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クリスマスプレゼントと子鬼のいたずら

作者: ウォーカー
掲載日:2025/12/21

 12月24日、クリスマスイブ。

本番のクリスマスを翌日に控えたこの日、サンタクロースは年に一度の大忙し。

トナカイに魔法のソリを引かせ、世界中の子供たちに、

クリスマスプレゼントを届けて回る。

そう、サンタクロースは実在する。

ただの人間ではない、サンタクロースはある種の魔法使いとして存在している。

外見はよく知られている通り、赤い服を着た白髪の老爺。

しかしその実はただの人間などではない。れっきとした人外の一種。

そんなこと人間は知らない、しかし妖怪や人外の世界では当たり前の話。

もちろん、サンタクロースが人間たちに持て囃されているのも知られている。

そんなサンタクロースの人気を妬むものたちがいた。


 鬼族は、特にサンタクロースを嫌う種族の一種だ。

その姿はサンタクロースと同じくらい有名な、虎柄の腰巻き姿だ。

鬼は人間が死んだ後の魂を導く役割を担っている。

年に一度、クリスマスにしか働かないサンタクロースと違って、

鬼族は年中休みなく人間たちの面倒を見ている。

「人間はサンタクロースに感謝する以上に、我々鬼族にも感謝するべきだ。」

鬼族のものたちは、いつも人間とサンタクロースに不満を持っていた。

「こうなったら、サンタクロースのプレゼントにいたずらしてやる。」

そんなことを考えたのは、鬼族の子供、ある一人の子鬼だった。


 その子鬼は、クリスマスに持て囃されるサンタクロースを妬んでいた。

そして、サンタクロースが人間に嫌われるような、

いたずらをしてやろうと考えた。

「どんないたずらをしてやろう・・・そうだ!」

鬼族は私物をほとんど持たない。

そこで、その子鬼が思いついたいたずらは、こんな内容だった。

サンタクロースは子供たちにプレゼントを配るため、

プレゼント袋にクリスマスプレゼントを詰めている。

その中に子鬼が入り込み、人形のふりをする。

そうして子鬼が化けた人形を、

人間の子供がクリスマスプレゼントとして受け取れば、

やがて人形は子鬼だとわかり、子供は怖がり大騒ぎになることだろう。

プレゼントが呪われていたと、サンタクロースが批判に晒されるかもしれない。

子鬼は誰にも見つからないよう、サンタクロースのところへ向かった。

鬼族などの人外は皆、繋がった空間にいる。

だから行こうと思えば、鬼がサンタクロースに会いに行くこともできる。

実際に子鬼がサンタクロースのところへ行くと、

思った通りサンタクロースは大忙しでプレゼント配りの準備をしていた。

その隙をついて、プレゼント袋の中に潜り込んだ。

後はじっとしていれば、サンタクロースが子鬼を人間の子供に届けてくれる。

「くくくく・・・おいらを見た人間の子供は、どんな顔をするだろう。」

子鬼はいたずらの準備万端、サンタクロースの出発を待っていた。


 それからしばらくして、サンタクロースの準備は終わったようだ。

「トナカイたち。

 今年も世界中の子供たちにプレゼントを配ってまわるぞ。

 それっ!」

掛け声一つ、サンタクロースとプレゼントを乗せたソリは、空を駆けていった。

すると空間に虹色の穴が空いた。

その中は、人間たちがいる地球へと繋がっている。

サンタクロースのソリは勢いよく、穴の中に入っていった。

プレゼント袋の中に子鬼が混じっているなど、

サンタクロースにも思いもよらないことだった。


 12月24日、クリスマスイブの夜。

夜空を流星のように駆けていくサンタクロースの姿があった。

しかしその姿は、人間の場合、子供の目からしか見えない。

大人が見ても、夜空がキラキラと輝いているように見えるだけ。

それでも、人間の大人たちは、クリスマスイブの夜空の輝きに目を奪われた。

そのキラキラは家々を巡っていく。

眠っている子供の枕元、できれば靴下の中に、

クリスマスプレゼントを入れていく。

ぐっすり眠っている子もいれば、

サンタクロースを待ちわびて眠れない子供もいる。

そんな子供には、ちょっぴり魔法をかけて眠らせる。

サンタクロースは決して子供たちに姿を見せない。

子供たちの夢を傷つけないため。影響を与えないため。

夢は夢のままであるように。

サンタクロースは人知れず、子供たちにクリスマスプレゼントを配っていく。

そうして何気なくプレゼント袋に手を突っ込んで、

サンタクロースは首を傾げた。

その手には、子鬼が握られていた。

