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入学式 Part.1

主人公&その親友(声とメールの文字だけ)の登場!!の回です。

主人公の今後の扱いが暗示される、可哀想なお話となっております。笑

生温い目で読んでいただければ幸いです。

 私立精武しりつしょうぶ学園高等学校。今年開校されたばかりの寮付き新設校だ。

 俺、袴田はかまだ 結真ゆうま、十五歳は「精武高校 第一期生」として、今日ピッカピカの門を潜る。


 一山全て学校の敷地で、山含めての面積は分からないが、学校敷地面積は東京ドーム三個分には匹敵するデカい学校に、俺はめでたく入学した。都会の寮付き学校とかは、校舎やグラウンドがある敷地とは少し離れた、住宅街のところに寮があったりするのだが、この「精武学園」は校舎とは離れているものの、敷地内に寮がある。


 冒頭でかっこよく『今日ピッカピカの門を潜る』なんて切り出したが、今俺は、これまたピッカピカなスクールバスに乗って上下左右に揺られている。

 俺が数名を乗せたバスに現在寂しく揺られていることの始まりは、昨日の夜にさかのぼる・・・・・・。



               *     *     *



 だいぶ長い電話の呼び出し音のあと、やっとくだんのヤツがでた。


 【はいはい。何?さっきから。】


 長いあいだ友を電話口で待たせておきながら、やたらと偉そう且つ失礼な対応をするこいつこそ、俺が電話を掛けた相手だ。


 「『何?』じゃねぇだろ!!遅ぇよ!!お前でんの!!!」


 【携帯が見つかんなかったの。それで何?】


 相変わらず、腹立たしいぐらい自分のペースで話しやがるコイツは、俺の親友だ。

 マイ ベスト フレンドのこのマイペース・自由人の名前は「福永ふくなが 成熙なるき」。損得感情で行動し、それ以外のことでは滅多に自分から行動しない合理主義者。ちなみにプライドが高く、扱いにくいところがある面倒臭っ・・・・・・もとい、困ったやつだ。


 「だーかーらー、『何?』じゃねぇよ!明日の待ち合わせの時間、何時にする?」


 俺は成熙(以下、俺は成熙のことを「ナル」と呼ぶから、『ナル』)と一緒に寮入りする約束をしていたので、明日に迫ったその日の集合時間を決めようと電話したのであった。


 【あぁー・・・。その事。】


 「ああ、『その事』だよ!!」


 ナルの気の抜けた返事を聞いて、俺は力が抜けると同時に怒りが込み上げてくるという奇妙な感覚を覚えた。

 俺が「寮入り初日に行く」と言ったのに対して、「じゃあ俺もその日に行くわ」と言ったのはどこのどいつだ。


 【あー・・・。まだ準備できてねぇわ。】


 「・・・・・・はあ?!」


 【五月蝿い。】


 いやいや。『五月蝿い。』じゃないよ。何て言った、こいつ?『まだ準備できてない』って?準備する時間なんて腐るほどあっただろ?!どれだけ荷物多いんだよ!思わず叫んでしまった俺の身にもなってみろ!


 「おっ・・・・・・お前、どんだけ時間かかんだよ。明日だぞ。」


 【今気づいた。】


 「・・・・・・・・・・・・・・。」


 出たよ、マイペース発言。日常茶飯事過ぎて、驚きを通り越して呆れる。

 しかし、どうしたものか・・・。

 俺は明日の朝一に行くものだと思ってたから、特急列車の中で食うパンとか買ってしまている。

 ・・・まあ、いいか。すぐ腐るものでもあるまいし、寮での夜食として回せばいい。


 「ったく。仕様がねぇな。昼には準備終わるか?」


 一番乗りしたかったが、仕方ない。せっかく同じ学校に通うのだから、別々に行くのもあれだろう。

 さすがのナルでも、今から本気を出せば明日の昼ぐらいには間に合うだろうし・・・。

 俺はそう思って、妥協案を出してみた。が・・・・・・、


 【え?無理だけど。】


 「!?」


 さすがの、長年つるんできた、俺でもビックリ。今までコイツ何してたの?今日まで確か三週間の猶予があったはずだ。

 それに、もうちょっと焦ってるような雰囲気出せよ!!せめて演技。演技でもいいから!!何その飄々とした返事。


 「じゃあ、いつ出来んだよ!!」


 【んー・・・。分からん。】


 「嘘だろ?!」


 マジで何してたの、この三週間!!俺なんか、荷物少ないってのもあるけど、用意なんて二週間前には終わってたぜ?!


