第六刃 鬼
「迷ったな。」
「迷ったわね。」
「ああ。完全に迷った。」
風の国を出た三人は、最初の国 砂の国に向かっていた。途中にある、鬼の森の中にいた。
「まだ昼なのに暗いな。さすが鬼の森だな。木々までバカでかい。」
周りの木々はゆうに数十メートルに達し、日の光がほとんど差し込まない。それにここの生物は異常な成長をする。草木も動物も……
「どうしようか?今まではまだ悪魔に会ってないけど、夜に出てこられたら、圧倒的に不利だ。ただでさえこんな森の中なのに。」
座りやすそうな木に腰を下ろし、レンが言った。
「今日中に出られそうもないし、なるべく安全な場所を探して、そこで隠れて、また明日出発しましょ。」
近くの木に残りの二人とも座った。
「そうだな。この森ヤバいのがいるらしいし。」
「じゃあ二手にわかれましょ。レンとヨウが一緒で私が一人で。」
「何言ってんだよ。女一人で行かせられるかよ。」
ヨウが言った。
「いいの。ヨウと行ったら悪魔に襲われるのより早く襲われるかもしれないし。レンも上手く魔法使えないし。」
「んなことしねーよ!」
「ははは。まあいいじゃん。レイラそれでいいよ。でも気をつけて。」
レンが笑って言った。
「ありがとう。レン。それじゃ、日没前にまたここに。」
レイラは森の中を歩いていった。
「たく、あの女。せっかく人が心配してるっていうのに。」
「まあそんなに怒るなって。それじゃあ、僕たちも行こうか。」
二人はレイラと反対方向に歩き出した。
「なあヨウ。お前、剣に宿る龍にあったことあるか?」
しばらく歩いていると、レンがヨウに話しかけた。
「風龍にか?あるよ。二回。初めて剣を授かった時と国の外にレンと抜け出して悪魔に殺されかけた時。」
………二回目の時、覚えてるか?レンも見たろ。巨大な風の斬撃。あれは俺がやったんじゃない。俺に死なれては困ると、風龍が守ってくれたんだ。
「そうだったんだ。」
「あれ以来、力の解放の初期段階である、《解》が出来るようになった。けど、まだそれだけだ。」
「次の段階である《牙解》に至るためには、いつでも風龍と対話出来るようにならないといけないらしい。そのためには龍に認められないと。」
ヨウはヨウの剣[風刃]を鞘から抜き、刀身を見ながら言った。
「さてそろそろ戻るか。」
《ズシーン、ズシーン、ズシーン!》
「何か来たな、それも相当でかい。ひとまず隠れよう。」
二人は木の上に登った。
木々の間から出てきたのは、巨大な鬼だった。体が赤黒い。持っているのは、話しによくある金棒ではなく、これまた巨大な剣だった。周りに小さな、それでも人間位の大きさの鬼を引き連れて。
「ヤバい。レイラのいる方に向かってる。どうする?レン。」
「ひとまず奴らより早くレイラの元に戻ろう。」
二人は鬼達に気付かれないように、木をおりて、少し距離をとって駆け出した。音をたてないように、それでも早く走るのは難しかった。
「レイラの魔力…」
「俺も感じた。あいつ戦ってんな。あの鬼がきたらまずい事になる。」
「なんとか鬼より早く行けそうだ。」
レイラの魔力を感じる方へ二人は走っていた。
ようやくレイラを見つけたが、レイラは球体状の水のシールドをはって、その中にいた。それを壊そうとする鬼が十数体。
「あの数なら殺れる。」
「いくぞヨウ。あの巨大なのが来る前に。」
「レイラ救出と行きますか。」
二人は隠れていた木から飛び出した。
「風刃、《解》」
剣が風を帯びて、光る。その光が消える頃には二体が真っ二つになっていた。
「風刃 ー双龍ー」
一本の剣が最初より少し短く、
そして風を帯びた二刀に変化した。
鬼達がこちらに気付き、襲ってくる。
居合…『烈閃』
目の前に迫る一体をレンが高速の斬撃で斬り捨てる。
殴りかかり、ひっかいてくる鬼達の攻撃を右へ、左へとかわしながら、一体ずつ斬っていく。
《ズシーン、ズシーン》
「あの足音だ、もう来やがった。レン!さがれ!一気に殺る。」
ヨウが剣を一本を鞘の位置に、もう一本を反対側に腕をクロスさせる。
「おおおおおおおおおおおおおお!」
体中を風が包む。
『殲塵』
クロスさせた腕を元に戻しながら、魔力を剣に集中し圧縮して飛ばす。その際周りの風が乱れ、巻き込まれて、無数の斬撃を生じさせる。
《ズザザザザザ……!》
ヨウの前方は無数の風によって残りの鬼も木々もバラバラになった。鬼の血が辺りを真っ赤に染める。
「よし、いくぞ。」
ヨウの声と共に三人は走り出した。
しかし、二人についてきてはいるが、レイラがまだ水の球体から出て来ない。
「そんな邪魔なもん解けって。早く隠れないと。」
「いいの!これで!」
「いいわけないだろ!無駄に力使うなって!」
走っていると、洞窟を見つけることができた。
