世間話と神妙な話
「あっちの……ロボットの朋華の生まれた理由はもうきいたよね?」
「ああ。本人の口から直接」
「ん。そう、あの子はわたしの生まれ変わりとして生み出された。でも、あの子はわたしじゃない。感情も性格も何もない。サイボークみたいな存在として生まれてきた」
劇の役者の様な語り(身振りとかは特にない)で、香西朋華は続ける。
「……あ、少し誤りがあったね。感情がないって言うのは、合ってるけど、間違ってる。感情の大元のデータは彼女の中に入ってるからさ。だけど、あの子にはその感情表現の仕方がデータに入ってないから」
「!」
「だって、そうじゃなきゃ。あの時みたいに、笑わないでしょ?」
「そ、れは……」
香西朋華はにっこりと笑い話を続けた。
「話を戻すね。わたしとは全く別の存在になってしまった事が、あの子にとってはとても辛かったみたい。自分の作られた目的にそぐわない事が……とっても嫌だったみたいなんだ。そんなこと。気に病むことないのにね。でもあの子たちにとって一番大切なのは、創った者の期待にそう物になる事みたいなんだ」
(私は香西朋華様の代わり。なのに、私は香西朋華様にはなれなかった。まるで別の……。香西朋華様を元に作った、ただの人形になっただけでした)
そう呟く、悲しそうな香西朋華の顔が一瞬頭の中をよぎっていった。
「思い当たる節。あるんだね。やっぱり」
「あ、ああ……」
「きっと、あのまま放っておいたら、あの子、自分から処分を申し出ると思う。崎守研究所に行って、やってもらうと思うんだ。それが無理でも、自分の中枢を壊すことぐらい出来ると思う。そんなの、絶対にダメだよ! そう思うでしょ?」
目に涙を浮かばせながら、香西朋華は聞いてくる。そんな顔、されなくっても答えは決まってる。
「思う」
すると、安心したような顔をして香西朋華はもう一度口を開いた。
「よかった。そう思ってくれるなら、君に頼める」
「なにを?」
「あの子に……、名前をつけて。『香西朋華』じゃない名前を」
「え……?」
「きっと、香西朋華のままだったら、いつまでもわたしやお母さんに縛られ続けちゃう。その必要はもうないんだよって。貴方は、貴方の道を自由に歩み続けていいんだよって。分かって欲しいの。だから!」
「……分かったよ。考えておく」
「うん!」
その顔は、まるで幼い子供のようだった。
「ところでさ」
「なに?」
俺が声をかけるとキョトンとした顔でこちらを見てきた。人間っぽい。正直可愛かった。
「お前って、ずっと朋華の傍にいるの?」
「ん。そうだよ」
「守護霊みたいに?」
「そーんなもんかなぁ?」
うーん、と頭にハテナを浮かべながら言った。
「でも、いつまでも成仏しねぇとお前のかーちゃん心配すんじゃねぇの?」
「簡単に言ってくれるよ。わたしの体と魂。常に一つだったものなんだよ? ひとつのものをふたつに分けるのって結構大変なんだからねぇ!?」
怒ったように怒鳴りつけてくる。と言っても怒気の入ってない、悪戯っぽい感じの声だけど。
「そりゃわるい」
「鷹也君さぁ、私の事小さい子供とでも勘違いしてない?」
「し、してないよっ!?」
「ホントにぃ?」
「本当だってば」
「……。信じらんない」
「えー…」
「冗談だよ。冗談♪」
悪戯っぽく笑うと、香西朋華は立ち上がって大きく背伸びをした。
「さってと! もう時間かな?」
「時間?」
「朝だよ。早く起きないと、朋華に首絞められちゃうよ♪」
「なんで知ってるの?」
「トーゼンじゃん! ずっと見てたってさっき言ったでしょ?」
「あ…。そか」
「そう言う事! じゃ、まったねー♪ 鷹也君!!」
勢いよくブンブンと手を左右に振りながら、香西朋華はどんどん遠くなっていく。
そして、米粒くらいの大きさに見えるくらいになって、手を振るのをやめた香西朋華は悲しそうな顔をして、何かを呟いた。なんて言っていたのかは聞こえなかった。
「また……?」
その言葉に引っかかりを覚えた瞬間に、目が覚めた。