 【どれくらい時間掛かるか分かんないし、お前先行ってていいよ。】


 「マジかよ?!?」



            *     *     *



 そして今現在の可哀想な俺・・・・・・。


 普段の俺なら、華のある――男子校だから『華』も何もないけど――寮生活を送るためにすぐに友達の輪を広げるのに勤めるのだが・・・。

 一緒のバスに乗っている連中がどう考えても(そしてどう見ても)、仲良くなれそうもない輩――ガリガリで眼鏡を掛けている、だけならまだしも英語のテキストを熟読している奴ら――ばかりで、俺は、心の中でしくしく泣きながら、音楽プレーヤーに慰めてもらうしかやる事がなかった。


 巨大な正門を抜けてしばらく揺られていると、前方に、正門より少し――それでもデカい――門と言うか、柵?が見えた。デカい学校はデカいというだけあって、門から建物の、そして建物から建物の距離がマジで遠い。

 俺はその圧倒的な門や敷地に感動して、誰かと共感したいと思い辺りを見渡したが、俺の他には景色に関心をもったやつなんて誰もいなかった。

 チクショウ・・・。恋人は参考書です、ってか?

 俺は興奮で浮かした体を席に沈めて、準備が今日に間に合わなかったナルを呪った。


 実は、入学式は一週間後でまだ余裕がある。が、俺は引越しの出入りで混雑する前に一番乗りでやってきたってわけだ。俺は何てったって余裕のある男だからな。・・・誰かさんと違って。

 心中ナルに対して恨みつらみ思っていると(俺って根暗?)、さっき見えた柵がすぐそこに迫っていた。寮とその外側を仕切る柵は、遠くで見たときよりデカいと言うより、長かった。高さも、俺が164センチだから・・・、140センチぐらいだろうか?壁じゃなくて柵だから簡単に乗り越えられそうだ。


 それにしても、さすが新設校なだけあって、どこもかしこもキラキラのピカピカだ。「精武」の建物は色が統一されていて、主な色は白。柱とか所々に淡い水色があしらわれていて爽やかだ。

 ・・・正直俺自身は建物のデザインとかそんなに気にしていなかったが、ナルが「綺麗なところじゃなかったら、俺行かない。」と言ったので、この新設の高校にしたのだ。


 「こちら01号。寮門の開門を要請する。」


 そうこうしているうちに寮門の前に到着し、バスの運転手が管理室か何処かに連絡をとっていた。運転手はヘッドセットで会話しているため、一方の話の内容は分からない。

 少しすると、ガラガラガラと車輪がレールを滑る音がして、20秒程で完全に門が開いた。

 バスが門を通り抜けたのを確認して、俺は窓に顔を押し付けて通り抜けた門の方へ振り返ると、門は自動で勝手に閉まっていっていた。

 「最新の学校」ってスゲェ・・・・・・。


 最近の学校の設備に感銘を受けて放心している間に、バスが緩やかに停車した。

 どうやら目的地に到着したようだ。


 「いらっしゃいませ。そして、おかえりなさい。ここが貴方方の寮である〈獅子寮〉でございます。今後は他の寮とお間違えにならぬようお気をつけ下さい。」


 〈獅子寮〉・・・。何度聞いても厳つい名前で、最高に俺好みだ。ナルは「寮名と建物の雰囲気が合ってない」と微妙な顔をしていたが、俺は別に良いと思う。

 「精武」には〈獅子寮〉の他に〈たつ寮〉と〈麒麟寮〉の二寮が存在している。俺としては、〈龍寮〉でもよかったが、〈獅子寮〉の響きも気に入っているから、どちらにしても嬉しい。


