Another branch of the past━東から昇って…
幼稚園から大学まである学園、桜泉学園。
俺は中等部からこの学園に編入してきた。
人間が差別されないすばらしい学園と聞いて楽しみにしていた。
実際、そこは天国のような場所だった。
小学校のころは「人間」と言われ、友人が一人もいなかったから「人間」と差別されないそこは天国のようだった。
ただ、地獄をみない限り天国のよさはわからないのだろう。
同じクラスの人間の女の子。
彼女はセカイに絶望している目をしていた。
聞いた話によると彼女は幼稚園からこの学園にいるという。
彼女は知らないんだ、ここがどれだけ俺達にとっていい場所なのか。
彼女の家は人間三代名家のうち、もっとも権力のある家だそうだ。
彼女は家に縛られているのだろうか?
俺は彼女が気になっていた。
勉強も運動も完璧にこなす彼女が時折みせる表情。
彼女は何を考えているのだろう…
気になる。
気になるなら話しかければいい。
その考えにいたったのは高校にあがったすぐの時だった。
「ねえ五十嵐さん。」
話しかけた!初めて話したぞ!
「なあに小田原くん?」
俺の名前知ってたんだ。
「あのさ…」
「友達にならない?」
とっさにでてきたのがその言葉だった。
どこの小学生だよ!
言ったあとに激しく後悔した。
「あはは、なにそれ。」
彼女は確かにそういった。
「え?」
「お友達になりませんかなんて言う人いたんだ。」
「そんなかしこまった言い方はしてないだろ。」
「同じことじゃない。」
彼女は思ったより話しかけやすい人間のようだ。
「で、友達になってくれるの?」
彼女は口角をあげ、目を細めて
「いいよ」
といった。
俺はその笑顔で彼女に惚れてしまった。
そこから俺の片思いは始まった。
彼女は世間知らずな上に他人と話すのが苦手、さらに不器用と人との付き合い方がまったくわからない人だった。
そこに家からの教えが重なって、寄り付きにくい感じの人になっていた。
俺は彼女にいろんなことをおしえた。
友人同士は下の名前で呼び合う、といったら俺のことを東と呼ぶようになった。
それから、俺達の周りには人が増え楽しい毎日を過ごしていた。
そんなある日、絆の両親が事故にあったと聞いた。
数日は少し暗かったが、今では元通りだ。
そして18歳となったある日、友人の宙と夢野が結婚することになった。
あとから聞いた話だが、絆と宙は婚約者だったらしいが、絆の計らいで二人は結婚ができたそうだ。
二人が結婚した直後、絆が中学生のころよく見せた表情をしているのがわかった。
彼女の視線の先は新婚の二人だった。
俺は5年の時を経てその表情の正体がわかった。
「憧れ」
絆は一人でいたとき、周りの子に憧れていたんだ。
友人に。
そして、今は何に憧れているんだろう…
「ほかに家族は?」
「いないわ。祖父母も全員他界しているし、両親とも一人っ子だったから。」
「じゃあ、一人なのか?」
「そうね、家ではね。だけど学校にきたらみんないるし。」
「さみしくないのか?」
彼女は涙を流した。
ああ、絆は「家族」に憧れたんだろう。
絆に「友人」を与えたのは俺だ。
次も絆を喜ばせたい。
涙を流させたくない。
「あのさ、結婚しない?」
「俺がさ家族になるよ。そしたら家でもさみしくないだろ?」
光り輝く太陽が東から昇り、西に沈みかけていた。
俺は太陽にはならない。
俺は沈まない。
知ってる?月は見えていないと思っても、絶対にあるんだ。
新月だって、見えないだけでそこにある。
俺は君の月になる。
君から見えなくても、俺は君を見てる。
俺は月になる、そう誓うよ。