サンタクロースは怪訝な顔で子鬼を見ている。

「はて、こんなプレゼントを、用意しただろうか?」

正体がバレないよう、子鬼は顔も体も一切動かさない。表情も固まったまま。

するとしばらくして、サンタクロースは思い直したようだ。

「鬼の人形なんておもちゃも、欲しがる子供がいるかもしれないな。」

一箇所にいくらも時間を割いてはいられない。

サンタクロースは子鬼を人形だと思い、クリスマスプレゼントとして、

その家の子供の枕元に置いた。

そして次の子供のところへ、ソリで駆けていった。

残された子鬼は、サンタクロースの姿が見えなくなるまで、

人形のふりをしていた。


 クリスマスプレゼントの人形として、人間の家に入り込んだ子鬼。

やがて人の気配が無くなると、体の硬直を解いてため息をついた。

「はぁ~、疲れた。

 あやうく、動いちゃうところだったよ。

 でも、あのサンタクロースの爺さんは上手く騙せたようだな。」

体の関節をコキコキといわせながら、子鬼は部屋の中を見た。

部屋はカーテンの隙間から漏れる月明かり以外は真っ暗で、

辛うじて自分が、人間のベッドの枕元にいることだけはわかった。

こう暗くては、いたずらどころではない。

「朝になるまで、おいらも寝かせてもらおう。」

子鬼はベッドの枕元に横になった。

ベッドには、何者かが小さな寝息を立てていた。


 朝。日がすっかり上り、明るくなった頃。

ベッドに横になって眠っていた者が、目を覚ました。

人間の小さな男の子だった。

その男の子はむくりと上半身を起こすと、ベッドの枕元を見た。

そこには、子鬼がすやすやと眠っていた。

子供は子鬼の姿を見つけると、喜んで鷲掴みにした。

「イテッ!何だ何だ?」

寝ぼけまなこの子鬼の言葉に耳も貸さず、

人間の子供は子鬼を掴んで部屋を出ていった。

階段を一段飛ばしに駆け下りて、リビングにいた両親に言った。

「パパ、ママ!これ、クリスマスプレゼント!?」

「ああ、そうだよ。お前の欲しがってた人形だ。」

てる、気に入ってくれた?」

「うん!ありがとう!」

子鬼をプレゼントに貰って、人間の子供は喜んだ。

これも、サンタクロースの魔法の一つ。

希望とは違うプレゼントでも、意識の方が希望を書き換えてしまう。

だから多少クリスマスプレゼントが予定と違っていても、

不自然には思われないようになっている。

どうやらこの家の子供は、

遊ぶための人形をクリスマスプレゼントに欲しがっていたらしい。

その人形である小鬼を掴むと、手足を動かして遊び始めた。

「パンチ!キック!喰らえ必殺技、メガナックル!」

子供に手足を滅茶苦茶に引っ張られて、子鬼は危うく声を出しそうになった。

サンタクロースの魔法にも限度がある。

おもちゃの人形がしゃべったりすれば、魔法が解けてしまうかもしれない。

子鬼は人間の子供の荒っぽい扱いに必死に耐えた。

「まだだ。驚かすには、もっと時間をおかないと。」

子鬼はいたずらの機会を伺っていた。


 子鬼がクリスマスプレゼントとして届けられた家は、

随分と忙しい家のようだった。

朝から流れ作業のように、家族は朝ごはんを済ませていく。

その後は、父親と母親は慌ただしく出社するために家を出ていった。

それからしばらく後、子供が一人、学校へ行くために家を出ていった。

朝は朝で忙しく、夜は夜で両親も子供も帰りが遅かった。

話に聞き耳を立ててみると、

どうやら両親は共働きで仕事が忙しく夜は帰りが遅く、

子供は子供で習い事が多く、やはり夜の帰りは遅かった。

だから、両親と子供が顔を合わせるのは、

朝出かけるまでのささやかな時間と、夜帰ってきてから寝るまでの時間だけ。

だから、子供は家でおもちゃで遊ぶ時間もあまり無く、

おもちゃの人形たる子鬼は、ほとんどずっと家で一人っきりで過ごしていた。

「・・・暇だな。」

そう思っていたのは、最初の数日間だけ。

その後は、暇よりも寂しさの方が上回ってきていた。

「一人っきりは寂しいな。

 この家に人が帰って来る時間は少ししかないし、

 人形のおいらが鬼だと種明かしするにはまだ早いし。

 おいらの家の父ちゃんと母ちゃんも心配してるかな。」

とはいえ、鬼の家も似たようなもので、

鬼は人間の魂の面倒を見るので手一杯で、子供を放っておくのも珍しくない。

その子鬼の家もそうだった。

だから、子鬼がいなくなったことにも、きっと気が付いていないことだろう。

だからこそ、子鬼はこんな大胆ないたずらができるのだった。

子鬼が正体を現す機会を伺っている間に、クリスマスは終わり、

年末が近付いていた。


