Cover in the past━「ちーくん」と「じゅり」
━5年前
「なあ、じゅり。」
「なあにちーくん。」
「もうすぐやるってセンセーがゆってた“能力判定模試”ってなんだ?」
「高校生になったら皆がやらなくちゃいけないテストの練習って言ってたじゃない。あたしたちはもう高学年なんだから、そういうテストを受けなきゃいけないの!これからは毎年あるみたいよ。」
「そうなんだ…。俺、魔術使えないからやりたくないな。」
「大丈夫よ!ペアでやるって言ってたから、あたしと組めばいいのよ。」
「いいの?嬉しい。」
「あたしもちーくんと組めて嬉しいよ。」
“ちーくんとじゅり”は幼馴染であり、親友だった。
小学生の男女が仲いいと周りがひやかすものだが、二人は誰が見ても恋愛ではなく友情の関係だった。
また、「じゅり」はかなり高い能力をもった天使であり、その友人の「ちーくん」は人間であるのにクラスになじんでいた。
人間の「ちーくん」に反感を持っていても「じゅり」が怖くて「ちーくん」と仲良くしていた、なんてのは最初だけで、みんな「ちーくん」が大好きになった。
「ちーくん」はみんなから好かれる性格だったからだ。
一方で思ったことをすぐに口に出してしまい、性格を誤解されやすい「じゅり」は友人関係で「ちーくん」に何度も助けられていた。
“じゅりとちーくん”はお互いに無いものを持っている存在で、それをお互いに認めている親友だった。
『今回の試験の内容は、この山全体にある“キーワードが書かれた紙”を50個見つけて、答えを見つけたらこの場所に戻ってきてください。制限時間は12時間です。
なお、山にはトラップが仕掛けられているので魔術を使って回避して下さい。
危険を感じたら各ペアに配っているコールボタンを押してください。緑天使の先生が一瞬で駆けつけます。
色々なところに魔力探査の機械が設置してあり、それで魔力を検査します。
それでは、安全に気をつけながら頑張ってください。
では、試験開始!』
「ちーくん、つかまって。」
「りょーかい。」
二人はじゅりの魔術を使って山を移動し、キーワードを集めるという作戦をたてていた。
「我、欲するは宙を歩く力…」
じゅりの詠唱がはじまるとすぐに二人の体は宙に浮いた。
「風よ、舞え!…ふぅ、これで歩けるわ。」
「じゅりでも詠唱はいるんだね。」
「あたりまえじゃない。詠唱をしなくても魔術を使える天使なんてランク6は超えてるわよ。」
「そうなんだ、でもじゅりならきっと、もうすぐできるようになるよ!」
「ありがと。」
二人は次々にキーワードを見つけていった。
━50個目、最後のキーワードを見つけたのも二人が一番だった。
「ふぅ、これで最後か。」
「結局答えって何だったの?」
「そうだな…えっと、『山のどこかに“神が創った”と言われている泉がある。その水を各ペアに支給したペットボトルに一杯に汲んで来い。』ってとこかな。」
「さすが学力は優等生ね。」
「まぁね。」
「じゃあ、泉はあたしが魔術で探すわ。」
「よろしく。」
━
「ラッキーね。ここから近いみたい。急ぎましょう。」
「あぁ。」
二人は10秒もしないうちに泉についた。
「綺麗ね…」
「ホントに神様が創ったみたいだ…」
幻想的、神秘的、そんな言葉じゃ表わせないくらい泉は美しかった。
「早く水をくんじゃいましょう。」
「そうだな、えっとペットボトルは確か俺が…。」
「キャーーーーーーーーーーー!」
突如、悲鳴が響き渡った。
それは聞き間違えるわけがない悲鳴、「じゅり」の悲鳴だった。
「じゅり、どうした!!!」
ふりかえると、そこには…
「なななななな、なん、なんなんだよそれ!!!」
全身から血が引いて行くのがわかった。
じゅりは首を絞められていた…
黒い何かによって…
コールをしなくちゃ、と思ったがボタンを持っているのはじゅりだった。
「た…たす…けて…ちぃくん…」
「わかってる!今、助ける!。」
「じゅりを離せぇぇぇぇぇ!!!」
「ちーくん」は「じゅり」をたすけようと黒いものを離そうとした。
「オマエハニンゲンカ?」
「は?」
「オマエハニンゲンナノカ?」
「ああ!そうだよ「人間」だよ!」
「…ライダ」
「は?」
「ニンゲンナンカダイキライダ!」
そういうと、黒いものは「じゅり」を離し「ちーくん」の首を締め始めた。
ゲホッゲホッ
解放された「じゅり」はせき込んだ。
「オマエラハダマシテイル」
「じゅ…り…コー…ル」
「わかった!」
じゅりはカバンからボタンをとりだし、押した。
…だが、通常鳴るはずのコール音が鳴らない。
「な、なんで!なんで鳴らないの!」
「じゅ…り…」
「ちーくん」の意識がもうろうとし始めていた。
「いや!いや!ちーくん!!ちーくん!!!!!!!!!」
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
周囲の木はすべて切り倒され、泉の水はふきとばされた。
「じゅり」がだした風は今存在している緑天使の誰よりも強い、それほど強力な魔術だった。
黒いものは消えかかり、「ちーくん」は解放され、「じゅり」は何が起こったのか理解できないでいた。
「テンシ、スバラシイノウリョク。」
「ダガ、ソレハニセモノ。オマエタチハダマサレテイル。ワタシハ━。」
欠片はそれだけ言い残し消えた。
最後に残ったのは首を絞められたときにできた「じゅりの痣」とじゅりを守れなかった「ちーくん」の後悔だった。
その出来事から「じゅり」の能力はかなり評価されて国が定める、天使を統べる四人━聖天使にえらばれ、周囲から「樹理華様」と呼ばれるようになった。
「ちーくん」は、「樹理華様の足手まといになった無能な人間」として見られ、周囲から浮いて行った。
樹理華がどれだけ話しかけようとしても「人間なんかと話してはいけません。」と言われ、「無能な人間」は「樹理華様」に話しかけることは無かった。
中学は別で、「樹理華」と「五十嵐くん」が再会するのはこの事件から5年後。
あたしは体育の授業に来ない隣のクラスの生徒を呼びに教室まで行った。
そこで扉の隙間から教室を覗き込んでいる「ちーくん」を見つけた。
「話してはいけません。」と言うものは誰もいない。
だが、5年も話していない。
あたしのことなんて忘れているかもしれない。
覚えていても無視されるかもしれない。
だけど話したい。
勇気をだして…!
「五十嵐君、何をしているの?」
「樹理華…?」