Kill the devil━透明天使の使命
世界に「天使」は溢れている。
だが、それはしょせん人工。
人工が生まれるからには天然がいたのだ。
生まれたときから人間離れしている力。
人はそれをこう呼んだ━超能力、と。
そんなある時、黒髪夫婦から髪の色が一切付いていない、透明髪の子が生まれた。
その子は自然の物を操る超能力を持っていた。
科学者たちはその子の遺伝子を調べ、結果胎児のときだったらその子の能力を少しだけ使えるようになることを発見した。
生まれてきたその子たちは、本物と同じように髪の色が少し変わっていた。
髪の色で使える能力がわかれているらしい、本物に近い色であればある程力が強いらしい、ということもその時の科学者が発見した。
本物の少年は、重なって白くなった髪を揺らしながら国の、セカイの頂点に立った。
これが天使が生まれたとされる話。
そのあと本物君がどうなったのかは誰も知らないらしい。
「下らない…」
俺と妹は、生まれたときから髪に色がなかった。
「人間」の母は、俺たちに自分の気持ちを理解してほしいという自己中な考えから、俺たちを「天使」にしようとは思わなかったらしい。
「天使」になるための遺伝子改造をされていないのに「天使」になった俺たちは、周りからもてはやされるのが日常だった。
俺と妹は模試でランク10オーバーという成績を出したりして、自分たちが皆とちがう「天使」だということに誇りを持っていた。
俺たちが中学に上がったとき、急に国から呼び出された。
国のお偉いさんからの話は俺たちに「悪魔」を討ってほしい、というものだった。
「悪魔」とはなんなのか、何故自分たちなのか、危険じゃないのか、そんなことを俺と妹は口々に言った。
『君たちの能力は、他の者よりけた外れに大きい。』
『君たちは強いから大丈夫だ。』
などとその人たちは言った。
俺と妹はそれを承諾しなかった。
すると
『君たちはお母さんが大事じゃないのかな?』
『お母さんは誰のおかげで生きているのかな?』
とお偉いさん方は嫌な風に笑って言った。
せこい、汚いと思ったが俺たちは承諾するしかなかった。
俺たちの母親は「天使」を産んでしまったことから、検査を何回も受けさせられたり、細胞を取られたり、周りの人から「人間」の親から産まれるなんて…と陰口を叩かれたりして、精神的にやられていた。
父親は俺たちが産まれる前に失踪していて、俺たちの能力で貰える国からの補助金で生活していた。
国からの補助金はバカ高い。
ランク10オーバーが二人だから、1か月分の補助金で10年は生きていけるだろう額だ。
だが、実質その半分は母親の治療代に充てている。
だから、国からの援助がなくなると母親は間違いなく死んでしまうだろう。
━それから、俺たちは「悪魔」とよばれる黒いモノを毎日倒して倒してた倒しまくった。
なんど命が危ないと思ったかはわからない。
だけど、俺たちのせいで狂った母さんを死なすわけにはいかなかった。
母さんは俺たちを愛してはいないかもしれない、だけど俺たちは母さんを愛しているから…
中学の3年間は正直苦痛だった。
「アイツらって影でやばい仕事してるらしいよ。」
「いくら力が強くても、なんかそういうの怖い…」
クラスのやつらは表面上は俺たちと仲良くしていたが、裏ではいろんなことを言っていた。
昼は学校で苦痛に耐えて、夜は「悪魔」と呼ばれる異様なものと戦って━
そういう生活を送っているうちに妹は限界に達していた。
「ねぇ、星野。あたし、もう生きていたくない!!」
返り血をうけ、身体を赤く染めながら妹は淡々と言った。
「なに言ってんだよ!」
月野は口だけで笑ってからこう言った。
「私は天使になんて生まれたくなかった…」
俺は母さんを救う事ばかり考えて、妹の事を考えていなかったんだ…
俺の精神も限界に達しているのに、妹がもっと限界に近いんだと気付いてやれなかった。
「私は人間に生まれたかった…そしたらママも狂わなかった!人間に生まれていたら、人間の友達ができたかもしれない。きっとその辺にいる天使よりまともな精神を持っているわ。どうして…!どうして私は天使なの!!!」
俺は月野を抱きしめた。
「月野…ごめんな。ごめん。そうだ、俺たちは人間に生まれるはずだったんだ。人間に…人間になろう。」
中学を卒業した日、俺たちは髪を染めた。
魔術で染めているから、魔術を使うときは透明に戻ってしまう。
だけど、それで十分だ。
「人間」は魔術を使えないんだから。
「ねぇ、星野。私は誰とも戦いたくない。私は昼は人間になる。」
「うん、俺も。」
「だけど、悪魔はちゃんと討つわ。ママのために。」
「あぁ。」
「でも、それは天使の神崎月野の仕事。人間の神崎月野は…私は…」
「あぁ。」
「私は魔術を使わない。」
髪を染めるのは犯罪だ━
そんなことは知っている。
だが、俺たちは国の為に働いている。
だから、そのことについては国に黙認してもらっている。
そうでもしないと妹は壊れてしまう。
妹が壊れたら、俺には何が残る…?
俺と妹は黒い髪で入学式へ行った。
天使たちは指をさして笑っている。
自分たちより価値のないものに何を言われても何とも思わない。
そんなとき、教室の扉が開いた━
「人間…?」
扉に立っていた黒髪黒瞳の少年は俺たちを見つけ呆然と立ち尽くしていた。
月野が嬉しそうな顔をしたのがわかった。
俺は席を立って彼に近づいた。
「はじめまして、俺は神崎星野。よろしく。」
「俺は五十嵐誓。仲間がいるとは思わなかった、超嬉しい。」
彼はきっと、いい人だろう。
そういうのがちょっと会話しただけでわかってしまう。
「仲間」それはきっと「人間」ということなんだろう…
彼が、俺たちが「天使」だと知ったら「仲間」とは言ってくれなくなるのだろうか…
彼と仲良くなるにつれて、彼が「天使」になりたかったということが分かった。
月野はその言葉を聞くたびに「人間」になりたかった自分と比べていただろう。
嫌に思ったのか、自分と同じに感じたのかはよくわからないが、月野が誓を大切に思ってることはわかった。
だから常に緊張していた━自分が天使だとばれないように…
「お前は一体何なんだ…?」
そう聞かれた月野はきっと誓なら受け入れてくれると思う反面、拒絶されることが怖かったのだろう。
そのあと、拒絶された月野は何を思ったのか…
壊れていないか…
俺は、月野を追いかけなくては━