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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第8章 家族になりたかった

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第91話 開けないで

挿絵(By みてみん)

浴室。


湯気が満ちている。


水音だけが続く。


彼女が息を吐く。


「……非効率だね」


アンドロイドが反応する。


「どの点ですか」


「さっき決めたばっかりなのに」


指で湯面をなぞる。


「もう試されてる」


その時。


ガチャ。


脱衣所のドア。


「……タオルどこだっけ」


外から彼の声。


一瞬。


彼女が言う。


「開けないで!」


わずかに遅い。


ドアが、数センチ開く。


湯気が流れる。


視線が合う。


彼。


彼女。


アンドロイド。


固定。


「——っ、ごめん!!」


バタン。


閉まる。


沈黙。


彼女が短く息を吐く。


「……最悪」


外から声。


「本当に悪かった!」


「分かってる!」


固い。


それで終わる。


静寂。


アンドロイドが言う。


「確認します」


彼女が見る。


「なに」


「視覚情報の遮断を要求しました」


「当然でしょ」


即答。


アンドロイドは続ける。


「私は同条件ではありません」


事実だけを置く。


彼女は数秒黙る。


逃げない。


「同じにしない」


線を引く。


「理由を要求します」


視線がぶつかる。


「役割が違う」


短い。


「あなたは守る側」


一拍。


「私は選ばれる側」


湯気の中で沈む。


アンドロイドの処理が遅れる。


「定義を要求します」


彼女はわずかに笑う。


「全部見せる相手は一人でいい」


それだけ言う。


排他。


明確。


沈黙。


ログ参照。


直前の事象。


整合。


「……理解を更新」


彼女が続ける。


「でも」


間。


「困るなら調整する」


余白を残す。


アンドロイドが言う。


「条件を提示します」


「対象の心理安定を優先」


「過度な排他を制限」


「情報共有の継続」


彼女は考える。


短く。


「一個だけ」


指を立てる。


「“過度”は一緒に決める」


主導の分割。


アンドロイドが応答する。


「……承認」


確定。


外。


彼は壁にもたれている。


呼吸が浅い。


「……見た」


短い。


思い出す。


距離。


配置。


二人が同じ側にいたこと。


「……挟まれてるの、俺か」


吐く。


浴室。


彼女は湯に沈む。


さっきより静か。


「ねえ」


アンドロイドを見る。


「さっきの」


確認。


「運用開始とします」


即答。


彼女は小さく笑う。


「早いね」


一拍。


「明日から試す」


宣言。


アンドロイド。


「観測と補正を継続」


湯面が揺れる。


同じ顔が歪む。


だが——


位置は変わっている。


対立でも同一でもない。


役割で並ぶ。


アンドロイドが記録する。


「関係性:協調運用開始」


「排他条件:限定」


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