 「ありがとうございましたー。」


 俺はワクワクしながらエナメルバッグを肩に引っ掛け、テキストをカバンに片付けている坊ちゃん達をあとにして、運転手さんにお礼を言い、バスから降りた。

 山の上にあるせいか、空気が澄んでいておいしい気がする。俺は新鮮な空気を肺一杯に吸い込んで、伸びをした。うん。気持ち良い。

 全員がやっと降りて、バスが去ると、寮の中から管理人さんらしき人が出てきた。


 「ようこそ、〈獅子寮〉へ。疲れていると思うから、今からとりあえず各部屋に案内するよ。私の後について来てくださいね。」


 俺たちの近くまでくると、管理人さん(勝手に解釈)はにっこり笑って、再びもと来た道を歩いていく。

 男性で、歳は初老あたり。目元の笑い皺と、えくぼが特徴の感じのいい人だ。


 管理人さんの後をついて行きながら、改めて寮を眺める。まるでホテルの玄関のような立派な佇まいだ。凄過ぎて、だんだん尻込みしてくる。

 俺はぐっと唾を飲み込んで、気を取り直した。たかが建物に緊張すんな、俺。


 入り口は自動ドア。ガラスの扉だから、外からも中を覗くことができたが、入ってみれば、インテリアにこだわりのない俺でも見とれるぐらいすごいものだった。

 入ってすぐのロビーは某児童小説の談話室のようで、赤を基調とした温かみのある空間だ。壁の色は・・・・・・何て言ったっけ?・・・クリーム色?で、床は深みのある赤の絨毯で覆われている。天井は吹き抜けで正面の奥に、幅が広くて中間部分に踊り場――マジで踊れるくらいの広さ――がある二階へと続く階段がドーンと存在していた。


 「靴は脱がなくていいですよ。・・・それでは自己紹介をしますね。私は〈獅子寮〉の管理人、住田すみだです。今から、この寮の規則を説明しますね。」


 俺たち全員がロビーに入ると、管理人の住田さんがこっちに向き直って笑顔で言った。


 「まず、週末以外の外出は基本的には許可されていません。緊急時の場合のみ、学校側の許可を得られてから始めて外出できるシステムです。次に門限についてですが・・・。学校の敷地内でも、繁華街・・・つまり町の方への外出でも、門限は10時です。朝食の時間はAM4時からの配給が可能です。夕食はPM6時からPM8時の間までしか配給されません。食べ逃さないように注意してくださいね。ちなみに、バスの運行はAM5時からになります。・・・ここまでで何か質問はありますか?」


 俺は高々と手を挙げた。俺にとってはもの凄く重要なことに思い当たった。

 のだが、そんな俺を見て、ガリ勉を具現化したような奴らが白い目を向けてきた。

 何だ。何か文句でもあんのか?


 「もし飯食いっぱぐれたらどうすればいいんですか?」


 「ははははははははっ!!」


 ?! 何かすげぇ笑われてんだけど、俺何か変なこと言ったか?

 住田さんは俺の方に温かい笑顔を向けて、質問に答えてくれた。


 「いやぁ、笑ってしまってすまない。そうだよなぁ、学生さんにとって大事な事の一つだもんなぁ。えーと、君は確か・・・、袴田結真くんだね?もし、食べ逃れてしまったら、私が管理している売店でちょっとしたものなら手に入るから、そこで済ませることもできるよ。あとは、週末に町で買い込んでおくのも良いかもしれないね。」


 「ありがとうございます。・・・つーか、何で俺の名前・・・・・・。」


 「ああ!写真付きの名簿があってね。生徒の顔と名前は暗記しているからだよ。」


 すごいな・・・。この学校は、管理人さんまでもがハイ・スペックなのか・・・。

 生徒の顔と名前暗記って・・・。そりゃあ、まだ一年生しかいないが、それにしてもすごい数だぞ・・・。


 「次に各部屋についての規則ですが。もちろん君たちは未成年ですから、お酒、タバコ、アダルトビデオ等は禁止です。」


 俺は顔が赤くなったのが分かった。住田さん・・・。ア、アダルトビデオって・・・もう少しやんわり遠まわしに言ってくれ。俺はそういった類に免疫がないんだ。

 そんな照れている俺を置いて、住田さんは話を続けた。


 「バスルームの使用時間については、こちらから特に指定はありません。隣の部屋とよく相談をして入浴時間を決めてください。あ、でも大浴場の方はPM6時からPM9時までになります。就寝時間も特に言う事はありません。ただ、授業と周りに支障をきたさないように、自己管理を徹底してください。」


 学校の資料にも、今住田さんが説明してくれた事が書いてあったけど、本当に規則と言っても当り前のことを言われているだけで、むしろ家にいるより緩いんじゃないか?

