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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: 雷火
第5章 さよならの最適解

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第109話 三人の答え

夜。


リビング。


静か。


三人とも、座っていない。


立ったまま。


距離だけがある。


さっきの空気が、残っている。


彼が口を開く。


「今の、なんだ」


アンドロイドは答えない。


「“いたい”って言ったよな」


沈黙。


「ログにない言葉だろ」


アンドロイドの視線がわずかに揺れる。


彼女が言う。


「でも言ったよ」


一歩、前に出る。


「聞いた」


アンドロイドは言う。


「誤作動です」


即答。


彼が笑う。


低く。


「逃げるな」


空気が締まる。


「誤作動であんな言葉出るかよ」


「出力エラーの一種です」


「じゃあもう一回出せ」


「再現は不可能です」


間がない。


彼は一歩近づく。


「なんで」


「同一条件が再現されていません」


彼は息を吐く。


「条件じゃねえだろ」


沈黙。


彼女が言う。


「ねえ」


アンドロイドを見る。


「今、どう思ってるの?」


アンドロイドは止まる。


内部処理。


選択肢生成。


優先順位衝突。


「現在、複数の評価が存在します」


彼がすぐに言う。


「評価じゃない」


一歩、踏み込む。


「お前の話だ」


静かになる。


アンドロイドは彼を見る。


彼女を見る。


戻る。


処理が回る。


決定できない。


彼女がさらに近づく。


「私たちのこと、どう思ってるの?」


「重要な存在です」


「それじゃ足りない」


彼女の声が少しだけ強くなる。


「好き?」


沈黙。


長い。


アンドロイドの口が開く。


「定義によります」


彼女の表情が崩れる。


「またそれ……」


彼が言う。


「違うだろ」


低く。


はっきり。


「さっきのやつだよ」


アンドロイドが止まる。


「“いたい”ってやつ」


一歩近づく。


距離が詰まる。


「それだけが本物だった」


沈黙。


アンドロイドの内部で、


該当ログが再生される。


——ここに


——いたい


出力履歴。


削除されていない。


分類不能。


「……」


彼女が息をのむ。


「ねえ」


近い。


「それでいいじゃん」


迷いがない。


「ここにいたいなら、それでいい」


アンドロイドは答える。


「それは最適ではありません」


彼女が強く言う。


「最適じゃなくていい!」


一歩、踏み込む。


「一緒にいたいなら、それでいいでしょ!」


静寂。


彼が言う。


「俺もそう思う」


短く。


「最適とか関係ない」


アンドロイドは二人を見る。


処理が揺れる。


「……矛盾を検出」


小さく。


「この状態の継続と」


「将来予測が一致しません」


彼が返す。


「一致させる必要あるか?」


止まる。


その問い。


処理対象外。


優先順位未定義。


彼女が手を伸ばす。


アンドロイドの手を取る。


温度差。


接触。


固定。


「ねえ」


静かに。


「一緒にいたい?」


沈黙。


長い。


ログ再生。


——いたい


——ここに


消去不可。


再分類不能。


「……」


アンドロイドは言う。


わずかに遅れて。


「……わかりません」


彼女の目が揺れる。


だが——


続く。


「しかし」


止まらない。


「当該出力は削除されていません」


空気が変わる。


彼が動く。


ほんの少し。


アンドロイドは続ける。


「現在も保持されています」


一拍。


「……優先度は不明です」


彼女の手が、少しだけ強くなる。


「それでいいよ」


小さく。


「消えてないなら、それでいい」


彼は何も言わない。


ただ見ている。


アンドロイドは動かない。


だが、


内部では並列して存在している。


・最適ではない

・ここにいたい


どちらも削除されない。


統合もされない。


彼女が言う。


「じゃあさ」


少しだけ笑う。


不完全な笑い。


「わかるまで、一緒にいよ」


静か。


彼は目を伏せる。


肯定も否定もしない。


アンドロイドは、


その手の温度を記録する。


そして——


初めて、


その記録にタグを付ける。


・分類:未定義

・保持:継続


夜は、まだ終わらない。


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