消えた訳
「……」
森に静けさが戻った頃。俺はただただ、唖然としていた。
香西朋華が、あの黒人男性たちを全て10分以内に殺してしまったのだ。
軽くぶつかっただけなのに、全身の骨が折れたような音がしそいつが死んでみたり、
頭を少し鷲掴みしただけで、悲鳴を上げ倒れたり、
その他諸々結構無様に全身血まみれにしながら死んだ奴もいた。
見てて吐きそうになるシーンもあった。
体中返り血を浴び、さぞ怖がっているだろうと、様子を見ていたら
香西朋華はいつもの無表情だったのだ。
あれだけ惨い殺し方をしておいて、
あれだけの返り血を浴びておいて、
それでも尚、彼香西朋華は平然と言う名の自我を保っていたのだ。
俺には到底理解が出来る次元ではなかった。それでも、周りの白衣を着た人間たちは
テストの出来が悪かった我が子を見るような眼で香西朋華をみていたのだ。
あいつらは、あんな子供に一体何を求めているんだ?
その時、白衣の1人が黄色いコードを取り出した。
そのコードの先は銅線が剥き出しの状態になっていた。
それで何をするのかと思ったらそれを香西朋華の右腕に巻き付けた、次の瞬間
「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「!!!!」
そこから大量の電撃が流れているらしくビリビリと音を鳴らしていた。
どうやら香西朋華の体に電撃を強制的に流し込んでいるようだ。
なんて、奴らだ。あいつが一体何をしたというのだ。
その様子を見ていると、ふとあることに気がついた。
―――――さっきまでいた、癖っ毛の女の人がいない。
そう思った瞬間。
「いけないね。国家機密の実験場にズケズケと一般人が入り込んでは……」
「!!」
驚いて振り返ると、そこにはやはりあの女が立っていた。
「お、お前ら一体何やってんだよ! こんな、山奥でしかもあんな子供に。人なんかを……」
それに続けて、まだ言わなきゃいけない事があったが言える状況ではなかった。
何故かって? それは、目の前で銃口を俺の頭に突きつけているお姉さんがいたからだよ。
「これ以上騒ぐな。今回は、香西朋華が見逃せと言ったから
特別に生かしてやるだけだ。お前がこれ以上我々の話に首を突っ込んだら、
今度こそ。お前の命はない」
「……っ」
「命が惜しければ、今すぐ帰れ。さもなくば……」
そう言って女は引き金に指をかけた。
「……嫌だ」
「では、香西朋華の願いを無駄にするのだな?」
「……」
「これで分かったろう。早く帰れ」
仕方なく、俺は家に帰ることにした。
2日後の昼ごろ。俺の家に来客が来た。
「……」
それは、いつも通りの香西朋華だった。
「どうした」
「……。お話があるのです」
「? まぁ、とりあえず上がってけよ」
どこか、テンションの下がったような声で話す香西朋華に
違和感を覚えつつ俺は麦茶を彼女にさし出した。
「……で、何用だ?」
「誠に、申し訳ございません」
そう言って、彼女は土下座した。
「え……?」
「私があの日、突然消えてしまったから、 心配で捜しに来てくれた……ですよね」
「あ、ああ……」
「……。鷹也様は人より優しさが多いみたいですね」
は? 何の話?
「だから、あんな所まで……」
いや、普通だろ? 友達が消えたら探すだろ?
「しかも、所長とまで口論してでも私を庇って」
どうしてそれが普通と取れないんだ? お前は……。
「今回の件に鷹也様が巻き込まれてしまったのは、全て私の責任です。申し訳ありません」
なんで、巻き込まれた。なんて表現使うんだよ。あれは、俺が勝手に……
「ですから。もう、鷹也様が巻き込まれぬように私は本日付で鷹也様の御婆様の家を
出ていくことを決めました。これでもう、鷹也様が捜し、心配することはございません」
え……? なんで、そうなんの?
「誠に有難うございました。話しはそれだけです。では、失礼します」
そう言って、ほぼ無音の状態で立ちあがり、俺の家から出ていってしまった。
一滴も飲まれなかった麦茶の氷が溶けてカランと小さな音を立てた。
それから、婆ちゃんちに行って確認を取ってみたけど、香西朋華は婆ちゃんに
自分の引き取り相手が見つかったからそいつの家に行くと嘘ついて出て行ったらしい。
具体的な住所を聞く前に出ていってしまったから、どこにいるか分からないらしい。
最悪なことになった。