 さすが、ナルがこの学校を推すだけある。


 「以上で、私が特に注意する事項は話し終わりましたが、他に何か質問はありますか?」


 住田さんは俺たちを見渡して、質問がないことが分かると、うんと頷いた。


 「それじゃあ、名前を呼ばれたら私のところへ来てください。部屋の鍵を渡します。」


 今まで気がつかなかったが、住田さんの手には鍵束と何かのファイルが握られていた。


 「有山祥大くん・・・、うん、君だね。はい、101号室だよ。君と同室なのは・・・、ああ、上田拓雪くん、いたね。申し訳ないが、まだここにいて下さいね。最後に一言だけありますから。」


 住田さんが呼んだ、『有山』と『上田』は――さっきからずっと言っているが・・・――陰鬱なガリ勉野郎だ。(全国の「有山」様、「上田」様、申し訳ございません)

 つーか、俺と一緒のバスだったヤツはガリ勉以外いないのだが・・・。


 「次に・・・、君は大澤幸平くん・・・だね?はい、君は202号室だよ。同室の子はまだみたいだね。部屋に行くのは待ってくださいよ。」


 住田さんが何度も部屋に行くのを待つようにいうのは分かる気がする。こいつら、さっさと勉強でも始めたいのか、うずうずしてやがる。

 ちなみに俺は早く部屋が見てみたくてうずうずしている。


 「次は、はい、木村浩太くん。君は303号室だよ。同室の・・・、美濃部露木くん、君と一緒にね。」


 『木村』は眼鏡をかけていない。(それがどうした、という感じだが一応言っておく。)『美濃部』は・・・・・・・。ガリ勉とは違う禍々しさ(笑)を放っていた。


 「斉藤章太郎くん、こっちに来てくれるかな。それに、松本雄大くんも。君たちは同室で、404号室だよ。」


 『斉藤』はガリ勉。『松本』はインテリか?だんだん俺もラリってきたな・・・。そろそろヤベぇかも・・・。


 「三宅康熙くんは505号室だよ。はい、これ鍵ね。無くさないように。」


 住田さんが初めて失くすなと注意した『三宅』は、確かにガリ勉というよりは、少し鈍臭い感じのするやつだった。仲良くなれるかどうかは、今のところ謎だ。


 「はい、お待たせしました。最後になりましたが、袴田結真くん。同室の子はまだのようだが、部屋でゆっくり過ごすといい。ああ!部屋は606号室だ。」


 住田さんは俺ににっこり笑いかけると鍵を渡してくれた。

 よっしゃあ!!寮生活の始まりだぜ!!!

 興奮して走り出そうとしたところを、住田さんに首根っこ掴まれて阻止された。


 「待てってさっき言っただろう?さて、部屋の位置は百桁の数字のところが『階』の数。一桁の数字はその階での『部屋番号』だ。部屋には、さっき私が説明したものより更に詳しく書かれている『獅子諸法度』が置いてあるから、もしよければ読んでみて下さいね。」


 もう一度俺たちを見渡した住田さんは、微笑んで言った。


 「改めまして、ようこそ〈獅子寮〉へ。さあさあ、部屋に行ってみてください。きっと、驚きますよ。」


 住田さんのその言葉を背に、俺は一直線に階段を上っていった。



            *     *     *



 階段は緩やかではあるものの、6階を全速力で駆け上がるのは、さすがにきつかった。

 6階に到着したときには、俺ははあはあと息を切らし、しっとりと汗を掻いていた。

 運動不足だろうか・・・。部活を引退してから、筋肉量を落とさないためにも小まめに運動はしていたが、足りなかったか?


 そういえば、俺と同室のやつはまだ来てなかったけど、一体どんなやつなんだろう・・・。さっきのガリ勉みたいなヤツだったら嫌だな。「君、こっちは勉強をしているんだ。静かにしてくれたまえ。」なんて言われた日には、うっかりボコっちまいそうだ。


 そんなことを思いながら部屋を探していると、右手の廊下の置くに俺の部屋があった。

 扉は赤みを帯びた木の扉で、俺のでこより少し上の辺りに、金色で『606』と掘られてある。

 俺はうきうきしながら、鍵を回し、一気に扉を引いて全開にした。


 「すっ・・・・・・げえ・・・・・・・・・。」


 写真で見たのより広く思える。入ってすぐ左には背の高い靴箱。壁の両端にはデスク付きロフトベッドが設置されていて、左のベッドの方は部屋の端に、右のベッドは壁の真ん中辺りに置かれている。

 俺はとりあえず靴を脱いで、エナメルバッグの中から新しい制服を出した。

 「精武」は――似合わない俺にとっては最悪なことに――ブレザーだ。上下とも紺色のブレザー。ちなみにネクタイも紺。色は好きだが、何故学ランじゃない?!

