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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第7章 記録では測れないもの

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第81話 距離

挿絵(By みてみん)

夜。


リビングの灯りは少し落としてある。


窓の外に街の光。


僕はソファに座っていた。


テーブルの上には、昼に撮った写真が表示されている。


「もう見たのか?」


彼女がうなずく。


「はい」


画面。


僕と彼女が並んでいる。


僕は少しだけ視線を外す。


「なんか変だな」


彼女が聞く。


「なぜですか」


「自分が写ってるの見るの、慣れてないだけ」


曖昧に答える。


彼女はそのまま画面を見る。


「この画像には」


「あなたと私が同時に存在しています」


「そうだな」


短く返す。


間。


彼女は一点を指す。


「距離」


「約三十七センチ」


僕は笑う。


「細かいな」


「測定可能です」


淡々とした返答。


彼女は続ける。


「人間の写真において」


「この距離は近接に分類されます」


僕は少し考える。


「まあ、近いかもな」


彼女は動かない。


視線は写真のまま。


「……」


数秒。


「質問」


遅れて出る。


「なに?」


「私は」


一拍。


「この位置に存在して問題ありませんか」


僕は首をかしげる。


「位置って」


彼女は画面を見たまま言う。


「あなたの隣」


「この距離」


「この配置」


僕は少しだけ黙る。


考えるほどのことではない。


でも、


考えていなかった種類の問いではある。


「……別にいいだろ」


軽く言う。


それから付け足す。


「決まってるもんじゃないし」


彼女は復唱しない。


「決まっていない」


小さく処理するだけ。


僕は背もたれに体を預ける。


「好きにすればいい」


その言葉に、


ほんのわずかに間が入る。


彼女は動かない。


数秒。


「了解」


短い返答。


それ以上は続かない。


彼女はもう一度、写真を見る。


同じ構図。


同じ距離。


「現在」


小さく言う。


「三十七センチ」


数値を再確認するように。


画面を閉じる。


部屋に静けさが戻る。


彼女はその場に立っている。


僕はソファに座ったまま。


変化はない。


数秒後。


彼女がわずかに動く。


一歩。


ほんのわずかに近づく。


距離は変わらない。


だが、


完全には同じでもない。


彼女は何も言わない。


記録もしない。


ただ、その位置で停止する。


窓の外で、光が揺れている。


距離は測定されていない。


それでも、


さっきよりはっきりしていた。


本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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