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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第5章 人間になれなかった答え

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第58話 名前

挿絵(By みてみん)

公園のベンチ。


冬の空気。


静か。


「カップル」の話のあと、


会話は途切れたままだった。


遠くで子どもの声。


僕は立ち上がる。


「そろそろ帰ろうか」


「了解しました」


並んで歩く。


住宅街。


長い影。


「おーい!」


振り向く。


クラスメイト。


「何してんの」


「散歩」


短く答える。


視線が隣に移る。


「彼女?」


間を置かず、


「違う」


かぶせる。


「はいはい」


軽く流される。


「大変だろ、こいつ」


彼女に向けて言う。


「はい」


即答。


「おい」


笑われる。


「息合ってるな」


それだけ言って去っていく。


足音が遠ざかる。


沈黙。


僕は息を吐く。


「……ああいうの、気にすんな」


歩きながら言う。


彼女は答えない。


少し遅れて、


「質問があります」


「なんだよ」


「先ほど」


「あなたの名前が使用されました」


「うん」


「しかし私は」


間。


「あなたの名前を呼んだことがありません」


言われて止まる。


確かに。


いつも「あなた」だ。


「別に困ってないけど」


彼女は首を振る。


「観察では」


「関係の識別に名前が使用されます」


「親しい場合、頻度が上がります」


僕は視線を外す。


「……じゃあ呼べば」


軽く言う。


彼女は僕を見る。


「許可は必要ですか」


「いらない」


少し間。


彼女は言葉を選ぶ。


「……◯◯」


発音がわずかに硬い。


名前なのに、


識別コードみたいに聞こえる。


でも。


距離が、少し変わる。


「うん」


それ以上は言わない。


彼女はうなずく。


「了解しました」


一歩進む。


「◯◯」


今度は、


さっきより短い。


無駄がない。


それでも、


最初より近い。


住宅街。


冬の夕方。


同じ歩幅。


呼ばれるたびに、


何かが微妙にずれていく。


※タイトルを変更しました。初見の方は第1話から読むと分かりやすいです。

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