「あそこに隠れよう。」
三人は中に入っていった。レンは入口に残り、そして鞘を入口の地面に刺して魔力を込めた。
魔術『魔封術ー白ー』
《ズシーン、ズシーン…………》
「…………………行ったか?」
「ああ。」
ヨウの問にレンが答える。
「そろそろレイラも魔法解いたら。奴らもいったし。」
「いいの!!」
「…しょうがないなぁ、もう。」
レンは球体の中に腕を突っ込んでレイラを引っ張り出した。
「キャッ!」
水の球体から出てきたのは、裸のレイラだった。
「あ……………。」
「バカ!!!」
腕を掴んだレンの手を叩き、ものすごいビンタを食らわしてすぐに水の球体の中に戻った。
「…すみません。」
レンは球体の前で土下座して謝った。右の頬がはれている。少し涙目だ。よっぽど強烈な平手打ちだったのだろう。
「まぁ、許してやれよ。レイラ。悪気があった訳じゃないんだし。そもそも何で裸なの?」
「…………………歩いて少し汗かいてたから、川で水浴びしてたら、急に襲って来られて……。」
「いやーしかしいいもん見せてもらったなぁ。なぁ?レン。」
「やめてよ。怒るわよ。」
「冗談、冗談。服返してやるから怒るなって。」
「はい?」
「だから服返してやるから。」
「え……………?」
「なんか服が落ちてたから、逃げる時に一緒に持ってきたんだよ。」
「てことは私が…なの知ってたのよね?」
「もちろん。」
「許さない!!」
球体から水でできた大きな手が出来て服を取り返そうとするが、ヨウが服を抱えたまま、避ける。
「返して欲しかったら、その中から出て来きなよ。」
「いいわよ。」
そういうとレイラが球体から裸のままで出て来た。そのままヨウの目の前まで歩いてきた。
「レ…レイラ?」
「隙あり。」
後ろから水の手に両足を掴まれた。目の前にいたはずのレイラは消えていた。
「残念ね。蜃気楼の応用魔法、幻水。どう?本物の私みたいだったでしょ。」
「きたねーぞ!」
両足を掴まれ逆さ吊りになっているヨウが言った。
「さーてヨウ君。覚悟はいい?」
球体の中で服を着たレイラが歩いてきた。
「ごめんなさい!………………あああああ!」
二人がそんなことをしているなか、レンは地面から鞘を抜き、洞窟の外に出ていた。
あの鬼。最初から俺らに気づいてやがる。初めて見た時じゃない。それより前。森に入った時から分かってやがった。俺が洞窟に張った結界も見破られてたな。なぜ気づかないふりをしてたんだろう…………
この森を奴をうまく撒いて出るのは不可能だな。俺らで奴を倒せるか……
「レン君ー。もう寝ようよ。」
「俺は見張りをするからまだいいよ。」
「いいって。ヨウが見張りをするから。一緒に寝よう。」
「い、一緒に寝る?」
「そ、そんな意味じゃないよ!」
戻ると辺りは水浸しになっていて、所々に血が…
何があったのかは知りたくない。
ヨウがボロボロの格好で入口に行った。通り過ぎ様に、
「人の皮をかぶった鬼だ。」
と言っていた。ふざけるのもほどほどにせねば…
レイラは一番奥で葉っぱを敷いて寝た。俺はその少し手前に寝ていた。寝たと言っても仮眠で、数時間後にヨウと代わるために、入口に行った。
「起きてたのか?」
「いや少し寝させてもらったさ。」
木々のすき間から月明かりが差し込む。
「見張り代わろうか?明日は鬼と殺り合うことになるぞ。」
「分かってるさ。いいよ。レイラにも言われたし。もう少し月を眺めていたいんだ。」
「お前強いな。十数体もの鬼を一撃で。」
「全然ダメさ。父親から習ったあの技は目標を塵のように消し去って初めて完成なんだ。アレでは強い奴にはたいしたダメージにならない。ましてやあの巨大な鬼にはな。」
「どうやって倒す?」
「どうにかするしかないな。」
「俺にも力があれば…。」
「十分強いよ。剣も魔力も封じられてるのに。」
「ヨウやレイラの足元にも及ばないのは事実だ。足手まといになってしまう。」
「ならないさ。いずれ力を取り戻した時に助けてくれればいい。お互いさまさ。足りないところを補い合う。それでいいんだよ。」
「すまないな。」
「なぁに。気にすんなって。それと今度レイラに殺されかけた時に助けてくれればいいさ。」
「ははははは。あんまりやりすぎんなよ。かばいきれないからな。」
「分かってる。もう寝ろよ。少し剣と対話してみようかなと思ってさ。今日は代わらなくていいよ。それに明日の朝に俺がやってなかったら、またレイラに怒られる。」
「すまないな。お休み。また明日な。」
レンは洞窟に戻って行った。レイラの寝ている少し前まで来て止まり、座った。
どうしたら強くなれる?明日鬼を倒すための力。
白刀を鞘から抜き、刀身を見つめて言った。
「教えてくれよ。雷龍…」