腕が腰に届いた。「なんであの時はいって言ったの、教えてやろうか?」無駄に美声なのが更に質が悪い。思考が暴走するわーこれマジやべーななんかリアルに乙女がはあはあするイベントが発生してるねでもなにも親密度稼いでないしなんだよこれは夢かまさか世界が滅びかけてるのも夢だよねきっとそうだよね…
「間に合ってます!」と叫びながら力いっぱい、素早く、上半身を起こした。
「本当、予想外なことばかりしてるな。」
アイツも素早く壁にもたれている剣に手を伸ばした。
となりから、数人が動き出したそうな音は、私にでも聞こえるほどのものだった。
乙女っぽいシチュを入れてみましたけど、
もう少し増やしたかったけど表現力が足りませんでした…。