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無魔力の第六王女は敵国に攫われる  作者: 白雲八鈴


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第9話 聖女セレスティアと呼ばれる第六王女

 ガタゴトと揺れる馬車の中で、ふと目が覚めました。


 夜に出たからと言って、王都に戻るにはまた十日の馬車移動が発生するのです。


 向かい側の席に丸くなって寝ているライラを見ました。

 本当に彼女には助けられています。


 はっきり言って私は魔道具類が全く以て使えないのです。


 キッチンの蛇口から水を出すのも魔道具頼りなのです。のどが渇いたと魔道具を起動させれば、コップが割れんばかりの勢いの水が出るとか、料理をしようと火をつければ、火柱が立ち上るのです。

 ライラから魔道具使用禁止を言われているので、使えないのです。


 恐らく大気の魔素と個人が持つ魔力には大きな差があるようなのでした。


 本当にライラがいてくれて助かっていました。


 何かときつい本音を言ってしまうのも、嘘をつかれるよりいいと思っています。


 それに、私のこんなわがままに付き合ってくれるのは、ライラぐらいでしょうから。


 しかし、そんな自由もあと十日ですか。


 宿泊する町ではゆっくり過ごしたいですわね。その前に、私の商会と連絡を取らないと。


 そう思い朝日が昇ってきた外を見ようと、窓を覆っているカーテンを開けました。


「は?」


 私は思わず、馬車の窓ガラスに張り付いてしまいました。

 そして、ライラが丸まって寝ている席の壁を叩きます。


「ちょっと! どうなっていますの!」

『お目覚めでしたか、セレスティア様』


 御者側からリヒトの声が聞こえてきます。

 昨日、出発するときにリヒトが馬車の御者を申し出てくれたので、お願いしていたのです。


 これは知らないうちに、御者がリヒトから別人に変わったということはなさそうです。

 ならば、これはなにでしょうか!


「この街並みは王国ではありえません! どこですか!」

「姫様? 如何なさいましたか?」


 あ、ライラを起こしてしまったようです。


「ライラ、してやられたわ」


 私はそう言ってライラに見えるようにカーテンを開けました。

 その光景を目にしたライラは、御者側の壁をドンと拳で叩きます。


「この蛆虫の分際で! 姫様を帝都に連れてくるなど、八つ裂きの刑です!」


 はい、私たちはテターニア王国内を移動していると思っていたのですが、朝日に照らされた真っ白な城が高台の上にあるのが見えるではないですか!


 実際には見たことはありませんが、写し絵という魔法があり、写真のように挿絵がある書物があるのです。


 そして私の目には、その挿絵と同じラスデニア帝国の帝都にあるという城が見えるではないですか。


 私は、王族らしい教育は受けてきませんでした。なので、陣中見舞いに行こうと決めたときに、帝国の情報は得ないと思い情報を集めたのです。

 その中で、片っ端から読んだ書物の挿絵が嘘でなかったと、こういう感じで証明されてしまったのでした。


 あとライラ、八つ裂きは止めましょうね。


『嘘は言っていませんよ。お城まで護衛いたしますと申しました』


 それわざとですわね。お城といえば、テターニア王国の王城だと思うではないですか!

 誰がラスデニア帝国の皇城だと思うのです。


「姫様。ヤりましょう。今ならまだ間に合います」


 ライラが皇城に入る前に、護衛のリヒトとクオンをヤろうと言ってきましたが、ときは既に遅しです。


 私は諦めの境地で、元の席に座ります。


「ここから見えないところに護衛がいるわ。普通に逃げるのは無理ね」


 索敵で調べますと、殺意はないものの馬車の前方に二人と後方に四人。

 クオンの気配がないので、先に皇帝に報告に戻ったという感じかしら?


 ということは、皇帝の耳に既に入っていると思っていたほうがいいわね。


「まぁ、王城で打首にされるか。皇城で打首にされるかの違いなだけよ。はぁ、残りの十日間は自由を満喫できると思っていたのに残念だわ」

「では姫様、普通ではない方法は?」


 ライラ。かなり怒っているわね。

 私がそういう方法を取ることを止めるのが、いつものライラですのに。


「そうねぇ。私とライラだけを守ればいいのだから、ある意味楽よね」

「ではそれでいきましょう」


 それじゃ、私とライラを護るように結界を……と思っていると、突然走っている馬車の扉が開いたではないですか!


