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灰かぶりのレオン ー悪役令嬢に捧ぐー  作者: ルル・ルー


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20/27

20.変身



医務室を退出した濡れネズミの俺は、体に張り付くシャツを不快げに持ち上げる。


「それにしてもびしょ濡れだな……」


「お体に障りますので、私が魔法で乾かしましょう」


「冷たい風で乾かされても悪化するだけだろ。あーあ、水魔法だったら一瞬なのになー。水魔法を使える人いないかなー」


「……」


俺の言いたいことに気づいてるカミルは、だんまりを決め込む。

そんな彼の顔を煽り気味に覗き込んでいく。


「わー、寒いなー、このまま帰ったら風邪ひいちゃうなー」


「……レオン様」


ようやく漏れた弱々しい声に、もう一押しかと考えていると、凛とした声が聞こえた。


「レオン・ベルティエ様」


「あ?」


もう少しのところでいきなり名前を呼ばれたことに振り向くと、隙の見えないメイドが立っていた。

明らかに平のメイドではない。


胸元にある紅の徽章がきらりと光った。

それを見て思わず眉を顰める。


俺の表情の変化にも凪いだ表情のまま、機械のようにこちらに頭を下げた。


「王妃殿下が、お着替えをご準備されております」


「なん……?……あー」


急に出てきた王妃の伝言に疑問を感じたが、先ほど最後に目が合った女性が、肖像画で見た王妃だったことを思い出す。


「カミル……」


気乗りしないが断れない誘いに、カミルに助けを求める。


「レオン様がお風邪を引かれないようで、このカミル、ホッといたしました」


裏切り者め。

胸に手を当ててにっこりと笑う顔に、イラッとして足に蹴りを入れる。

力を抜いたとはいえ、ノーダメージの涼しい顔にさらにイラっとするが、無駄な抵抗だと諦める。

全力でいってもカミルには勝てないとこは分かっている。


「はぁ……。分かりました。案内してください」


「こちらです」


背筋のピンと伸びたメイドに案内され今日の目的地だった王族の区画に入る。


そして目的地とは違う部屋に通された。

そこでは、来賓室のような場所にはメイドが5人ほど待ち構えていた。


「えっと……?」


まさか着替え担当か?

伯爵邸にも使用人はいたが、ここ5年ほどは基本自分のことは自分でしてきたので、世話を別れる予感に思わず後ずさる。


「お風邪を召されるといけませんので、湯を貯めさせて頂きました。私共がお手伝いをさせて頂きます」


「え、いや、け、結構です……」


「まあまあそう言わず」


肩に手を乗せられグイグイと押されていく。

先程まで隙を見せなかったメイドが、こんなところで茶目っ気を発揮している。


再び背後にいるカミルに助けを求める。


「カミル……」


「……、ご健闘を」


裏切り者め!!


どこか遠い目をしているカミルに心の中で悪態をつく。

そう言えばカミルはここが古巣なのか。

城のメイドたちの習性は知り尽くしているのかもしれない。


そうして俺はなす術なくメイドたちに服をひん剥かれ、風呂に沈められるのだった。


冷え切った体に程よい湯加減に力が抜け、ラベンダーの香りに包まれて一気に眠気が襲ってくる。

昨日あまり眠れていないのが余計に効いたのだろう。


「お湯加減はいかがですか」


「うん……」


「あら?……、レオン様、お眠りになられると危ないですよ」


「うん……」


ゆったりとした声にうつらうつらと船を漕ぐ。


そのまま夢現のまましばらくすると、気がつけば服まで着せられていた。


「?」


「お目覚めですか?」


化粧台の前に座る自分の姿に首を傾げる。

カミルの声に振り向くと、複雑そうな顔で笑っていた。


「化けられましたね」


「あぁ、そのようだ」


鏡に映る自分は髪までセットされ顔が前面に出ている。

久しぶりに見た自分の顔に驚いた。

服も相まって自分だとは思えない。


こういう時様になるから、体を鍛えていて良かったと思える。

俺の肉親のポテンシャルがやはり高いのだろうな。


メイドたちの方を見ると、やり切ったような顔で満足そうに笑っている。


しかしここまでされたとなると、このまま返してはくれなさそうだ。


そんなことを考えていると、扉をノックする音が響いた。


「レオンー、いるー?」


どこから聞きつけたのか、王子の声にカミルが扉を開きにいく。

立ち上がって王子を迎えると、入ってきた2人はその場でポカンと口を開けて固まった。


「レオン、だよね?」


「あぁ、俺自身も驚いてるところだよ」


そういって笑って見せると、いつもの俺と変わらない様子にホッとしたのか、体から力を抜いてヘラっと笑った。


「すごいね、びっくりしたよ。湖に落ちたって聞いたけど、大丈夫?」


「俺は落ちた子を助けに飛び込んだだけだから大丈夫だぞ」


「あー、それでこんなことに」


テテテっと近づいて来て間近から俺の顔を観察する王子。

物珍しそうなその顔に頬が緩む。


「そんなに変か?」


「ううん、キラキラしてて綺麗」


「それはようございました」


ふわふわと花が舞う俺たちの雰囲気にメイドが声をかける。


「王妃殿下がお待ちです。王子殿下も行かれますか?」


「う……」


「無理しなくていいぞ」


王子が家族とうまくいっていないのは相変わらずだ。

一番仲がましなのは国王らしい。

王妃は以前夜会で失敗してから目が怖くてさらに苦手になってしまい、王太子に至っては完璧すぎて引け目を感じているようだ。王女との交流もほとんどないらしい。

国王は忙しいなりに父親としてたまに様子を観にくるぐらいで、怖いこともないから普通に話せるとのこと。

程よく距離がある方がいいのかもしれない。


王子は人の悪意に敏感だからな。

最近では社交界に顔を出すことも少なくなっているため、余計だろう。

ここまで怖がるとなると何かありそうだが。


「少し待ってろ。すぐに終わらせてくるから」


そういって形のいい頭を撫でると、再びふわりと笑った。

最近の俺の癒しである。


「ではご案内いたします」


「じゃ、行ってくるなー」


メイドに連れられ、手を振りながらカミルと共に部屋を後にする。


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