第一章 乙女よ一日一善せよ
世界設定書くのは、難しいですね。
なんか痒い。
背中も、うなじも、指先も痒い。
あれ?
死んでも痒くなったりするのかな?
しかもその痒いの、あっちこっち移動しているみたいが…
「気持ち悪ぅ…」
お、なんか話せるし?じゃあ…
目を開けたら、やや距離がある天井は岩石でできているのが見える。
なんだろ?お墓の中ってこんな感じなのかな?思ってたより広くて、何故か少し感心した。
でもやはり痒いので、両手を目の前に動かしてみた。
なんだ、電車に跳ねられたのにちゃんと両手もってるんだ…と思いながら手の痒いところを見たら、蟻が一匹いた。
なるほど、とフッと息で蟻を吹っ飛ばした。
ついでに体を起こしてみた。
どうやら制服のままお墓の中に埋められたみたい。
お墓の壁と天井は石でできているみたいけど、床は土だけで、なにも敷いていない。そう、私の死体をただ土の上に置いただけだった…棺桶とか高そうだけど、せめて布団くらい敷いてもらいたかったなと思ったけど、もう遅いかな。
しかもなにも一緒に置いてくれなかったとは。
キャラグッズとか抱きまくらとかはちゃんと一緒に埋めてくれよ、もう…!
と独り言しながらさらに見回した。
お墓はたぶん教室ほどのサイズで、右の方に通路がある。
ここにいつまでもいてもつまらないかな、
と思って立ち上がって歩こうとしたら…
「あら、もう起き上がれるの?早いねぇ」
黒い髪で黒いスーツで黒いヒールで赤い唇の、テレビでもそうそういないほどの美人が通路の向こうから入ってきた。
「お墓ってみんな繋がってるの?」思わず聞いてみた。
美人のお姉さんはハッと目開いて、
「やはりあなたは想定外のことしちゃうね…」とため息ついた。
なんだよ。人の墓に勝手に入っておいて。
「まあ、いいわ。私は死神なのよ。名はクロエ。クロ姉ちゃんって呼んだら嬉しいよ。」とウィンク。クラスの男子ならもうメロメロだろうね。
「そう呼ばないし、もう関わりたくないし、お引き取りください、クロエさん。」
「えええ?冷たい〜!女子ならもっと可愛くでいてよ?これからのためと思って!」なんか近寄ってくるけど。
「これから?死んじゃったのに、どんなこれからがあるの?」
思わず鼻で笑った。死後の世界ってこんな可笑しい人がいるんだ。
クロエは目のすぐ前に立っていて、クスッと笑った。
「今は死んでないし、これから、忙しくなってもらうよ、絵美理ちゃん♡」
し、死んでないだって?!
「え、く、詳しく教えてください!」と、初めてちゃんとクロエの目と合わしてみた。
「しょうがないねぇ〜じゃあとりあえず座ってね!」
クロエがパチンと指を鳴らしたら、
何故か体が勝手に動いて、気付いたら柔らかい椅子に座ってる。
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結論から言って、やらかしてしまってというか、
もうそこまで運が悪いか、訳がわからないくらいのことが起こったとしか言えない。
どうやら電車に跳ねられたは本当で、一度は死んでしまった。
そしてこんな私を助けようとしてたアイツも巻き込まれて…まではまだ理解できたけど、
二人を跳ねた勢いで何故か電車そのまま脱線してしまって、となりの線路を走っている特急電車とぶつかった。
かなりの数の人が…
私のせいでいなくなりました。
しかも、死神の予定表ではこの事故は書き込まれていない。
すなわち、
運命を司る神すら予想できなかった想定外の大規模事故だった。
「どうしてもそこまで大きな反応するの予想できなかったよね〜あたしならそこはあの子の手を取るしかないよ!」クロエは恨めしそうな目でこっちを見た。
そのため、私は生き返らせた。
「死んでも償えきれないことがあるのね。」
疲れた顔で微笑んだクロエ。
「だから、この世界でがんばってもらうよ。」
クロエが言うのは、
想定外の事故で世界規模で運命がねじられ、管理しきれなくなる世界が暴走してしまうのが見えてくるから、時間を戻してなんらかの予防措置する必要があると。
(できなかったらクビになるみたいな言い方だった…けど突っ込まない方が良さそう。)
事故が起こる前の時間に戻すには、
あまりにも大きな生命エネルギーが必要で、
起こった地域担当のクロエ、そして私がいた世界の担当の死神でも、そう簡単にはひね出せないほどの量で、
これからは今いるエネルギーが満ちている世界、そう、今までいた世界と違う世界で、
生命エネルギーを集めることになった。
集め方は至って簡単。人を助けて、感謝の気持ちを高まれば生命エネルギーの素が生まれてくる。それで死神たちで処理すればちゃんと使えるエネルギーに変えられるから、とりあえずひたすらたくさんの人助けてをやればいいらしい。
それが私の償いだって。そしてこの記憶を持って事故を起こす前に戻れば、事故を回避できるという。
…これはなんの中二病設定プレイ?
と不謹慎に思わず思ってしまったけど、やはり面倒くさい。
元の世界に戻ったっていいことないし。まあ乙女ゲームとかはできなくなるけど、妄想で生きていける気がするし…。
「断る!いなくなった人たちには申し訳ないけど、世のため頑張りたいほど世界のこと関心持ってないし。もう死んだことになったし、やる気まるでないよ。」と正直に伝えてみた。
クロエは、笑った。
「そうね、これは一応予想はできてたよ。でも、もう、後戻りができないからね。対応として、この世界では死なないことに設定したよ。長〜く生きているうちには必ずいくらかエネルギー集められるからね。集めたものは直接こっちに届くから、安心してね。ここから出てすぐ村があるから、そこで合流してね、うふふ♪一日一善くらいがんばってね!じゃね〜☆」
と忽然と消えた。
椅子も一緒に消えて、私はいきなり床に落とされた。
えええええええ?