実験開始
9:43。香西朋華は最初出逢った時の姿のままで黒い車から降りてきた。
確かに、香西朋華はそこに現れたのだ。
思わず、飛び出しそうになったが、今飛び出たら全てがパーだと思い、踏みとどまった。
七三わけが前回同様、香西朋華にコードを取り付けていた。
実験まであと17分。
9:52。先に伝えられた通りに対象者が現れた。129名かどうかは確認できなかった。
人の臓物を全て剥き出しの状態にして30人もの人間を殺したと一時期有名になった死刑囚や、
人間の体に爆弾を手術で仕込み、デパートなど人が集まる所まで
それを爆発させるという連続爆弾事件を起こした医者、
人気アイドルのコンサート会場の床下に200個近くの爆弾を仕掛け実際に爆発させ
アイドルを含めた1万人近くを殺した爆弾魔など。俺が過去に見た殺人犯が軒を連ねていた。
どうやら、武器の使用も可能らしく爆弾、ピストル、サバイバルナイフなど、
危なっかしい道具を皆それぞれ持っていた。
実験まであと8分。
9:57。死刑囚の歓喜の声が聞こえてきた。
察するに、多分香西朋華を殺せば死刑免除。
もしくは刑務所から出ることを許可したと見る。無駄なのにな。あんな人造人間に敵うはずないだろ。
そんなことも知らず、奴らはテンションを最高潮に盛り上げていた。
実験まであと3分。
10:00。初めの合図のように、白衣3人組は離れた。
それと同時に叫ぶように、奴らは香西朋華に襲いかかった。
開始から5秒も経たないうちにその勢いは悲鳴に変わった。
香西朋華は大半を素手で倒した。だが、中には道具を奪い取られ、
自分がやった罪と同じような殺し方をされた奴もいた。
村中に断末魔と、血飛沫が舞う音が響いた。
10:03。俺は絶体絶命のピンチに立たされていたり、いなかったり。
「何故ですか。何故、後を追って来たのですか」
「……」
「前に、言ったわよね。今度この件に首を突っ込む事があったら、その時は君がどうなるか」
そう言いながら、一歩、一歩近づいてきた。
10:02。全ての敵を倒したその瞬間。香西朋華は俺の方向を向いた。
そして、5km離れた俺の位置まで一瞬でやってきた。
香西朋華は確実にここに来た瞬間から、俺の存在に気が付いていたのだった。
後を追うようにして、あの3人も来て現在のこの状況に陥ったわけです。
再び10:03。
「何故ですか。答えて下さい」
「……じゃぁ、逆に聞くが何故お前は一回目見逃したんだ?」
「……」
香西朋華は一歩退いた。
「あの時、俺を殺せば確実に今みたいな状況にはならなかったはずだ。答えてみろ。自分の言葉で。
何故俺を見逃した?」
「……」
香西朋華は一向に答えようとしない。あの3人も何も言わない。
「お前は……。本当は人を殺したくないんじゃないのか?」
「なっ……」
「命令だから、仕方なく人を殺しているのではないのか?」
「それは、違います。私も命令以外では人を殺せません」
「!」
ここにきて、初めて香西朋華は口を開いた。
「人を殺す以外でもそうです。私は命令以外での行動は限りなく制限されている為―――――……」
「そんな、機械的回答は求めてねぇんだよ!!」
俺は叫んだ。香西朋華は驚いたようにこちらを見た。
「お前には多分『感情』が挿入されてないんだろう。それならいい。
だがな、あの時俺を見逃せと頼んだのは、他でもねぇ。お前だろ?
それはお前が命令以外の行動をしたんじゃねぇのかよ!!!!」
「……っ。それは」
「それが、お前に芽生えた『心』じゃねぇのかよ!!! 違うなら、何か言ってみろよ!!!!」
「わた……く……し、には。そんな……もの……」
香西朋華は戸惑い始めた。悩んでるんだ。自分が取った行動を。