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亜人の国①

暁光歴九三九年7月。

ペネロパ大陸から約五六〇〇Kmの距離にある大陸、北マルゴー大陸にて一つの国が誕生した。


国の名はリヴェール連邦国。

古代語で自由を意味する名が与えられたその国は、人々から"亜人"と呼ばれた末に迫害を受け、居場所を求め続けた種族達の居場所として、多種族国家として旗揚げされた。


この世界において、亜人達とは取り替え子(チェンジリング)という現象によって誕生した種族で、その原因は未だによく分かってはいなかったが、この原因不明という要因も相まってか、自然と人間達からの差別や迫害の対象となっていた。


やがて、亜人達は奴隷として人間に支配されるようになっていたが、時が経つにつれて自由というモノに焦がれるようになり、やがて──彼ら彼女らは、ペネロパ大陸にいる同胞達を集め、居場所を求めて彷徨った末に見つけたのが北マルゴー大陸であった。


当時の北マルゴー大陸は未開の地であったため、ペネロパ大陸からの追っ手が来るはずもなく、程なくして亜人達はそこで生活を始めた。

子供が生まれても殺されることもなく、我が子にちゃんと名前を与えられる。

亜人達は北マルゴー大陸に上陸して以降、そんな幸せを噛み締めた亜人達は、それが自由なんだということを初めて理解したのだった。


そういうわけで、別の大陸へと逃れた亜人達は少しずつ数を増やしていき──それから数年後の暁光歴九三九年に国として成立し、亜人達が住まいし地はリヴェール連邦国と呼ばれるようになった。


このリヴェール連邦国の特徴としては、一人の王の血統が国を治めるのではなく、国民が王を選ぶ国として建国された極めて珍しい国で、主に選挙という制度によって国王が選ばれることになっていた。

そして、亜人に分類されている種族の一つであるエルフの女性、ペリウィンクルはその選挙の末にリヴェールの国王として──初代大統領として就任。

建国から十八年の歳月が経過した暁光歴九五七年に至った今もなお、大統領としての責務を果たし続けている。


リヴェール連邦国の大統領であるペリウィンクルは、奴隷出身の女エルフながらも非常に聡明な性格であることに加え、並々ならぬ豊富な知識を保有している人物として知られていた。

大統領制度も、選挙制度も、そして国の基盤となる法律も、何もかもが彼女の考えが基になったモノばかりで、亜人達は彼女のことを親しみを込めて"先生"と呼んだ。


しかし、彼女がここまでの知識を持っているには少しばかりのワケがあった。

それは、ペリウィンクル自身に別の世界で生きた記憶があるからであった。


彼女が別の世界にて、魔法が存在しない世界で"彼"として生きていた頃、その世界では類を見ない程の大きな厄災が起こったことにより、"彼"という存在は死に、代わりにペリウィンクルが生まれたのである。

だが、歴史も兵站もミリタリーも好きだった"彼"の魂は、どういうわけか生まれたての彼女の肉体に宿り、結論としてはリヴェール連邦国の大統領が誕生したのである。


しかし、当のペリウィンクル自身は大統領になる気は無かった。

彼女自身、仲間たちを連れて新天地に向かっていた際、仲間を守るためにそれなりに手を血で汚していたことや、目の前で仲間達を救えなかったこともあってか、自分自身が国民を導けるかどうかを危惧していた。


そのため、彼女は選挙という形で王を選ぶシステムを決めたのだが、それによって国民達が自分自身のことを如何に信頼し、如何に期待しているのかを実感したのか、大統領の座に就くことを承認したのである。


そういうわけで、リヴェール連邦国が建国して十八年が経った頃──暁光歴九五七年の三月、首都であるパーシーシティにペネロパ大陸の大国、テレゴネア王国の使節団が訪れていた。

彼らの目的はただ一つ、つい二年前に国際連合に加盟した亜人達の国、リヴェール連邦国を外交という名目で調査するためであった。


人間という種族である彼らにとって、リヴェール連邦国はさぞかし野蛮で、さぞかし低俗な国なのだろうと思い込んでいたのか、当初は自分達の国こそが世界有数の大国だと誇っていた。