「待ってください!」


 外側から開けられた扉からリヒトが乗り込んできました。


「無礼者!」

「御者席が無人に!」


 乗り込んできたリヒトに怒りをあらわにするライラ。

 馬車が暴走してしまうと慌てる私。


 そんな私の両手が掴まれてしまいました。


 風圧で扉が閉まってしまったのですが、誰が馬車の操縦をするのですか!

 あ、前方の護衛の一人が慌てて移動してきたようです。


「確かに騙すように連れて来てしまいましたが、セレスティア様に危害を加えようとは全く思っておりません」

「攫ってきたの間違いでしょう。この蛆虫が!」


 ライラの苛立ちが、ヒシヒシと伝わってきます。

 まさか一晩で帝都に来ることなど想定外。恐らく瞬時に遠くまで移動できる転移を使ったのでしょうね。


 そしてこの手を握ってくるのは、もしかしてこの距離だとライラが魔法を使ってこないと、わかっていたからなのでしょうか?


 この状態だと、ライラがリヒトを攻撃対象にした時点で、ライラに攻撃反転の魔法が発動することになってしまいますもの。


 いや、まさかね。


「セレスティア様と侍女殿の身の安全の保証はいたします」


 身の安全ですか? 長年戦争をしていたテターニア王国の王女の? それも役立たずの無魔力と言われている第六王女の?


 わざわざ、ここまで連れてきた理由なんて公開処刑ぐらいしかないでしょう。

 ですが、私の攻撃の反転魔法を見ているので、それはないとしても、皇城に連れてくる理由にはなりません。


 カマをかけてみますか。


「はぁ。皇城に連れてきて理由なんて、戦争を長引かせた私を公開処刑する以外にないでしょう?」

「それ、処刑するものが死ぬだけなので、意味がないですよね」


 ……普通に返されてしまいました。

 リヒトはこういうのに、引っかからないのですよね。

 別の言い方にしますか。


「そうね。処刑する者が次々死んでいくなんて、きっと恐ろしいことになりますよね。人は自分の許容範囲以外のことが起きると恐怖するものです。帝国に恐怖を撒き散らす前に去って差し上げようとしているのがおわかりにならないのかしら?」


 それはとても恐ろしい光景でしょうね。処刑されるものではなく、処刑人が次々と死んでいく公開処刑。

 恐怖は人々に伝搬していき、最後には私を殺さなければという集団行動が起こるのでしょうね。


 まぁ、全員自滅するのですけど。


「はぁ、そもそもご自身を囮にするのは、なさらないようにと申しました」


 そう言えば、昨日言われたわね。でも約束はしていないわよ。


「それに貴女自身に狂酔する存在をお忘れです」


 それはライラのことかしら? でも狂酔というよりも、私についていたら一番安全というのが大きいのではないのかしら?


「一度、聖女セレスティアの力を見たものは、その前に屈するしかなくなるということを」

「……私自身、聖女と名乗った覚えがありませんが?」


 これはきっちりと言っておかねばなりません。

 聖女を自称しているイタい人としてみられるのは嫌ですからね。

 ……まさか皇帝にそういう風に報告しているとかありませんわよね?


黄金(おうごん)に輝く世界を常に見られているセレスティア様には、何も思わないことかもしれませんね?」

「……何か私が幻覚を見ている人になっていませんか?」


 なに? 黄金に輝く世界って? 意味がわからないのだけど?


「侍女殿。無自覚にも程があると思いませんか?」

「それが姫様なので……しかし、蛆虫が姫様にベタベタとしていると思いましたら、既に信徒だったとは。ですが、怪我をされたと報告は受けていませんのにいつ洗脳されたのでしょうか?」

「ライラ、怪しい宗教の話は関係ないわよね?」


 私が治療をすると、聖女という人が増えていくのは、大怪我を治した比喩からよね?

 ときどき私に向って祈る人がいるけど、それは怪我を治してくれてありがとうという意味合いよね?

 それを揶揄ってライラが宗教の勧誘とか言っているだけよね?


 あと、洗脳とか恐ろしいことはしていないから。


 すると、二人から痛いほどの視線が突き刺さってきました。

 ライラ、私の味方ではなかったのかしら?


「そう言えば、さきほど慌ててここに入ってきたので、馬車の外装で引っ掛けてしまいました」


 私に手の甲の引っかき傷を見せてくるリヒト。だから、なぜ走っている馬車に乗り込もうとしたのですか。


「はぁ、普通の御者は、客車に乗ってきません」


 私はそう言いながら、解放された手をかざし、リヒトの手の甲の傷を治してさしあげます。

 私が文句を言っていますのに、目を細めて笑ってくるリヒト。


 心臓がドキッと飛び跳ねました。

 え? 何ですか?

