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灰かぶりのレオン ー悪役令嬢に捧ぐー  作者: ルル・ルー


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26/28

26.夜会



王城にある玉座の間では、華やかな夜会が開かれている。

遠方にある同盟国、カンマネイルの国王夫妻が国賓として招かれた外交の中で、大々的に歓迎するために開かれたものである。

その規模は王国最大級であり、国内外から多くの貴族が出席していた。


品定めや情報収集、あるいはマウントだったり、社交の場の交流は尽きることがない。


そんな中、ある夫妻は少年2人を引き連れて、挨拶回りをしていた。

そのうち1人の少年はすでに退屈しているようで、落ち着きなくあたりに視線を巡らせており、兄に嗜められている。


次の目当てを見つけ歩み始めていたところで、横から声をかけられた。


「やぁ2人とも、元気か?」


白髪交じりの初老の男の顔を見て、夫妻は目を見開く。


「義父上?」


「お父様、いらしてたの?」


予想外の顔に、背後にいる少年2人は少し緊張した表情を浮かべた。

そんな様子に目尻に皺を寄せる男性。


妻が体調を崩すようになって領地にこもっていたため、孫に会うのは赤ん坊の時以来だった。

領地を継がせる甥への教育が一旦の区切りを見せたため、久方ぶりに社交会に顔を出したのだ。


「もう1人の子は今日も連れてきていないのか?」


そしてそこにない顔に首を傾げる。


「いえ、今日は珍しく来ていますよ。こういう場所は苦手みたいなので、隅で休んでいます」


チラリと末っ子が1人になる理由になっている次男に視線を向けたのち、少し離れた会場の隅でカミルと共にぼーっとしている末っ子に顔を向ける。


その視線を追った男は目当ての少年を探し出し、その姿をじっと目に焼き付ける。

ただ立っているだけだが、隙のないオーラに思わず口端が上がる。

そして近くにいる2人の孫に視線を戻した。


「報告では聞いていたが、お前たちも元気そうで良かった。家内も顔を出せたら良かったんだがなかなか厳しくてな」


「まだ回復は難しいのですか?」


「散歩ぐらいなら日によればできるがな。王都までは持つまい」


「そうですか……」


「うちに来てくれれば幾らか元気になるだろうよ」


「この2人は学園がありますので。近いうちにレオンを向かわせましょう」


「そうしてくれ」


どこか切ない表情で笑う義父が12年前に見た光景と重なり、心が少しだけ重くなる。

大人3人は揃ってしんみりとした空気を醸し出し、何気なく再び末っ子の方に視線を向けた。


そして、その目当ての少年が、少年よりもはるかに幼い少女に絡まれ戸惑いながらも対応している様子に、揃って同情の色を帯びた笑みをふっと浮かべるのだった。





***





夜会に出席する約束をした日、王子には俺宛に招待状を出さないよう言いくるめ、あくまで家の付き添いとしてこの場所にやって来たのだが、会場に入るや否や、次兄からの恨めかしい視線を浴びせられてしまった。