 年末近くになって、子鬼が忍び込んだ家に、電話がかかってきた。

子鬼でも人間が電話を使っていることくらいは知っていた。

声を聞いていると、どうやら相手は子供の祖母のようだった。

父親が電話で話をしている。

「そうなんだよ、母さん。

 今年も僕も恵子けいこも仕事で忙しくて、照も習い事があるから、

 帰省するのは大晦日になりそうなんだ。」

「まあ、そんなに忙しくしてて、大次郎は大丈夫なの?」

「僕は大丈夫。ただ、あまり長くは帰省できない。」

「それじゃ仕方がないねぇ。

 私は、あんたたちが帰ってきてくれるのを、心待ちにしてるよ。」

「ああ、照にも伝えておく。」

そんなやり取りの後、電話は切れた。

「まったく、母さんの寂しがりも困ったものだ。」

「初孫ですもの。大事にしてくれてるのよ。」

「それはそうだが・・・。

 照、今年も大晦日はお婆ちゃんの家に行くからな。」

「ええ~、面倒くさいなあ。僕は家でゲームでもしたいんだけど。」

「そんな事言わないの。」

祖母が寂しがっている反面、この家の両親と子供は、

祖母に会いに行くことに消極的なようだった。

なんとなく、胸に引っかかるものを感じながら、

子鬼は人形のふりを続けていた。


 それから数日が過ぎ、とうとう一年の最後、大晦日になった。

子鬼が潜り込んだ家の両親と子供は、車で祖母の家に帰省するようだ。

ありがたいことに、

子供はクリスマスプレゼントである人形の子鬼をまだ気に入ってくれていて、

祖母の家まで一緒に連れて行ってくれるようだ。

「よかった。何日も家に一人っきりなんて、寂しすぎるよ。

 それに、婆さんの家に行くなら、いたずらするチャンスかもしれない。」

子鬼は相変わらず人形のふりをして、車に乗り込んだ。

「それじゃあ行こうか。」

機械的なエンジン音がして、外車が軽やかに走り始めた。

その中に本物の子鬼がいるなど、誰も思っていなかった。


 車は道路を走り、高速道路を走り、自動車道を走り、随分と長く走っていた。

どうやら、この家の実家は、随分と地方にあるようだった。

車の中で子供の退屈しのぎに、子鬼は散々に弄ばれた。

「早くお婆ちゃんの家につかないかな~」

そう思っていたのは、子供だけではなかった。

数時間をかけ、出かける時は頭上にあった太陽がとっぷり沈んだ頃。

山に囲まれた田んぼだらけの場所に、やっと目的の家が現れた。

子鬼たちが乗った車は、スピードを落とすと、その家の駐車場に止まった。


 「いらっしゃい!待ってたよ。疲れたでしょう?」

歳を取った老婆が、父親、母親、子供の一家三人を温かく迎えた。

どうやらこれが父親の母親、つまり祖母らしい。

老婆はこぼれるような笑顔で三人を迎えた。

それに対して、父親、母親、子供の三人の反応は、冷めたものだった。

「遠くて大変だったよ。」

「流石に毎年となると、帰省もちょっと負担に感じますね。」

「お婆ちゃん、何かおもちゃ無いの?」

そんな反応に負けないくらいの笑顔で、老婆は応じた。

「お鍋の用意をしてあるから、夕飯にしましょう。

 あなたたちの好物をたくさん入れてありますからね。

 それから年越しそばもありますよ。

 おもちゃだったら、知恵の輪や積み木があるよ。」

「それ、いつもと一緒じゃん。」

「こら、照。そんなこと言わないの。

 お世話になります。」

「僕は鍋よりビールが欲しいなあ。」

そうして一家四人は、家の中に入っていった。

鍋の用意をする時、老婆が仏壇にそっとお供えをしているのを見て、

子鬼はこの家の祖父が既に亡くなっていることを知った。

しかし、父親も母親も子供も、そんなことは気にもしてないようだった。

一人で手を合わせる老婆の姿に、子鬼はやはりわだかまりを感じていた。


 こうして子鬼が潜り込んだ武田家での一家団欒が始まった。

この家が武田姓だとわかったのは、老婆の家の表札を見たから。

大晦日の夜、温かい鍋を家族四人で囲っている。

それは一見、一家団欒のようで、やはり何かがズレていた。

父親はビールを飲みながらテレビで野球番組を見てばかり。

母親は、おもちゃが欲しい、お菓子が食べたいとグズる子供に付きっきり。

折角老婆が用意した鍋をちゃんと食べているものは、誰もいなかった。

野菜も肉も魚も山盛りに用意されたまま、ほとんど手をつけられていない。

そんな時、母親がふと父親に言った。

「あなた、あまり飲みすぎないでくださいね。

 明日があるんですから。」

「おっと、そういえばそうだった。

 母さん。僕たち、明日の昼には帰るから。」

「ええっ?そうなのかい?

