シャー ペン
シャー芯がなくなった。
シャーペンを使うとシャー芯がきれていた。
(仕方ない。別のシャーペンを使おう。)
やる気が起きない火曜日。
一限から数学のダルい朝の事だった。
放課後、シャー芯を買いにいった。
駅前のコンビニ。
学生の出入りが激しい中、僕は中に入る。
三人の女子グループ。
音楽を聴きながらの男子。
雑誌をたち読む女性。
お菓子を選ぶ子供。
僕はそれらを瞳に写しながら、文房具の棚へと足を運ぶ。
棚には一人の少女がしゃがんでいた。
不審に思いながらシャー芯を探す。
「…やっぱりこっち…や、こっちかな…。」
何やらぶつぶつ呟いてるが、僕は干渉しない。
「はあ…。やっぱり文房具屋に明日行こうかな…。」
目の前のペン達を前にため息をつく少女。
このコンビニは他よりは大分文房具が充実してるはずだ。
それなのに文句を言う少女。
僕は少女の言葉を不思議に思った。
一方目的のシャー芯の方はというと、珍しく売り切れていた。
学生も多いから仕方ないのだろう。
諦めてその場を去ろうとすると、少女も立ち上がった。
「いいわ。両方買っちゃえ。」
そう言ってすぐそばのレジに向かう。
手には二本のペンを持って。
(どっちも同じペンなのに…。)
特にこだわらない主義の僕は、少女の言動を異様に思った。
電車までの時間を確認して、雑誌コーナーへ向かう。
お気に入りのマンガ雑誌を立ち読みすると、先ほどの少女もやって来た。
僕の隣に立って、同じ雑誌を読む。
そして、僕とは違い目で雑誌に目を通した。
とりあえずの感覚で読む僕とは違い、少女は真剣な目で読み込んでゆく。
いや、正解には『絵を見る』と表現した方が良い。
一作品読み終わると、少女は隣にいる僕に気づいた。
僕はとっさに視線をそむけ、雑誌を読むフリをする。
だが、少女はわかっていたのか唇に笑みを浮かべながら話しかける。
「ねえ、君…マンガ好き?」
「あ…はい。」
これがきっかけ。
この時は僕はまだ、これから起きる出来事をまだ知らなかった。
ただわかるのは、僕は少女に少しながら惹かれていた事だった。
それから数十分。
何故か意気投合した僕達は、互いに好きなマンガについて語る。
だが、惜しくも時間が迫る。
帰り際、僕は少女の名前を尋ねた。
「私?私は『沖 綾音』。君は?」
「僕は『笠原 智哉』。」
「そっか。じゃね、智哉君。」
少女は駅とは反対方向に進んでいった。
そして僕も少女の向かった先とは反対の方向に足を向ける。
(…明日もコンビニに寄ってみよう。)
何気ない火曜日の夕方であった。