 思わず手を胸に当てますが、気の所為だったみたいです。


「綺麗な世界ですね。貴女の見ている世界はこんなにも美しい」

「ふぉ! なんですか! 突然!」


 背中に流している黒い髪を手にとって口づけをしてくるリヒト。


 そして、私の視界にはこの場にいないはずの人物の姿がありました。

 銀色の髪のリヒトが金色の瞳を私に向けているではないですか!


 まままままさか!


「レインアルド・リヒト・イングレアゼルの名において、聖女セレスティアの身の安全は保証いたします。契約期間はまだ残っていますから、セレスティア様がどこかに行かれる場合はお供いたします」

「なぜに皇帝陛下自身が、敵地の偵察に行っているのですか!」


 色々解せない。


 皇帝を護衛にとかありえませんから、これはさっさと書類を作って契約完了のサインをしてもらわないといけません。


「まずは、十日間ゆっくりと過ごされたかったとおっしゃっておられましたので、帝都を案内しますね?」

「敬語を止めて欲しいです。先ほどから心臓がバクバクして苦しいです」


 時々リヒトが金色の目をしているのは、光の加減かと思っていたのです。

 しかし、これ噂の魔眼じゃないですか!


 レインアルド皇帝の氷輪の魔眼。

 月のような冷たさをもつ皇帝の異名にもなっている魔眼なのだけど……話に聞いていた性格と合わないのだけど!


 笑わないとか、視線だけで人を殺せるとか、配下をゴミのように扱うだとか……。


「もしかして、転移を使ったので転移酔でもされましたか?」


 私の額に触ってくる皇帝陛下。

 ちょっと近い! 近いです!


 おかしいじゃないですか!


 お菓子を作ってもらったので、一緒に食べませんかと焼き菓子を持ってくるリヒト。

 ……戦場にお菓子が作れる女性がいることを初めて知りましたよ。


 コーヒーが気に入ったようで、私の天幕にコーヒーを飲みにくるリヒト。とそれに付き従うクオン。


 コーヒーはそこまで量産できていないので、私が個人的に飲む分しか現在ありません。

 あれ、虫がつくので、排除が面倒くさいのですよ。


 休暇だから好きに過ごしていいと言っているのに、天気がいいから散歩に行きませんかと誘いにくるリヒト。

 ……だからなぜ手を繋いでくるのでしょう。


 これ聞いていた皇帝の性格と全く違いますわよ。まさか影武者だとか!


「酔っていません。あと、手を離してください。なぜに、いつも繋いでくるのです」

「セレスティア様が一人は寂しいと、だから手を取るとおっしゃったではありませんか?」


 ん? いつの話ですか?

 もしかして、初めて戦場につれて出た時のことですか?

 私は寂しいとは言っていないと思いますが?


「いつも誰かの手を握って癒すセレスティア様の手を、誰が取ってくれるのですか?」

「え?」

「だから、私が手を取ろうと思ったのです。一人ではありませんよと」


 何かがポロリとこぼれ落ちました。

 次々と頬を伝うものは、私が泣き言を言わないと決めたときに封じたものでした。


 母親から拒絶されたときに決めたのです。泣くのはこれで最後にしようと。

 一人で立つのだと。


「なので、セレスティア様の側にずっといさせてくださいね?」


 私の頬を拭くリヒトの言葉に涙が引っ込んでしまいました。

 ん? リヒトが私の側にというか、それは私が皇帝の側にと捉えられるのだけど?


「皇帝でしょうが、姫様を泣かせるなど、万死に値します!」


 ライラ、別に私はいじめられてはいませんから!



 こうして、魔力なしの第六王女は、皇帝の手によって敵国に攫われてしまったのでした。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


2026.05.23

沢山の方に読んでいただきありがとうございます。

”いいね”で応援ありがとうございます。

ブックマークありがとうございます。

☆評価ありがとうございます。


おかげさまで日間ランキングに入ることができました。


この作品を読んでくださりありがとうございました。


ついでに05.24に超短編を投稿しましたので、

興味があればそちらもお願いします。

【「団長の好きな人は誰ですか?」】

そう聞かれて、仕事を辞めようかと悩む主人公のお話です。

https://ncode.syosetu.com/n9688mf/

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― 新着の感想 ―
話の展開は読みやすいけど、面白かった! でもちょっとライラのキャラが受け付けないかな〜。そこだけ残念
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