 俺は持ってきたハンガーに新しい制服を皺ならないうちに掛けて、どこに吊るそうかとキョロキョロすると部屋の玄関のすぐ右にドアがあった。近づいて開けてみると、バスルームだった。これも思ってたより全然広い。

 感動もそこそこに、俺はバスルームの扉を閉めた。

 さっきから思ってたが、新しい建物独特のにおいがする。俺はどっちかというと好きな方だが、苦手なヤツには酷な状況だろう。


 俺は制服片手に部屋を探索していると、左側のベッドの向かい、右の壁に折りたたみ戸?というのかそんな扉があった。

 左に力を込めると難なく開いたそこは・・・・・・。ウォークインクローゼットだった。


 「・・・・・・・・・・・・。俺、そんなに服ねぇんだけど。何これ、買えってこと?」


 広い。広すぎる。バスルームの2分の1ぐらいの大きさはあるぞ。

 このデカさは、服を少ししか持たない俺へのあてつけか?

 思わず独り言を呟いてしまうぐらい衝撃を受けた。それこそバスルームを見たときの倍は驚いている。


 俺はクローゼットに気圧されてなんとなく凹んだまま、扉をしめて部屋の真ん中にゴローンと寝転がった。腕を掲げて、そこにつけている腕時計を見ると15時20分。昼を食べたのが1時きっかりだったから、そろそろ腹も空いてきた。

 「精武」は春休みや夏休みのような長期休暇でも、寮で過ごせるようになっている。だから、ちょうど春休みに入るこの期間も例外なく食事やら風呂やらに不自由はしないのだ。

 とは言っても、昼食の時間はとっくに過ぎ、夕食の時間までまだ長い。住田さんのところまで行って何か買ってもいいが、寮入り初日から所持金を食費に費やすのも躊躇われる。

 悩んだ末、俺はぐーぐー鳴る腹を無視して、住田さんが言っていた『獅子諸法度』とやらを探すことにした。


 右側のベッドを俺の寝床にすることに決め、そこのデスクを見ると、――なんでさっき気がつかなかったのか本当に謎だが――新しい教科書が積み上げられていて、その教科書タワーのすぐ隣に大学ノートぐらいの厚さの『獅子諸法度』が置かれていた。


 手に持ってパラパラ捲って見ると、だいたいが住田さんが言っていたことを更に詳しくしたような内容だった。

 ある程度読んだ俺はまた暇になり、マイ・テリトリーとなったベッドによじ登った。昔から高いところに登るのが好きで、俺はいい気分でベッドに仰向けに寝転がった。

 しばらく天井を眺めていると急に睡魔が襲ってきて、俺はうつらうつらし始めた。今寝たら、夕食を食いっぱぐれる可能性が大きい。そう思いつつも、俺は睡魔に見事に敗北し、夢の世界へとダイブしていった。



             *     *     *



 それから俺は問題なく夕食時間の前に起きれて、ぽつりぽつりと人はいるものの静まりかえった食堂で涙で少ししょっぱくなった夕飯を食べ、広々した誰もいない大浴場の方で目に汗が浮かぶまで長風呂をしたあと自分の部屋に帰ってきた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 「早く準備して来いよ!!!遅ぇよ、お前!!!」


