桝井鷹也と室式聖華
「もう無駄ですのー。大人しくしないと、所有者が痺れを切らしちゃうじゃないですかぁ~」
思わずドアに耳を当てて聞いてしまう。もう、追いついたのか……?
その時、後ろから、カツンと靴と地面の当たり合う音がする。背中が一気にヒヤっとする。全身の血がサーっと引いて行く。後ろを振り返ることすらできない。俺は怯えきっていた。
「あの方はぁ、怒ると面倒なんですからぁ♪」
聞こえているその声に耳を欹てている余裕はもうなくなっていた。理由? んな物決まってるだろ?
「……」
「桝井鷹也様を発見。速やかに拘束いたします」
その声が、反対側から聞こえてきたからだよ。
「……室式、聖華」
「大人しく我々に同行しなさい」
相変わらずの冷たい声。『機械』が喋るあの声だ。
俺は、奴が戦闘態勢に入る前に意を決して、あることを聞いた。
「お前さあ、今本当に楽しいのか? 正しいって思ってやってるのか?」
「……」
突然、室式聖華の顔が歪む。回答する気配がない。
「嫌なんじゃないのか? 本当は辛いんじゃないのか?」
「嫌…辛い……」
「お前は…」
「分かる……ない」
「は?」
「理解…ない」
急に片言で喋り出す室式聖華。
俺も正直この時は、いつ殺されるかとビクビクしていたから、
頭が回らず何故今室式聖華がこのような状況になっているのかなんて、理解できなかった。