どうにも居た堪れなくなり、戦線離脱を選んだ俺は、父と母に断りを入れ、会場の隅でカミルと2人でじっとしていることにしたのだ。


この2か月の間、どうにか納得の精度に至ったクリスタルガラスのワイングラスは、先日の外交でカンマネイル王室に贈呈され、大いに好評だったようだ。

希少価値を高める、ためあまり数を作るつもりはない。

現在、それを入手できるルートを確保できているのは王妃だけなので、これからも外交のカードとして重宝されそうである。


現在、すでに国王やカンマネイルの国王夫妻からの挨拶の音頭は終わり、会場では貴族たちが挨拶回りのためにひっきりなしに動き回っている。

壇上では、マントと王冠、王笏など君主としてフル装備した威厳のある姿の国王が、来賓と花を咲かせていた。

その周りには王妃や王太子と共に、王子も大人しく座っており、王同士の会話に顔を強張らせたまま耳を傾けている。

王子とは王族が入場した時、割と早い段階で目が合った。俺の存在にあれでも緊張は少し和らいだ方である。



夜会中、王族は基本座ったままであり、よほどのことがない限りこちらに降りて来ることはない。この夜会で王子と話すことはないだろう。

ちなみに、王子が数年前の夜会で何を失敗したかというと、大勢の視線にビビって入場の時に躓いて転んだのだ。

当時5歳の王子にとって相当恐ろしかったのだろう。嘲笑する貴族たちと、羞恥で静かな怒りを込める母親の目を見れば、トラウマになってもおかしくない。

今のところひとつの失態も晒すことなく、順調に進んでいる。


「ちゃんとできたこと、今度会ったとき褒めないとな」


「ええ」


そんなことを言いながら会場を見回すと、貴族の養子として送り込んだクルトがいた。

父親と共に挨拶回りを行い、持ち前の爽やかさで順調に顔を広げている。

ちなみにコルネリアは現在領地にいるらしく、夜会には不参加である。



「ーーそれにしても、カミル。お前、爵位持ちだったんだな。さっき聞いて驚いたぞ」


ふと言いたかったことを思い出し口を開く。


入場時の身分証明書として、カミルの剣帯にある徽章が使われていたのだ。

いつも着けているものだったが、そこまでまじまじと観察したことはなかった。

門番も驚いていたが、俺も次兄も驚いた。ダン兄は知っていたようだが。


「騎士爵ですので、あまり効力はございませんが」


「それでもだよ」


この会場に入れるのは基本貴族だけである。

例外といえば、城の使用人ぐらいで、貴族の子供たちは準貴族として親の同伴のもと出席している。


高位貴族でない限り、貴族の子供についているような従者は普通平民である。

カミルは学園を卒業しているので、貴族の子供ではあるのだろうと思っていたのだが、まさか一代限りとはいえ爵位を与えられていたとは予想もしていなかった。

近衛騎士時代に叙爵されたのだろう。騎士爵位持ちの近衛騎士であれば、王族に相当近い場所で働いていたと思われる。


「何か成果でも上げたのか?」


「……、学園に在籍している際にある方にお声がけ頂きまして。大きな成果と言えるものはございませんよ」


「?そんなものか」


少し言いづらそうにしているカミルの様子に、深く踏み入ることはやめる。

カミルの在籍中に王族でもいたのだろうか。


「……あー、一年だけなら国王陛下と被ってるか」


計算して導き出された答えに思わずつぶやくと、カミルは曖昧な顔で笑った。

これはこれ以上聞いても教えてくれないやつだな。


しかし学園は4年制である。

一年被っていたとしてもあまり接点はないように思えるが。



そんなことを思いつつ王子の様子を観察していると、いきなりジャケットの裾が控えめにくいっと引かれる感覚がした。

それに気付き振り向くが誰もいないため、ふと視線を下げると、俺の腰ぐらいの高さの少女がキラキラとした目をじっと俺に向けていた。


「えっ、と……」


どちらさんだろう。

全く見覚えがない。

こんな小さな子供、この夜会には出席しないと思うのだが。


水色の瞳に、淡いブロンドを可愛らしく結い上げている少女は、レースの多いブルーのドレスを身に纏っており、ふくふくの頬は今にも溢れ落ちそうである。

一瞬迷子かと思うが、その顔に不安の色は見られず、むしろどこか喜んでいるようにも見える。


いや、本当に、誰だこの子……。


どうしたものかとカミルに視線を向けると、いつの間にかその横にもう1人、男性が立っていた。

立ち姿がカミルと似ていることから、この少女の護衛か何かだろうと見当をつける。


「あの……」


「申し訳ありません。少し覗くだけだったのですが、あなたを見つけて駆け出してしまいまして」


「はぁ……」


人好きするような苦笑いを見せる男の言葉に、気の抜けた相槌しかできない。

俺のことを知っていることに疑問を感じていると、カミルが口を開いた。


「レオン様、その方はエルシェ王女殿下です」


「……」


その言葉に思わず息が詰まり、改めて少女のあどけない顔を見る。

確かに、言われてみれば王妃と同じ配色である。

キラキラした目でこっちを見るのも初対面の時の王子とそっくりであった。


全くの初対面であるはずなのにこんなに懐かれるとは。

王妃といい王子といい、ここの血筋の人間に好かれる匂いでも出しているのだろうか。


さらにどう扱えばいいのか分からなくなり、お付きの男に視線を向ける。


「王子殿下と同じように接していただければよろしいかと」


「それはちょっと……」


幼い女の子、しかも王女にあんなに素っ気ない口調では流石にダメだろう。

そう思っていたのだが、さらに裾がくいっと引かれた。


顔を向けると会話を聞いていたらしく、少し不貞腐れたように口を尖らせ、今度は両手を広げる王女。


抱っこをしろと言うことだろうか。


助けを求めるように再びお付きの男に視線を向けると、しかし笑顔で頷き返されてしまった。


それを見て諦めて膝をつき、小さな体を抱え上げ左腕に乗せる。


「軽いな……。殿下は何歳ですか?」


そう問いかけると、指折り数えた王女は、笑顔と共に小さな手で4を示した。


そこでやっと、王女がこの場で一言も発していないことに気付く。


こちらの問いかけに正しく返しているのを見るに、耳が聞こえていないわけではなさそうだ。

『話せない』のか『話さない』のかどちらかは分からないが、王妃が王女につきっきりなのもこれが原因なのかもしれない。


まだ公の場所に顔を出していないから噂は広がっていないと言うことか。

王子がこの頃に公に顔を出し始めたから、そろそろ隠すのも難しくなるだろうが。


それでもちゃんと意思疎通はできている。

生活する上ではあまり大きな問題はないかもしれないが、彼女にとってなかなか生きづらい世界かもしれない。


彼女の将来を憂いながらも、純粋な笑みに釣られるように笑う。


「4歳ですか。ちゃんと数えられて偉いですね」


そういうと、王女の瞳がさらに嬉しそうに輝き出す。

愛情を表現するように王女は俺と頬を擦り合わせ、ぎゅっと首に腕を回してくる。


世界を包み込むような幸せな感情が俺の胸にも一気に流れ込んでくるようで、思わず息が漏れた。


「あー、ヤバい。多幸感が半端ない……」


どうなってるんだこれは。

何か異能力的なものが働いているとしか思えないのだが。



ポヤポヤとした思考のままそんなことを考えていると、ふいに会場にいるオーケストラがチューニングを始めた。

それを合図に舞踏が始まることを察した貴族たちは、会話に一旦の区切りをつけ会場の中央を開け始める。


オーケストラが鳴り止み、そして会場の入場口である大扉が開かれた。



王太子とその婚約者、ラフィリア・オールドラン公爵令嬢によるファーストダンスが始まろうとしていた。


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