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無魔力の第六王女は敵国に攫われる  作者: 白雲八鈴


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第3話 陣中見舞いする第六王女

「どういうことでしょうか? そういう契約ですよね?」


 茶髪の青年が聞いてきましたが、やはりここの人ではなさそうですね。

 第六王女の身勝手な振る舞いは、王都中では有名ですからね。

 何もできない無魔力のクセに、王族ぶろうとしていると。


 まぁ、誰が言ったのかぐらいは予想できますが、王都での私の噂はよくありませんからね。


「何も契約としては効力がない、口約束です。契約書は交わしていません」

「だったら、何のためにあのようなことを?」

「第六王女の道楽ですわ。理由をこじつけて、民草にお金を配る。私っていい人でしょう?」

「ご自分でいい人と言っている姫様に寒気がします」


 うるさいわよライラ。

 そもそも金貨三枚もあれば、一年暮らせるのです。

 わざわざ危険な戦地に行く必要などないのです。


 それに、訓練などしていない護衛に求めることはありません。二年目のときに失敗して懲り懲りです。


 だったら父王の手前、体裁として護衛をやとった風にして、こっちで勝手に動いたほうがいいに決まっています。


 私がいようがいまいがどうでもいいと思っているのでしょうから。


「南方の戦場まで来るというのであれば、契約を交わすわ。その代わり口だけの無能は必要ないから」


 私は二人の青年に背を向けて馬車に乗り込みます。

 ライラも乗り込んだところで、馬車が動き出しました。


 ええ、門が開く音が聞こえたので、さっさと馬車に戻ったのです。


「あの二人、来るでしょうか」


 向かい側に座るライラが心配そうに視線を窓の外に向けています。

 私はさっと窓に備え付けられているカーテンを引きました。


「来るでしょうね」

「それほどお金に困っているように見えませんが?」


 見えないわね。くたびれた服を身に着けていますが、かなり質がいいと見て取れました。


「普通なら旅の傭兵ってところね」

「そうではないと?」

「言葉が綺麗過ぎたの」

「……確かに、不快な感じは受けませんでした」


 私は王城にいるときよりも、外にいるほうが長いので、いろんな人と会う機会がありました。


「傭兵って貴族に対して丁寧な言葉を使ってくるけど、結局野蛮な感じが抜けきらなかったじゃない」

「確かにそうでした」


 傭兵を取りまとめている者と話をすれば違うのでしょうが、所詮戦う人たちですからね。

 少々言葉の粗さが目立つことがありました。


 村人が王族に対して言う言葉も丁寧なのですが、やはり教育された者ではないので、ときどき笑ってしまうこともありました。

 まぁ、慣れていないということですわね。


「そうなると、何処かの貴族の息子という線なのだけど、第六王女に近づく意味がないのよね」

「姫様はお金持ちです」

「領地の経営が上手くいっているからね。去年のワインの出来は王様にも褒められたほどだったし」

「相変わらず王様とお呼びなのですね」

「王様以外になんと呼ぶのか、私は知らないわ。あ、国王陛下ね」

「遠ざかりました」


 父王はどちらかと言うと上司的な感じで、父親という認識は全く持てません。


 しかし、私の領地が潤って、お金をばらまくほど儲けていても、あの二人には意味がないでしょう。


「腰に差していた剣は、魔剣よね。あと、荷物が異様に少なかったから、拡張収納できる魔道具を持っていると予想。それだけで、金貨何枚? 千枚はいくと思うのだけど?」

「そういうのは粗悪品もあるので、一概にはいえませんね。ですが、平均五百枚ぐらいでしょうか」

「そうなってくると、お金に困っているという感じじゃないよね。最悪、売ればいいのだから」


 私が管理している領地は、王家直轄地なので、あそこが欲しいと言われても恐らくそう簡単にはいかないと思う。

 今では、薬草の栽培もしているので、父王が首を縦に振るとは考えにくいです。


「一族の家宝となると売れませんよ。ただの置物の価値しかなくてもです」

「そう? 私なら売るわね」

「姫様は売るでしょうね」


 使わないものを置いていても仕方がないじゃない。


「まぁ、最悪敵国のスパイの可能性があるわね」

「スパイですか?」

「敵国であれば、私の存在って邪魔よね」

