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亜人の国②

"亜人"の国、リヴェール連邦国にテレゴネア王国からの使節団が──初めて人間達が訪れてから一週間が経った頃、大統領であるペリウィンクルと側近のギャビンは公務の合間を縫い、ネレイド湖で趣味である釣りを楽しんでいた。


エルフのペリウィンクルとオークのギャビンは、長命である亜人から言わせれば短く、短命である人間からは長い付き合いで、大統領と側近という関係性になる前から仲が良かった。


当時、奴隷であった二人はとある男に買われ、その男が牧場主を務める大きな牧場にて、苦痛といっても過言ではない程の労働を強いられていた。

そんな環境の中、二人は自然と友情を育んでいき──いつしか、自らと同じ境遇の亜人達の居場所について想いを馳せていき、理想の国について語り合った。

それはまさに、種族を超えた友情とも言えるモノであった。


やがて、ペリウィンクルとギャビンが齢五十を超えた頃──ペネロパ大陸の各地にて、奴隷であったはずの亜人達が反乱を起こし、自由を勝ち取るための戦いを始めたことを知った二人は、すぐさま行動を始めた。

その結果、誕生したのがリヴェール連邦国なのである。


しかし、大統領とその側近という立場になってもなお、奴隷時代からの親友であった二人の関係性は崩れることはなく、今もこうして釣りをしているのだった。


「閣下、今日はどのような魚を釣るつもりなのですか?」

「"閣下"はよしてくれ、ギャビン」


ふざけるかのようにそう言うギャビンに対し、クスッと笑うペリウィンクル。

それはまるで、プライベートに仕事を持ち込むなという様子だったため、彼はその言葉に答えるかのように悪戯っ子のような顔になっていた。


「あぁ、それもそうだな」


ギャビンは親友の言葉に同意するようにそう言うと、彼女と同じように地面に座り込んだ。

その姿を隣で見たペリウィンクルは、あの頃のような笑みをニヤッと浮かべると、ギャビンと共に釣りを楽しんでいた。


このネレイド湖は、広大な大地として知られている北マルゴー大陸において、最も大きい上に釣りをするのに最適な場所で、特にバスやナマズなどが釣れることで有名であった。

そのため、二人のようにリフレッシュをするために訪れる官僚達も少なくはなく、ネレイド湖は政府関係者のお忍びの場所として知られていたため、その周辺に別荘が建てられ始めていたのは、この話とはまた別の話である。


「にしても──建国してから"たった"十八年しか経ってないにも関わらず、テレゴネア王国からの使節団が来るとはな」


一週間前のことを思い浮かべながら、側近としての想いを吐き出しながらナマズを釣るギャビン。

それはペリウィンクルも同じだったようで、彼の言葉に耳を傾けてながらも、中々ナマズが食い付かない釣竿をジッと見つめながら一言、隣に居るギャビンに向けてこう言った。


「そうか?私から見れば──亜人達の国に使節団を送るという行為に対して、十八年という歳月が掛かったことに驚きしかないがな」


ペリウィンクル自身、人間達が使節団が連邦国に訪れるという行為を決断するのに対し、もう少しばかり時間が掛かると思っていたようで、その顔には想定外とばかりの表情が映っていた。


彼女がそう思うのも仕方がないことで──何しろ、十八前にペリウィンクル達がリヴェール連邦国が建国した際、ペネロパ大陸の大国であるテレゴネア王国内からの反発が特に強く、それが結果的に外交という面で大きく出ていた。

そんな中、十八年もの歳月の末に使節団を送ることを決断した彼らに対し、彼女は何か裏があるのではないか?と考えていたため、そういった言葉が口から出たのである。


「確かに、我々と違って人間達の寿命は短いからな」


側近であるギャビンに向け、あくまで雑談という形でそう話すペリウィンクルに対し、彼自身はその言葉に納得したようで、揺れるネレイド湖の水面を見つめながらそう言った。


リヴェール連邦国が魔法に依存せずに発展したのは、亜人が長く生きる生命体というところが大きく関係している。

実のところ、長命種である彼らは技術開発という面においては非常に長けており、そのためか研究に没頭する亜人達も少なくはなかった。

故に、連邦国は十八年もの間に文化的にも兵器的にも目まぐるしい発展を遂げたのだった。


だが、テレゴネア王国はその間に連邦国と外交するかどうかどうかで揉めていたため、そのことを知った彼女は呆れにも近い感情を抱いていて、釣り竿に引っかかった大きなバスを釣り上げると、そのバスを釣るのを手伝ったギャビンに向け、馬鹿馬鹿しいとばかりにこう言った。


