てぶくろ
ある冬の夜のことだった。
塾の帰り道、友達と別れた私は一人で自転車を走らせていた。
「つめたい。」
さすがにクリスマス間近のこんな時期に手袋を忘れるのはつらいものだ。
自転車をこぐにつれて、指の先から体温がなくなっていくのが感じる。家に着くまでそんな時間もかからない。このぐらいだったらまだなんとかなるだろう、そう思ってひたすら道を進んでいく。
上り坂をたんたんと登っていく。体はほんのり温まってきたのに相変わらず手の方は一向に温まらない。この坂を下ったら家だ。
「あと、もう少し...。」
少し風が吹いていたが、手にはその感覚さえも消え去っていた。
ブレーキをかけ、上を見上げた。
そこは、『我が家』であった。
窓のカーテンから漏れた光かぼや〜っと私を見つめていてるようで、私も見つめ返した。
それは微笑みながら、「おかえりなさい。」と、私に言っているようで、私も思わず笑みがこぼれた。
さっきまで冷え切っていた手は、何故かほんのりと温まっているような気がした。
そして、私は言ったのだ。
『ただいま、』、と。