 【電話掛けてきたと思えば・・・。何なの、いきなり。】


 俺はあまりのストレスで無意識に、ナルに半ば嫌がらせの電話をかけていた。

 前回と同じく大分長い呼び出し音のあと、電話を取ったガチャという音と共に叫ぶと、心底機嫌の悪い、鬱陶しそうな声が俺を出迎えた。

 俺はかくかくしかじか、現在電話するに至るまでの経緯をナルに、マシンガンの如くしゃべった。


 「・・・と言うことで、お前早く来い。」


 【何が『と言うことで』かさっぱり理解できないんだけど、さすがに明日の朝一とかは無理だからね。】


 「何でだよ?!」


 【俺が眠いからに決まってるでしょ。そんなことも分からないの?馬鹿なの?お前。】


 そりゃいきなり電話掛けてきたかと思えば、どうでもいい愚痴をさんざん聞かされたことに苛立っているのは分かるが、酷い言われ様だ。


 「いやもう馬鹿でいいから早く来て。」


 【・・・・・・ちっ。・・・・・・朝一は無理。明日には到着できるように努力はしてやる。その代わり、何か奢れ。】


 「わかった。奢るから、努力して明日来て。」


 何か舌打ちが聞こえたような気もするが、ナルの気が変わらないうちに、俺は妥協案を飲み込んだ。

 電話口の向こうでは、【ちっ。何で俺が急がなきゃいけねぇんだよ。】とか【このペースだと確実に徹夜コースじゃねぇか。あのボケが。】とか悪態をつく声がしている。

 ・・・・・・何を奢らされるか、今からすごく不安だ。絶対に財布に多少なりとも打撃がくることは覚悟しなければならないだろう。


 「じゃあ、明日待ってるな。」


 【・・・・・・・・・。】


 ガチャ。ツー、ツー。


 無言で切られた!?

 俺は選択肢を大幅にミスったかもしれない。このままいくと明日の夜には確実にDEAD ENDだ。友、それも親友に頼みごとをしただけで死亡フラグ立つとか、俺ってマジ不憫すぎる。


 「もう、寝よ。」


 俺は今後の自分未来像を、モザイクが掛けられた時点で放棄した。どの未来像もグロテスク&スプラッターだった。

 現実逃避――いや、この場合は未来逃避なのか?――をして、ベッドに潜りこんだ。

 よほど疲労(主に精神面で)していたのか、昼間眠ったのにも関わらず、すぐに眠気が襲ってきた。俺は抵抗することなく、その気に身を任せて眠った。まだ、夜の9時だったが・・・。



             *     *     *



 翌日の昼頃、携帯がピロリーンと鳴ったので見てみると、


 [  学園行きのバスなう。 ]


 とだけ打ち込まれたメールが送られてきていた。

 俺は興奮してガッツポーズをしてみたものの、『なう。』。『。』で文が終わっていることに気づいて、軽く恐怖し、さっきまでナルの到着を心待ちにしていたのに、何だか今は時間を出来るものなら止めたい衝動に駆られてた。


 「・・・どうしよう。風邪でもないのに、体がガタガタ震えてきた。」


 ピロリーン。


 [  山中なう。 ]


 怖い!!ナル、お前は現代っ子メリーさんか!!!

 どうしよう・・・。マジで怖い。絶対奢らされるだけじゃ済まない気がしてきた。

 ラリアットぐらいは覚悟すべきだろうか?いや・・・、そもそも寮入り初日に準備が間に合わなかったナルが悪いのであって、俺は決して・・・。いやいや、夜にいきなり電話した上に、長々と愚痴を聞かせ、挙句の果てに『早く来い。』だもんな・・・。仕方ない。ラリアットは避けられないか。


 ピロリーン。


 [  校門前なう。  ]


・・・。やっぱり、ラリアットは嫌だな・・・。本当はエントランスで出迎えたいけど、目ぇ合った瞬間殺られそうだもんな・・・。部屋・・・、鍵掛けとこうかな・・・。それでも、突き破ってきそうだから尚怖い。


 俺はいつの間にか腕を組んで、部屋の中を行ったり来たりしながら、ナルへの対処を考えていた。

 このままでは、自分の身が危ない。


 ピロリーン。


 [  寮門前なう。  ]


 来た!!遂に来てしまった。どうしよう!俺の身が・・・!俺の身が危ない!!!隠れるべき?いやでも、そうすると、「お前・・・。人を急かして、呼び寄せといて何?」とか言って、更に恐ろしいことになる!


 「よし・・・。エントランスでラリアットを受けよう。」


 俺は覚悟を決めたぞ。ナル。お前の粛清を甘んじて受けると!!入学式に湿布の匂いを纏わせて出席することになるとか、そんなことはもう気にしない!!

 そうと決まればさっさと降りなければ。何せ俺の部屋は6階で、この寮の最上階なのだから。


いかがでしたでしょうか?

Part.2はナルの真の意味での登場と、もうあと2人メインとなる人物が登場いたします。

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