4.人生の指針
「おはようございます、レオン様」
「……あぁ」
自分で布団に入った記憶がない。
どうやら馬車で寝落ちしてそのまま朝を迎えたらしい。
テキパキと仕事をするカミルに身を任せ朝の支度が済まされていく。
夢見はだいぶ悪かったが、顔を洗えばスッキリした。
ふと思いついたこと口にする。
「なぁカミル。例えば俺が父さんに小遣いをねだるとして、与えられるのはいくらぐらいになると思う?」
「現在が月に金貨一枚ですし、10枚ぐらいでしょうか。理由にもよりますが」
金貨一枚でおよそ100万円である。
さすが貴族の家は桁が違うな。
ふむと考えるそぶりを見せる。
これからどうするべきか、考える。
この世界で生きる意味を。
この世界にはラフィリアがいる。
つまり、いつか見たあのゲームの中の世界か、それに酷似した世界なのだろう。
俺がそのゲームを知ったのは中学生の時。
当時付き合っていた彼女が乙女ゲームにハマっていて、プレイしているのを後ろから何度も見ていたのだ。
俺が人と付き合えるようなメンタルをしていないのはお気付きだろうが、人当たりの良かった俺に告白してくる子は数人はいたのだ。
基本来るもの拒まずだったし、俺が尽くしたがりだったからか、みんな一年ぐらいは続いていた。まぁ、その全員に『重い』って理由で別れを切り出されたのだが……。
彼女曰く、よくある王道のファンタジー乙女ゲームらしい。
ヒロインがいて、攻略対象がいて、悪役令嬢がいる。
使い古されたテンプレーションだが、彼女はだからこそいいのだと熱く語っていたのを覚えている。
進行していくストーリーをぼんやり眺める中で、どこか鮮明に見えたのが悪役令嬢のラフィリアだったのだ。
王太子の婚約者である公爵令嬢として、婚約者に情を寄せるヒロインを煙たがり、次第にヒートアップしていく陰湿なイジメ。
裏社会の人間を使ってヒロインを攫ったり、魔物を暴走させて襲ったり。
ヒロインはいつも生死を彷徨う一歩手前のところに立たされていた。
ーーなかなか過激な内容だね
ーーこれぐらいがいいんじゃない
ーー君がヒロインになったら真っ先に死にそうだけど?
ーーそれはそれ、これはこれ。ゲームの中ぐらい強くいさせてよ
ーーそりゃそうか
ーー■■君なら誰を攻略する?
ーー俺?俺か……
俺に男の趣味はない。
ただ彼女から向けられるキラキラした目は期待に満ちていて、誰かを選ばざるを得なかった。
そこでピンときたのだ。
男を選ぶ必要はないのだと。
ーーまぁ俺ならラフィリア一択かな
ーーえぇぇぇぇ⁉︎よりによって悪役令嬢?女の趣味最悪ね
ーーそうか?綺麗な顔してるし、構ってって必死にアピールしてるのは可愛らしいと思うが
ーーうわー、さすが■■君
その言葉がどう言う意味だったのかはわからない。
ただ、本気で引かれてしまったのは分かった。
まあそれから2ヶ月ぐらいでその子とも別れ、ゲームのことなんて忘れていた。
内容をちゃんと思い出せるのは、きっと彼女が何回もそのゲームをプレイしているのを眺めていたからだろう。
あの時はなんとなく選んだラフィリアだが、昨日実際に会ってみて気づいた。
あの子は俺の生きる意味になりうると。
ただ彼女の人生に俺が登場するのは極力避けたほうがいい。
立場の問題もあるし、何よりーー
そう、何より、相手に認識さえされなければ、必要とされないこともないのだ。
あなたなんか産まなければ良かったと言う母と、兄ちゃんなんかいらないと言う弟の声が脳裏に染み付いて離れない。
ずっと幻聴のように頭の中で叫び続けている。
これ以上叫びの主を増やしたくはない。
そこで出た結論が、『関わらなければいいだけのこと』だった。
必要とされたいなんて言う、子供じみた願いそのものが不純でいらないものなのだから。
彼女にとって、7年後に起こることは大きな弊害であろう。
しかし、最愛の人が別の女に誑かされているのを見て悔しげに顔を歪ませる彼女もまた、彼女の一部なのだ。
もし修道院に送られても、それは彼女の人生。俺なんかが干渉して歪ませたくはない。
陰ながら彼女を支え、彼女の幸せを後押しするのが最適解だろう。
ゲーム開始まであと7年。
準備しようと思えばどうにかできる時間だ。
さて、差し当たっては金策を考えようか。
そうして思考を深く巡らせるのだった。
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