「たかが十八年、されど十八年。我々の寿命に比べれば、人間達のくだらない議論は余程長いモノなのだろうな」


人間達への皮肉も込め、空を見上げながらそう言うペリウィンクル。

その言葉の節々には、奴隷の頃から人間を見てきたがための重みもあったからか、ギャビンはその言葉に同意しつつも、数十年前から変わらない人間達に対する哀れみも感じていた。


人間という生き物の愚かさは、これからも変わることは無いだろう。

例え、僅かな可能性があったとしても──その可能性を自らの足で踏み潰す。

それが、前世の頃から人間を見てきたペリウィンクルの人間に対するイメージであり、最終的に導き出した結論であった。


しかしながら、ペリウィンクル自身はまだ人間を信じていた節があったのか、今回の使節団に対して少しだけの希望を抱いていたのか、今後のことを慎重に見定めようと彼女は考えていた。

──最も、この国に居るはずもない人間と出会うまでは。


「──ペリウィンクル」

「あぁ、分かっている」


釣りをしていた二人の前に現れたその男は──"その人間"は、陶器のように美しい白い肌と髪を持っており、瞳は薔薇よりも真っ赤であった。

ギャビンは人間がこの地に現れたことによりも、彼のその肌のあまりの白さに対し、驚きのあまり言葉を失っていたのだが、ペリウィンクルの反応は違った。


彼女は白い肌を持つ人間に近づくと、彼を安心させるように優しい笑顔を浮かべながら、まるで子供を落ち着かせるようにこう言った。


「大丈夫だ、我々は君を殺しはしない。それに──場合によっては適切な治療をすることを約束しよう」

「っ!?」


彼女がそう言った瞬間、逆に彼はペリウィンクルのことを警戒し始めたようで、二人に向けて手に持っていた杖を向けた。


その光景を見たギャビンは、彼が魔法使いであることを察したようで、どうする?とばかりの視線をペリウィンクルに送った。

その視線に対し、彼女は任せろとばかりにアイコンタクトを取ると、警戒している彼の方を向いた。


当の男の方はというと──杖をペリウィンクルの方を向けながら、激昂した様子でこう言った。


「そんな都合の良い戯言はもううんざりだ!!どうせ甘い言葉で我らを誑かし、また魔法を奪うつもりなのだろう!!」


男が敵意を丸出しした状態でそう言った瞬間、ペリウィンクルはその言葉にピクリと反応した後、その目を大きく見開いた。

正確に言えば、それは彼の敵意にではなく──彼の言い放った言葉に対してだった。


白い肌と髪、赤い目、そして魔法。

これらの情報によって、導き出されるのは答えは一つ。


今──二人の目の前に居る彼は、この世で最初に魔法と呼ばれる神秘を生み出したものの、テレゴネア王国という大国によって、民族としての遺産である魔法を奪われた存在。

ペネロパ大陸の先住民族、セレーア族。


それが目の前に居る人間の正体だと気づいたペリウィンクルは、十八年もの間にテレゴネア王国で何かが起こったことを理解したのか、胸の居心地が悪いような感覚になりながらも、思わずこう呟いた。


「まさか──()()()()でも起こったのか?」


一方、その言葉を聞いた彼はというと──何故それを!?とばかりに僅かに戸惑い、そしてその顔に怒りを滲ませていたのだが、突然フラフラ揺れ始めたかと思いきや、そのまま地面に倒れたので二人はギョッとした顔になっていた。


ちょうどその時、その場にギャビンの部下であるコボルトがやって来ると、彼の耳元に何かの情報を伝えたためか、その顔にシワを寄せていた。


「ギャビン、一体何があった?」

「──ルチア港の近くの海岸にて、不審な船が漂着していたのことです」


その言葉は、やがてペネロパ大陸の国々との大戦への始まりであり、リヴェール連邦国初代大統領──ペリウィンクル・フロレンチアの物語が大きく動き始めるキッカケとなるのだが、それはまだ先の話である。

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― 新着の感想 ―
自分も多種族をテーマにした作品を書いてるので、 色々と共感出来る部分が多かったです。 支援の意味も込めてブクマさせていただきました。
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