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灰かぶりのレオン ー悪役令嬢に捧ぐー  作者: ルル・ルー


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5.金策



「小遣いでは10枚が限界か……」


カミルの言っていた金貨10枚は、日本円で言うと1000万であり、子供が持つには過ぎた金額である。

しかし、ラフィリアを守り切るには、到底足りない金額である。


どのような方法を取るかはおいおい考えていくとして、予算オーバーでできませんでしたなんてことは避けたい。

もっと莫大な資金を工面するには、家の中で収まっていてはいけないのだろう。


何か店でも作るか?

いや、でも経営のノウハウなんてないし、失敗は目に見えている。

そもそも店は元手がいるし、利益を長期的に見なくてはならない。

一発では手に入りづらいだろう。

期間で言うと半年ぐらいで純利益金貨100枚ぐらいはいって欲しい。


小売は却下か。

となると……


「そうだな……。カミル、この家に魔術と魔道具の本はどれぐらいある?」


「初級のものであれば数冊ございます。専門性の高いものとなると王都中央図書館か王城の書庫になるかと」


「取り寄せるのは難しいか?」


「旦那様にご相談させていただいてからになるかと」


「そうか、まあとりあえずは家にあるものを読むか。朝食が終わったら部屋に運んでくれるか?」


「かしこまりました」




***




それから数日は、本を読むために食事以外は部屋から出ない生活が続いた。

両親は俺のあまりの変わりように心配して声をかけてくれるが、問題ないことを伝え続けて10日ほど。

家にある本を読み切り、しっかりと知識として定着させることができた。

そして次に着手したのは地政学だった。

まぁベースが中世ヨーロッパであるこの世界の時代背景的に、軍事に関する書籍なんて家に置いていなかったのだが、ほんとうに初歩の初歩の内容を読み込む。


「まぁこれならいけそうか。おーい、カミルー」


しばらくするとカミルが部屋にやってきた。


「お呼びでしょうか」


いつもどこから聞いているのか不思議だが呼ぶときてくれるのだ。

盗聴器的なものでも仕掛けられているのだろうか。それならこの発案は死んでしまうのだが。


「紙の束とペンを持ってきてくれ」


「かしこまりました」


そして持ってこられたのはこの世界では貴重な紙と、綺麗な羽ペン。

羽ペンに関しては初めて見るものである。


「綺麗だね」


「旦那様がご用意されておりました。最近勉学に励んでおられるので、必要になるだろうと」


「へー」


金色の羽は多分俺の瞳の色に合わせているのだろう。


「なんの羽なんだろ」


「オーロラホークの羽に装飾を施したものかと」


「へー」


なんか高そうなんだが使って良いのだろうか。

オーロラホークは世界中に存在するが個体数が限られていて保護の対象となっている。

羽が綺麗で密猟が後をたたないが、これは流石に合法だろうな。

父は清廉潔白が服を着て歩いているような人だし。


まあくれると言うならありがたく使わせてもらおうか。


インクに浸した真新しい羽ペンでカリカリと白い紙に文字を記していく。


形態は、まぁ高校で使った論文のテンプレを真似させてもらおうか。

数枚に渡り文字を記し、誤字がないかカミルに確認してもらうのを並行して行う。

次第にカミルの顔色が青白くなり、終いには眉間に皺が寄り始めたが、その反応なら上々であろう。


そして結論まで書き終わり、設計図の方に移る。


イヤーカフと同じ見た目をした物の、その中身の構造を書き込んでいく。

通信を行う術式と暗号化術式、魔石を使った低燃費の魔力バッテリーの術式の構造。


最後に人の横顔のその耳にそれを装着している図を書いて完成である。



「ふぅ、できた。ってもう日が暮れる時間か。カミル誤字はなかったか?……カミル?」


振り返ると最高に顔色のよろしくないカミルが立っていた。


「レオン様、これほどの情報をどのように……」


赤ん坊のころから見ていた子供の、知らない一面に面食らっているらしい。

しかしその問いに答えることはできないので曖昧に笑う。


「まぁ、とりあえずは秘密ってことで。夕食の前に父さんのところに行こうか。アポ取ってくれる?」


「かしこまり、ました」


俺に書類を戻し、ふらふらと部屋を後にした。




「やあレオン。羽ペンを使ってくれたんだってね。書き心地はどうだった?」


「スルスルかけて良かったですよ」


「それなら良かった」


茶色の髪をかき上げて眼鏡をかける父は、完全に仕事モードである。

できる男な雰囲気にいつもかっこいいと感じている。


部屋の中には副官や従者がいて、末っ子の俺に温かい眼差しを向けてくる。


普段は王城の軍部に勤めている父だが、領地もあるので週に2度は家に籠る日がある。

ちょうど今日がその日だったのだ。


「また昔みたいに父さんの膝に乗るかい?」


その言葉に苦笑いを返す。


「何歳の時の話をしているんですか?」


4,5歳ごろまではこの部屋にやってきては父の膝に乗り、その仕事ぶりを観察していた。

兄がこの椅子に座って自分がそれを支えるのが、自分の未来なのかななんて思いながら。


「今日は父さんにお願いがあって来たんです。カミル、書類を父さんに」


「かしこまりました」


いまだに顔色の悪いカミルに父が首を傾げるが、手渡された書類に目を向けた。


「これは……。すまない、ほかの者は席を外してくれるか?」


皆が何事かと目を合わせるが、当主の言葉に異を唱える者はおらず、頭を下げて部屋を出ていった。


「『魔導通信機(耳装型)による、軍事優位性の向上』、ね」


皆がいなくなったのを確認して、そう言い残し無言で書類を読み進める父。


しばらくは静かな部屋に紙をめくる音だけが響く。

そして読み切ったのか、ため息と共に眼鏡を外して目頭を揉み始めた。


それを見て口を開く。


「これを匿名で軍部に送って欲しいんだ。偽名で口座を作るから、国からはその情報料を入れて欲しい」


頭痛でもするのかさらに顔が険しくなる父。


「ここまで淡々と書かれると、レオンが戦争に関心がないことはわかるよ。匿名なら名声も関係ない。目的はお金だね?お小遣いが足りなかったかな?」


「これからのことを考えるとまとまったお金が欲しいんだ」


「何をするつもりなんだい……、……はぁ。まぁ良いだろう。いろいろ疑問は残るが、息子であることに免じて聞かないでいてあげるよ。そもそも言うつもりもないだろう?」


「まぁ、そうですね」


「なら良い。口座はこちらで作っておく。ーーさて、これから忙しくなりそうだ。私は今からこれを軍部に持っていくよ。夕飯は一緒に取れそうにないことを伝えておいてくれ」


「分かりました」


立ち上がり身支度を整える父を見ていると、すれ違いざまに頭を撫でられた。


「お疲れ様、このところ寝れていないと報告があったよ。しばらくはゆっくりと休みなさい」


「……はい」


「まだまだアイデアはあるんだろ?無理しないことを条件にしてくれるなら、受け付けるよ」


そう言い残して部屋を出ていってしまった。


まずは一歩前進か。

父が前世の父と似たような性格で助かった。

聞かれたくないことは聞いてこないし、こっちの願いは最大限聞いてくれる。

器の大きい男はやっぱりかっこいいものだ。


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