「邪魔でしょうね。この八年で戦線が大きく動きましたから」


 それは、私が打ち首獄門にならないためです。後方支援を頑張りましたよ。


 食料は潤沢にあるのです。

 あとは、兵に生気を養ってもらって、戦場に送り出せばいいのです。


「ここで懐に入って、私の首を取れば、後方支援はガタ落ち、戦線は後退するしかないわね」

「その時は、必死に命乞いさせていただきます」

「ぷっ! 逆に敵に取り入ってもいいわよ」



 そんなことを話しながら馬車で十日。南方戦線の後方拠点に到着しました。


「第六王女様。寛大な支援感謝いたします」


 去年来たときとは違う顔ぶれの人達に出迎えられました。


「ハラヴェルド大佐はいかがなされたのですか?」

「はっ! 先日少将に昇進されましたので、このファスエラン大佐が任につきました」

「あら? そう」


 去年の夏に戦線が大きく動いたのが評価されて王都に戻ったということですか。

 まぁ、いいですわ。


「今回も半年ほど滞在するわ」

「はっ! 承知しております」


 挨拶は終わったので、私はさっさと幹部たちがいる天幕を後にします。


 そして、私が引き連れてきた多くの荷馬車から物が運び出されています。


「それは奥の保管庫に! そっちは医療班のところに持っていくように」


 これも、任せておけばいいでしょう。

 そして私は困惑している二人に視線を向けました。


「本当にここまで来たのね。いいわ。契約をしましょう。ついてきて」


 やはり、あの二人の青年はここまで着いてきたようですね。

 途中で離脱するかと思ったのですけど。


 私は支援物資を何台もの荷馬車に乗せてここまで移動してきたのです。

 ですが、その護衛として必要な人数が足りないまま出発し、ここまで無事にたどりついたことを疑問に思っているのでしょうね。


 そして、拠点の後方の空いている空間までやってきました。


「ライラ」

「はい」


 ライラは指輪を空いている空間に向けます。すると、何もなかったところにガーデンテーブルセットが現れたではありませんか!


 これが拡張収納の便利なところですわよね。

 魔力がないと使えませんけど。

 使用者の魔力登録をしなければ使えませんけど。

 くっ! このような便利なものを使えないなんて……まぁ、一般庶民は高くて手が出せない代物ですけどね。


「そちらにおかけになって」


 大きめのテーブルなので、六人は席につけます。


 私は椅子に腰掛け、ライラから紙とペンを受け取ります。それを二人の前に一枚づつ置きました。


「内容は最初に示したとおりです。問題がなければサインをお願いしますね」

「一つ質問が」


 茶髪の青年が聞いてきました。


「何でしょう?」

「詳細な仕事内容が書かれていませんが?」


 仕事内容? ああ、そうですわね。


「何と言えばいいのかしら?」

「文句を言わずに姫様の命令を聞くでよろしいかと」


 ライラ、それは書いているので、それでは駄目ということなのですわよね。


「そうね。多岐にわたるわね。主に私がやっていることは、負傷者の治療ね。でもここまで運ばれてくるってよっぽど運がいい人なのよ。だから前線に出ることもあるわ」

「それは敵国の兵を倒せと」

「違うわ。戦わずに負傷者を連れて帰るの」

「戦わずにですか?」

「あ、意味がわからないって思っている?だからね、私の命令は絶対という条件をつけているの」

「戦わないという条件をつけた理由はなにですか?」

「だってそもそも戦争だなんて馬鹿らしいと思わない? 国民を捨て駒のようにして戦わせて、王様は安全なところでふんぞり返っているわけ」


 そもそものきっかけは知らないけれど、父王は私が知る限り戦地には来ていない。

 王太子の兄が視察として来たことはあっても、戦地には立たなかった。


「帝国もそう。二年前だったかしら? 代替わりしたわよね。でも一度も戦地にきていないでしょ?」

「それはこちら側ではわからないと思いますよ」

「ぷっ! 見てわからない?」


 私は彼らの背後を指し示す。

 多くの兵が行き交っているのが見えますが、皆が期待に満ち溢れ笑顔でいるのです。


「兵の士気が上がるのよ。それは戦線を押し上げることもできるわよね」


 私は挑発するように言う。

 もし、帝国のスパイならここでボロを出すはずよね。



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