2014
いつかの夏。
彷徨っていると、暗がりに開かずの扉を見つけた。
私は、赤とも青とも黄とも、白とも黒ともとれる異様な色合いのその扉から目を離すことが出来なかった。
数年前の春。
桜の花びらが舞い散る中、開かずの扉の前で立ち尽くしていた。
水底のように、辺りは暗い。
――≪向こう側≫は明るいのだろうか。
開かずの扉を開きたい、と思った。
少し歩けば明るみに戻れるだろうに、私は≪向こう側≫の明かりを求めた。
横には同じように悩む人が何人もいた。
しかし皆慰めあうばかりで、扉の開き方は一向に解らなかった。
かと思えば、どこで手に入れたのか、鍵を持って悠然と中へ入っていく人がいた。
それはどこで手に入れたのか。
ついて行こうと思っても、足が鉛のように重くなり、私は動けない。
そうして踏ん張るうちに扉は閉まってしまうのだ。
幾度か季節が巡った。
扉は一向に開かず、私の心身は消耗するばかりだった。
――≪向こう側≫を諦めたくない。
季節を問わず。
開かずの扉を開けることを諦め、別の扉を目指す人がいた。
私の周りは顔ぶれがころころと変わっていった。
しかし、
私自身は扉の前から絶対に退こうとはしなかった。
――≪向こう側≫の景色を見たい。
いつかの秋。
私は、大きさのちぐはぐな鍵を拾い集めて、歪な鍵束を作った。
この中に扉に合う鍵はあるだろうか。
冬になった。
鍵の一つがぴたりとはまり、ついに開かずの扉は開かずの扉ではなくなった。
恋焦がれた≪向こう側≫。
これは夢かと思った。まるで現実味が無い。
扉が動く。
重く、微動だにしない。
しかし、暗闇だった世界に一筋の光が差し込まれた。
それは、確かに扉が開いたという証だった。
季節が巡った。
扉は相変わらず重く、微動だにしない。
しかし、一寸ずつ、一寸ずつ、地道に開けていくと、光の筋が拡がっていくのである。
間違いなく、前進している。
また、季節が巡った。
扉の隙間は、片足が入るまでになった。
しかし、まだまだ胴を滑り込ませるには至らない。
頭さえ通らない。
時折、≪向こう側≫から牽かれる感覚が訪れた。
その時は扉がふわりと軽くなり、一気に動く。
そうして扉が開くごとに、≪向こう側≫が見えてくる。
一ミリ開くごとに、私に向かって沢山のものが雪崩れ込んでくる。
気温が上がる。
匂いがする。
眩しくて見えなかった光に目が慣れ始めて、
景色のシルエットが掴めてきて、
≪向こう側≫の存在が、ぼんやりと現実味を帯びてくる。
次に冬を迎えるとき。
私は扉の中へ入れているのだろうか。
そうして、また季節は巡っていく――。