 せめて三が日くらいは、いてくれないかしら。」

「仕事が忙しくてね。三が日全部をここで過ごすわけにはいかないんだ。」

「お義母さん、また年末に伺いますから。」

「僕、早く帰ってゲームやりたい。」

子鬼にもわかった。

この一家団欒は見せかけだ。

老婆の心に応える相手は最初からいなかったのだ。

子鬼はなんだか老婆が気の毒になって、歯を食いしばっていた。


 翌日、1月1日、元旦。

父親と母親は、本当に帰り支度を始めていた。

「帰りまで渋滞に巻き込まれたくないからな。」

「家帰ったらゲームやろうっと。」

子供も家に帰るのを楽しみにしているようだ。

老婆は寂しそうに、しかし精一杯の笑顔で見送っていた。

その時、子鬼に思いがけないことが起こった。

帰りを楽しみにするあまり、子供が人形を持って帰るのを忘れたのだ。

いや、正確に言うならば、子供が人形のことを忘れているようなので、

思い出さないよう、子鬼が身を隠していたという方が正しい。

子鬼は、一人っきりにされる家に帰るのを嫌っていた。

それよりは、寂しくしているこの老婆の家にいたいと、そう思ったのだ。

もういたずらなんてどうでもいい。

子鬼は老婆への義憤に駆られていた。

人形の子鬼を置き去りにしたことにも気が付かず、

三人はさっさと老婆の家から引き上げていってしまった。

その姿を見届けて、家の中に入ってきた老婆に、

子鬼はとうとう声をあげてしまった。

「婆ちゃん、どうして引き止めないんだよ!」


 子鬼はおもちゃの人形だった。

少なくとも、人間にはそう見えるよう、魔法がかけられていた。

それを子鬼は自ら解いて、老婆に話しかけてしまった。

そうせずにはいられなかったから。

だが幸いなことに、老婆はしゃべる子鬼を見ても驚かなかったようだ。

「おやおや、最近のおもちゃは、言葉をしゃべるのかい?」

そんなのんびりした反応に、子鬼は尚更腹を立てた。

「婆ちゃんは自分の息子夫婦や孫に粗末にされて、

 どうして文句の一つも言わないんだよ!」

すると老婆は、弱々しく笑ってみせた。

「お人形さんだったら、話してもいいかねぇ。

 ・・・本当は私だって、もっと話したいこともあったんだよ。

 でもね、年寄りと若い人とでは、話したい話題も違うんだ。

 それを無理に話を聞かせようとしても、聞いては貰えない。

 逆に嫌われてしまうかも知れない。

 せめてあの子たちには、私を嫌わずに覚えておいて欲しいんだよ。」

「覚えておいて欲しいって、それってどういう意味?」

「私ね、実は病気で、もう次は年越しできないだろうって、

 お医者さんに言われてるんだよ。」

老婆の体は病に蝕まれていた。

それでもなお、老婆はそんなことは一言も口にせず、

息子夫婦と孫を精一杯もてなした。

おそらく最期の一家団欒であることを知りながら、

それを粗末にされても、笑顔を貫いた。

老婆の献身に、子鬼は目に涙を浮かべていた。

「わかったよ、婆ちゃん。

 おいら、婆ちゃんと一緒にいる。

 婆ちゃんが死んだら、おいらが魂をあの世に連れて行ってやるよ。

 なんたっておいらは鬼なんだから。」


 それから、老婆と子鬼の二人の生活が始まった。

最初こそ老婆は子鬼をおもちゃの人形としか思っていなかったが、

話をしていくうちに心を開いていき、今では完全に人間扱い。

まるで祖母と孫のように親密になっていた。

「婆ちゃん、腰が痛いだろう?お米はおいらが研ぐよ」

「そうかい、悪いねぇ。

 ところであなたの名前はなんて言うんだい?」

「おいらかい?鬼に名前は無いんだよ。」

「そうかい。じゃああなたのことをてるって呼んでもいいかい?」