現に、テレゴネア王国は魔法に関する技術がトップクラスだったため、彼らがそんな風に傲慢になるまで仕方のないことだった。


けれども、それはあくまで彼らがリヴェール連邦国に入国するまでの話で──大統領公邸の大食堂にて、晩餐会に参加していた彼らの顔には粉々になった傲慢さが滲み出ていた。

彼らがそうなるのも無理もなく、何しろ十八年もの間にリヴェール連邦国は大国へと成長し、その豊かさはテレゴネア王国を超えるモノであったからである。


というのも、北マルゴー大陸は魔法の素であるマナの量が極端が少ないため、ペリウィンクルは自らの知識をフル活用し、魔法に依存しない技術の開発を国ぐるみで着手。

そのことにより、リヴェール連邦国は魔法技術とはまた別の技術──別の世界で言うところの"科学"によって、リヴェール連邦国は大国へと成長していったのだ。


それに加え、ドワーフのように長命で職人気質のある種族によって、科学技術が発展するのと同時に娯楽文化も発展し、映画やミュージカルといったモノも続々と誕生していった。

──それはまさに、時代の節目とばかりに。


「いかがでしたか?我が国は歴史あるテレゴネア王国と違って、まだまだ歴史の浅い国ですが──楽しめたでしょうか?」


ペリウィンクルは使節団に向けてそう言った後、口角を上げるのと同時に柔らかな唇を動かし、彼らを安心させるように笑顔を浮かべた。

一方、大統領である彼女の笑顔を見たテレゴネア王国の使節団は、その表情の裏に何かを隠していると感じたようで、警戒と緊張の狭間で揺れ動いていた。


美しく、それでいて聡明な雰囲気を漂わせながらも、どこか霧や雲のように掴みどころのない彼女に対し、使節団のリーダーであるアンドレは本能的に食えない女だと理解したのか、食前酒として提供された林檎酒(シードル)を飲んでいた。


アンドレ自身は、ペリウィンクルと同様に非常に賢い部類の人間であった。

そのため、ペリウィンクルの笑顔の意味もそれなりに理解していた彼は、食事に舌鼓を打ちつつも彼女の動向を探っていた。


「これは中々....」

「お口に合ったのなら良かったです」


二枚貝のクラムチャウダー、肉厚なサーモンのソテー、ハーブバターとグレイビーソースの三元牛のステーキ、キャロットラペ、葡萄酒(ワイン)のシャーベット、それから飾り切りによって見栄えが良くなった林檎。

これらの食事が不味いはずもなく、使節団の面々は次第に劣等感を抱くようになっていた。


彼らに突きつけられた事実。

それは、テレゴネア王国よりもリヴェール連邦国の方が遥か先を行っているという現実で、パーシーシティを散策する形で見てきた彼らにとって、それが何よりの屈辱であったことには変わりはなかった。


「リヴェール連邦は、ペネロパ大陸の国々と比べればまだまだ未熟な部分があります。ですが....私はその部分を補い合っていける国にしたいのです」


そう語る彼女の言葉には嘘偽りはなかったが、その顔には作り物の笑顔が浮かんでいた。

それはまるで、亜人をナメるなとばかりに。


魔法に依存しない高度な文明に、民衆達の心を満たす娯楽。

これらの文化が発展している以上、リヴェール連邦国を敵に回すととても厄介なことになる。

それが、アンドレ率いる使節団の結論であった。


当のペリウィンクル自身は相変わらず笑顔を浮かべていたが、その脳内では万が一のことを──テレゴネア王国との戦争のシミュレーションをしていた。


今回の一件がどう動くかは、彼ら次第なのかもしれない。

彼女の顔色を観察しているアンドレを尻目に、ペリウィンクルはそう思いながら林檎酒(シードル)を一口飲むと、脳内でチェスをするかのように戦争のシミュレーションを行った。


そして、晩餐会は進み──使節団がホテルへと戻った後、ペリウィンクルはお気に入りの銘柄の葉巻きを吸いながら、オーク族の側近であるギャビンの方を向くとこう言った。


「ギャビン──この出来事は、良い意味でも悪い意味でもテレゴネア王国内で波紋を与えるかもしれん」


リヴェール連邦国の大統領として、国家間での面倒事は避けたいという様子の彼女だったが、その読みは最悪なことに当たっていたようで──後々このリヴェール連邦国が世界を巻き込む大戦の中心になることなど、この時のペリウィンクルが想像していなかったのは言うまでもない。

そして、その大戦に後に"亜人大戦"と呼ばれるようになるのだが、それはまた別の話である。

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― 新着の感想 ―
読ませて頂きました! 第一話から津波のような情報波にの溺れかけましたが、 こだわりの世界観の描写。舞台の説明から、情勢、国の成り立ちまで、事細かに描写をなされているなと思いました!この大波を乗りこなせ…
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