「ああ、いいぜ。おいらは今日から照だ。」

その名前は本来、孫の名前。

子鬼は老婆にとって孫の代わりなのだ。

それでも子鬼は喜んで引き受けた。

一人で居るのが寂しいのは自分もよく知っている。

だからこの老婆にはせめて寂しい思いをさせたくなかった。

だから孫の代わりになってやろうと思った。


 「照ちゃん、照ちゃん。」

老婆は子鬼をそう呼んで猫可愛がりした。

子鬼は可愛がってもらって、悪い気はしなかった。

老婆と子鬼とは別種族、しかも二人だけの家族団欒。

それでも老婆と子鬼にとっては楽しいひとときだった。

しかしそんな楽しい時間は、少しずつ短くなっていった。

医者の言う通り、病魔が老婆の体を蝕んでいった。

最初はちょっとした体の違和感から始まり、

やがて老婆は正常な生活をすることができなくなっていった。

食べ物もろくに食べられず、薬に頼る生活。

しかしそれでも、老婆は病院に入院するのを拒んだ。

「私は最期まで、家族との思い出が詰まった家に居たいんです。」

そんな老婆のささやかだが大事な願いを、医者は叶えてくれた。

時には意識を失うことがあっても、老婆は家に留まり続けた。

やがて寝たきりになった頃、老婆は子鬼に言った。

「照や、いや、そうじゃないね。

 今まで孫の代わりをさせていて悪かったね。

 名前のない小鬼さん。」

老婆の皮と骨だけの手が、子鬼の頬をそっと撫でた。

子鬼は老婆の手を取って答えた。

「ううん、おいらも楽しかったよ。

 おいらも人間みたいに名前が欲しいって思ったから。」

「そうかい。じゃああなたに名前を付けてあげようね。

 あなたはいつも一緒にいてくれたから、ともちゃんでどうだい?」

「伴、か。うん、いい名前だと思う。

 ありがとう、婆ちゃん。」

子鬼のその言葉は老婆に聞こえたかどうか。

老婆は既に動かぬ体になっていた。

こうなることはわかっていた。

でも子鬼は悲しんでばかりはいられない。

人間の魂をあの世まで導くのは、鬼の役割だから。

「婆ちゃん、こっちだよ。」

子鬼は、老婆の魂をともなって、あの世へと上がっていった。

本当の家族は未だ祖母が亡くなったことすら知らない。

でも、それでも、老婆はちっとも寂しくなかった。

伴がいてくれたから。

そして伴もまた、鬼の役割を果たすのが嬉しかった。

こうして人と人外の家族は、人知れず、この世を去った。

思い出の中の老婆は、いつも笑顔を浮かべていた。



終わり。


 今年ももうすぐクリスマス。

一年に一度だから許されるとは言え、

サンタクロースばかり持て囃されるのも悔しく思って、

サンタクロース以外が主役のクリスマスの話を書きました。


サンタクロースは子供にしかクリスマスプレゼントをくれません。

しかし鬼は、悪い人間は老若男女問わず懲らしめてくれますし、

あの世に行く時には魂を導いてくれます。

そういう点では、サンタクロースは鬼より残酷です。


この話を書く時に、サンタクロースに助けてもらえない人が、

鬼に助けてもらえる話にしたいと思っていました。

サンタクロースに見捨てられたような人たちが、

せめて鬼には魂を看取ってもらえるように。


お読み頂きありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
なんだか切ないですね・・・ 子鬼もこうなるとは思ってなかったでしょうが・・ 家族の繋がりどうか鬼に頼らずとも残って欲しいものです
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